巨大「IRカジノ」は日本経済の足かせに

オンライン化とコロナ直撃、ハードの時代終焉

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米ネバダ州ラスベガス=4月27日(ゲッティ=共同)

 日本での統合型リゾート施設(IR)事業に意欲を示し、進出競争のトップランナーと目されていた米カジノ大手ラスベガス・サンズは5月、「目標達成は困難だ」として日本撤退を宣言した。同業の米ウィン・リゾーツも8月、横浜事務所を閉鎖。米MGMリゾーツ・インターナショナルは第2四半期決算報告会で、オンラインギャンブル路線の強化を鮮明にし、対日投資は「相応のリターン」があればとトーンダウンした。

 世界のカジノ市場は、新型コロナ感染で壊滅的打撃を受けている。浮き彫りになりつつあるのが「地上型カジノ」(ランド・カジノ)の構造的収益性の喪失だ。巨大ハコモノ施設による集客とカジノへの誘導で収益化を図るビジネスモデルの終焉が今、確実に始まっている。オンラインへと軸足が移る中、日本が「成長戦略」の要と期待するIRを巡る環境は厳しさを増しているのだ。(静岡大学教授=鳥畑与一)

 ▽パンデミック下の苦境

 世界最大のカジノ市場マカオでは2月初旬に全ての営業を停止。2週間後に再開したものの、前年比90%以上のカジノ収益減が続いている(表1)。感染防止対策で外国人観光客の入国が禁止され、中国本土などからの客も2週間隔離されることからマカオを訪れる人が前年比99%以上、減少し続けているためだ。

 米国では新型コロナ感染が深刻化した3月半ばからカジノ閉鎖が始まり、4月には全米989カ所が全て閉鎖した。6月4日から営業を再開したネバダ州のカジノ収益は4月と5月がほぼゼロとなった(表2)。シンガポールも閉鎖措置を受けた4月から6月はやはりほぼゼロ収益である。

 日本進出を狙っていた企業は、高収益を支えてきたカジノ市場消滅による大幅な収益減少にあえいでいる。これら企業は「ゼロ収益シナリオ」のもとで新規の社債発行や銀行借入枠設定を通じて手元流動性の強化に懸命となった。それでもゼロ収益の現実化は、容赦なくカジノ企業の体力を奪い続けている。

 大半がカジノ閉鎖期間と重なり「ゼロ収益シナリオ」が現実化した第2四半期では第1四半期より厳しい赤字決算に追い込まれている(表3)。カジノ収益99.6%減となったラスベガス・サンズは、第2四半期決算の赤字拡大で2020年前期は10.4億ドルの純益赤字となった。MGMもまた第2四半期はカジノ収益95%減となり、不動産投資信託関係利益14億ドルを含めても前期9.4億ドルの純益赤字となっている。

 ウィンも赤字拡大で前期12億ドルの純益赤字である。いずれも手元資金が大きく減少し株主資本(利益剰余金)の毀損(きそん)も進む。とりわけウィンは株主資本が3億ドル以下となり株主資本比率が2%を切っている。

 ▽困難なV字回復

 問題は、営業再開後にカジノ収益がどの程度V字回復するかである。ワクチン開発競争が国際的に展開されているものの、実用化は早くても1―2年先だと言われている。新型コロナウイルス感染は現在2390万人に達し、死者も82万人を超え、その勢いは増している。

 カジノ営業が再開されたとしても厳しい感染防止対策を取らざるを得ず、かつ長期化する見通しの中で、収益回復は2023年までかかるとの予測(フィッチ、6月)もある。

再開した米ラスベガスのカジノ=6月4日(ロイター=共同)

 ネバダ州では、マスク着用や消毒、検温のほかにソーシャルディスダンス確保として稼働スロットマシン間の距離確保やテーブルゲーム毎の人数が制限されている。ブラックジャックは3人、ルーレットは4人以下とされ、収容定員の50%以下の入場制限もある。

 現時点のデータによれば、ネバダ州での回復状況は低調と推測される。

 営業が再開されたラスベガスの6月のカジノ収益は61.4%減である。ラスベガス・サンズのラスベガス地区カジノ収益は前期比87.5%減であり、第2四半期カジノ収益が6月分のみと仮定すれば前年6月比で37.5%の回復でしかない(表4)。IR収益全体で同様の推計をすれば23%水準の回復でしかない。

 MGMも同様の推計を行えば、6月の回復度はラスベガスとその他の国内地域でも約30%でしかない(表5)。スロット数削減とテーブル当たりの収益の落ち込みが顕著で、営業を再開してもカジノの収益力は半減せざるを得ないことを裏付けている。

 スロット数やテーブル数、定員制限はマカオやシンガポールでも行われている。マカオでは7月15日、隣接する広東省客の2週間隔離が撤廃された。ラスベガス・サンズによれば、マカオ市場の中国人客のうち、広東省からの客が約4割を占める。このため回復が期待されたものの、7月のカジノ収益は前年比95%減(表1)だった。

 これは、入国規制緩和の効果がほとんどなかったことを意味する。感染リスクを冒してまでカジノに来ることのハードルの高さを物語っている。

マカオのカジノ前を歩く人たち=19年12月21日(ロイター=共同)

 ネバダ州ではカジノ営業が再開された6月以降、州内の感染者が激増しており感染防止策が有効に機能していない。実際、カジノ内での感染者の増大も報道されており、「三密ビジネス」であるカジノにおける感染防止の難しさと、顧客のV字復帰の難しさを示している。

 ▽オンラインへの急速な移行

  対面でのギャンブルが敬遠される中、急速に進むのが、オンラインギャンブル(カジノ)への客の移動だ。

 英国ではオンラインカジノが合法化されてから劇的に収益が増大し、地上型カジノの3倍の規模にまで膨らんだ。この傾向は、新型コロナの感染拡大で拍車がかかっている。

 米国も同様だ。周辺州とのカジノ競争に敗れたニュージャージ州が試みたオンラインのスポーツ賭博合法化が、2018年に最高裁判決で勝利し、以降、全米に急速に広がっている。

 例えばMGMは「BetMGM」なるスポーツ賭博のほかに「iGaming」と呼ばれるオンラインカジノを戦略的課題に掲げて推進している。

カジノを含む統合型リゾート施設整備法が成立した参院本会議=18年7月20日

  オンライン賭博拡大に活路を見いだそうという動きは、新型コロナの影響も相まって今後、一層加速するだろう。実際、米国ゲーミング協会は、オンラインカジノの合法化を戦略的重点に据えている。米国以外の各国でも合法化に向けた政治的圧力が高まりつつある。

 ▽幻想 

 これまで見てきたように、IRカジノに100億ドル規模の投資を行い、投資家が求める収益率を達成して回収することは極めて困難になっている。

 IRカジノではカジノ企業は3割前後を自己資金で賄い、残りをファンド等の投資に依存する。ところが今、巨額の自己資金を用意する余裕は失われ、投資ファンドからの投資資金調達も困難になっている。

展示会でのゲンティン・シンガポールのブース=19年10月24日、大阪市

 シンガポールのIR大手ゲンティン・シンガポールは本年2月の臨時株主総会で対日投資を決定している。前提に、シンガポールやマカオ並みの20%前後の投下資本収益率が可能という見込みがあった(表6)しかし、そうした高い収益性は失われた状況である。

 日本では、IRカジノを「成長戦略の柱」と位置づけ、推進派は、税収増や雇用創出などにつながると主張してきた。2020年代半ばの開業を想定し、全国に最大3カ所を整備する計画だった。

 ところが新型コロナの影響を受け、IR実現に向けた政府の「基本方針」の策定時期は先延ばしされたまま白紙の状態だ。本年度の「骨太方針」からIR関連の記述が削除された。

 誘致を目指してきた横浜や大阪などの各自治体も具体的作業に遅れが出ている。それは100億ドル規模のIR投資に手を上げるカジノ企業が消滅した現実の反映である。

神奈川県横浜市のIRのイメージ(横浜市提供)

 横浜で起きた反対運動では、カジノに依存しない街づくりの具体的提案もされている。衰退産業化したIRカジノの幻想に固執し単なる延期でこの現実を糊塗(こと)することは、アフターコロナを展望した成長戦略への転換を停滞させ、豊かな可能性を閉ざすことになるだろう。

 新型コロナが追い打ちとなったIRカジノの惨状を前に、なお突き進むのか。政府や自治体には、賢明な判断が求められている。