WEC:SC中のスピンは「自分のミス」山下健太がスパ・ウェザーの洗礼を受ける

 8月13〜15日、WEC世界耐久選手権第6戦スパ・フランコルシャン6時間レースがベルギーのスパ・フランコルシャンで行なわれ、TGR WECチャレンジドライバーの山下健太が乗り込むLMP2クラスのハイクラス・レーシング33号車オレカ07・ギブソンはクラス5位でチェッカーを受けた。その後、チームメイトの搭乗時間不足などに対するペナルティを受け、最終結果はクラス7位となっている。

 木曜朝にサーキット入りした山下は、2月の第5戦サーキット・オブ・ジ・アメリカズ以来となるチームメンバーと久々に再会すると、さっそくエンジニアやチームメイトらとコースを歩いて1周。前週に同じくスパで開催されたヨーロピアン・ル・マン・シリーズ(ELMS)に参戦していたアンデルス・フィヨルドバッハやエンジニアからは、縁石の使い方やマシンセットアップの方向性、路面情報などが伝えられた。

 木曜午後4時半から始まったフリープラクティス1回目は、山下とマーク・パターソンのコース習熟を目的とし、まずはフィヨルドバッハがクルマを確認したあと、山下が7周を走行。その後山下とパターソンで交互にステアリングを握り、90分のセッションを終えた。

「コースはすぐに覚えましたが、オー・ルージュは本当にすごいですね。みんなからすごい、すごいというのは聞いていたんですけど、1周目走った時に目が回りました」とこの日の走行を終えた山下。

「レースをしていてあんな感覚になったのは初めての経験です。クルマはかなりオーバーステアが強い感じですね」

 金曜朝9時30分から11時まで行なわれたフリープラクティス2回目では、予選と決勝に向けた走行を開始。山下はこのセッションでニュータイヤを試したあと、燃料を積んで決勝を想定したクルマのバランスを確認した。

「クルマはリヤのコーナーダンパーのスプリングレートを下げて昨日よりかなり柔らかくなり、キャンバーも減らしてありました。それでもクルマは軽くても重くてもまだオーバーステア気味です。とくに高速コーナーが全開でいけてないのは解決したいです」

「あと新品タイヤのグリップのピークも感じることができませんでしたので、内圧とかを調べてもらっています」

 金曜午後2時から1時間のフリー走行3回目は、セッション中盤から山下が新品タイヤでの予選シミュレーションを行なう予定だったが、コースの側溝が外れるアクシデントにより赤旗が提示され、結局山下は計測することができなかった。

 午後6時半から行なわれたLMP予選は山下とフィヨルドバッハが担当。2番目にアタックした山下はセクター2までは順調に来たものの、セクター3でトラフィックに引っかかり、コンマ6秒以上をロス。ハイクラス・レーシングはクラス6番手からスタートすることとなった。

「トラフィックがなければ余裕で2分3秒台に入っていたと思うので悔しいです」と予選後の山下。

「クルマはリヤが不安定だったので完璧とは言えなかったですが、フリー走行の時よりは若干タイヤのピークを感じることができました」

 山下の予選アタックについてレースエンジニアは「予選までにケンタが新品タイヤで走れた周回数は6周ぐらいしかない。トラフィックがなかったら経験があるドライバーと同じタイムは出ていたんだから、文句なしのラップだったと思う。(前戦から変更となった)ミシュランタイヤの使い方もつかめてきたんじゃないかな」と分析する。

■「あまりにも危険」と急遽スタートドライバーを山下に変更

 土曜日の決勝レースは午後1時30分スタート。これまでのレースでは山下がスタートを担当し、レース序盤にポジションを争う展開だったが、今回はブロンズドライバーのパターソンがスタートを担当、できるだけポジションを前でキープしながら、最低乗車時間をクリアしたあとに山下とフィヨルドバッハで上位を目指す作戦だった。

 ところが決勝スタートの1時間ほど前から大雨が降り始め、直前の7分間のウォームアップ走行でもコースアウト車両が続出。このセッションで33号車はパターソンがステアリングを握ったが、あまりにも路面が危険な状態とのことで、チームは急遽山下をスタートドライバーに変更することを申請。それが認められ、山下がスタートを担当することとなった。

 セーフティカー(SC)先導でスタートしたレースは、4周を終えてグリーンフラッグが振られた。

  クラス6番手でスタートした山下は11周目に1台を抜きクラス5番手にポジションアップする。その後、雨も止み徐々に走行ラインが乾き始めたため、山下は20周目に再びピットインし、予選で使ったドライタイヤへと交換する。

 その後、グラベルに埋まったGTEクラスの車両を撤去するためSCが導入されるが、このSCラン中に山下はまだ濡れていた1コーナーでスピン。“スパ・ウェザー”の洗礼を受けてしまう。

 レース再開後は再び雨粒が落ち始め、山下は41周目にピットインしてドライタイヤでコースに向かうが、セクター3の雨脚が急激に強くなり、その周にもう一度ピットインしてウエットタイヤへと履き替えた。

 ここからのスティントがこの日一番雨が酷く、山下を始め多くのドライバーが「走るのは危険すぎる」と訴えるほどだった。53周目にSCが導入され、山下は60周目にフィヨルドバッハへとバトンタッチした。

難コンディションのスタートを任せられた山下。ポジションは上げたものの、予想外のミスをおかしてしまった。

 当初、ここからフィヨルドバッハが2時間を走行し、ルールで定められた最低乗車時間である残り1時間15分でパターソンに交代をする予定だったが、パターソンへの交代直前でSCが導入されてしまい、ピットクローズの影響を受けた33号車はピットインできず。

 ピットがオープンになったあとに交代を済ませると残りは1時間ほどとなっており、パターソンは最低乗車時間を満たすことができなかった。

 33号車はクラス5位でチェッカーを受けたが、この走行時間不足などの違反に対してスチュワードは、総周回数から6周と1分14秒を減算するという裁定を下し、ハイクラス・レーシングはクラス7位となった。

 スタートから3スティント・計2時間46分を走行した山下は「僕の最後のスティントの雨は水しぶきとかじゃなくて、降っている雨で前が見えなかった」とレースを振り返った。

「レース人生で一番ひどい雨でした。あの雨量でも赤旗にならないことも驚きです」

「SC中のスピンは自分のミスです。この週末の間にフルウェットからドライまで、考えらえるすべての路面を経験できたと思いますので、次にスパに来ても大丈夫だと思います」

 次戦、WECはいよいよシリーズ最大のイベント、ル・マン24時間レースを迎える。

LMP2クラスに参戦しているハイクラス・レーシングの33号車オレカ07・ギブソン

© 株式会社三栄