藤井棋聖、次は「最年少名人」に注目 史上初の10代で二冠達成

最年少で二冠を達成し、記者会見で花束を手に笑顔の藤井聡太新王位=20日午後、福岡市内のホテル

 将棋の第61期王位戦7番勝負の第4局2日目が20日、福岡市で行われ、高校生プロの藤井聡太棋聖が木村一基(きむら・かずき)王位を破り、4連勝で王位を奪取した。7月16日に史上最年少の17歳11カ月でタイトル保持者となってから、わずか1カ月あまりで二つ目のタイトルに輝いた。18歳1カ月での二冠達成はやはり史上最年少だ。これまでの記録は1992年に羽生善治九段が王座と棋王を獲得した時の21歳11カ月だった。

 同時に、藤井二冠が最高の9段に次ぐ8段に昇段することも決まった。これについても加藤一二三・九段が持つ18歳3カ月の最年少記録を更新することになる。史上最年少の14歳2カ月でのプロ入りに始まり、数々の最年少記録を塗り替えてきた藤井二冠が次に狙うのは、獲得が最も難しいとされる「名人」を史上最年少で取ることだ。(共同通信=榎並秀嗣)

 ▽驚異的な成長スピード

島朗竜王を破り、初の10代タイトル保持者になった羽生善治六段=1989(平成元)年12月27日、東京・芝の東京グランドホテル

 羽生九段が初タイトルを獲得したのは1989年の第2期竜王戦だった。島朗九段との戦いは持将棋(引き分け)を含んで8戦までもつれたが4勝3敗で制した。19歳2カ月でのタイトル獲得は当時の最年少記録だった。

 タイトル通算獲得期数が歴代1位の99を数え、通算勝利数も1462勝(8月19日現在)を記録するなど「史上最強棋士」と目される羽生九段だが、二冠への道のりは平たんではなかった。

 90年11月には竜王の防衛に失敗。91年3月に棋王を獲得し、92年9月の王座戦で福崎文吾九段を下し二冠に輝いた。89年12月の初タイトルから2年3カ月かかった。

 対する藤井二冠はおよそ1カ月で達成した。初タイトルから二冠獲得までがこれほど短期間だったのは、南芳一・九段が24歳7カ月だった88年1月に棋聖、2カ月後の同3月に王将を取って二冠となって以来だ。史上初の「10代二冠」となった藤井2冠の成長スピードがいかに速いかがよく分かる。

最年少タイトルを獲得し、師匠の杉本昌隆八段(左)から花束を贈られる藤井聡太新棋聖=7月16日夜、大阪市の関西将棋会館

 ▽本年度中に九段昇段も

 二冠獲得したことで最年少での八段昇段も決めた。藤井二冠に破られるまで、プロ入りの最年少記録(14歳7カ月)を保持していた加藤九段は名人への挑戦権を争う順位戦でA級に昇級したことで昇段した。

 日本将棋連盟の規定では八段昇段は次に挙げる条件のいずれかを満たす必要がある。

 ①順位戦A級昇級②竜王位1期獲得③七段昇段後公式戦190勝④タイトル獲得2期。

 藤井二冠は④の条件を満たした。

 九段に昇段する可能性もある。九段の昇段規定は①竜王位2期獲得②名人位1期獲得③タイトル3期獲得④八段昇段後公式戦250勝―となっている。

 本年度中に行われるタイトル戦のうち、王将戦でタイトル獲得のチャンスがある。初タイトルでも対戦した渡辺明三冠を破ることができれば「③タイトル3期獲得」を満たすので九段に昇段。渡辺三冠が持つ21歳7カ月の昇段最年少記録を更新することになる。

第41期将棋名人戦第6局で、挑戦者の谷川浩司八段(21、写真右)が加藤一二三名人を破り、史上最年少で名人位を獲得、タイトル戦初登場での栄冠だった=1983(昭和58)年6月15日、箱根・ホテル花月園

 ▽険しい名人への道

 次に注目されるのが、史上最年少で名人を獲得できるかだ。現在、将棋界には八つのタイトル(竜王戦、名人戦、叡王戦、王位戦、王座戦、棋王戦、王将戦、棋聖戦)がある。その中でも名人戦は最高の権威、伝統、歴史を誇る。

 それだけにタイトル獲得への道のりが険しい。順位戦と呼ばれる挑戦者を決めるリーグ戦を勝ち抜かなければならないからだ。しかも、最上位のA級からB級1組、B級2組、C級1組、C級2組の5クラスもある。昇級は1年に1回しかない。さらに成績が残せなければ降格してしまう。

 挑戦者となれるのは、A級の優勝者だ。藤井二冠は現在B級2組なので、順調に昇級してもA級にたどり着くには2年後の2022年。順位戦は毎年6月に始まるので、02年7月19日生まれの藤井二冠は19歳だ。

 「最年少名人」は谷川浩司九段の21歳2カ月なので、A級1期目で挑戦権を獲得しなければならない。一つの失敗さえも許されない厳しい戦いが藤井二冠を待っている。

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