「柿の種」インド13億人の市場に挑戦 辛さで勝負、コロナで操業一時停止

大きな柿の種が特徴の「カリカリ」。ワサビ味もインド仕様でピリリと刺激が強めだ

 亀田製菓(新潟市)は、13億の人口を抱えるインドで1月、ロングセラー「柿の種」の本格発売に乗り出した。「カレーが主食のインド人の胃袋に、柿の種の辛い味が受け入れられるに違いない」との判断からだった。販路を全国各地へと広げ始めた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大により全土でのロックダウン(都市封鎖)が開始。交通規制により製品を売り場まで運ぶことができず、現地の工場も一時は稼働を停止した。感染者数が急増するインドで格闘する日本企業の挑戦を追った。(NNAインド版編集部=天野友紀子)

 ▽歯応えある食感が好み

 インド版の柿の種「KARI KARI(カリカリ)」は、カリッとした食感が印象的だ。柿の種が大きくて、日本のものより食べ応えがある。インド人向けに作った辛く濃い味は、一口食べると口の中全体にふわーっとスパイスの味が広がる。くせになる感じで、日本の柿の種同様、ビールのお供にぴったりだ。

 インド人向けに「ワサビ」「チリ・ガーリック」「ソルト&ペッパー」「スパイス・マニア」の4種類の味を開発した。60グラム入りを50ルピー(約70円)、135グラム入りを99ルピー(約140円)で販売している。日本での販売価格と同程度だが、現地では高級菓子に近い。

スーパーに並ぶカリカリ。現地では高級スナック菓子に位置付けられる(亀田製菓提供)

 2017年に市場調査を始めた。デリー首都圏や経済都市のムンバイの大手チェーンスーパーなどで試験的に販売した。試食会を繰り返しながらどのような味が受け入れられるかを探った。「辛さが足りない」「おいしそうで、そそられる」などインド人からの評価はさまざま。わさび味に関しては「変わった色をしている。本物の日本らしさがある」といった声が寄せられた。

 亀田の河野純・海外担当マネジャーは「やはり、辛く濃い味が好まれるようだ」と予想をはるか上回るインド人の味覚に驚きつつ、手応えも感じた。歯ごたえがある食感を好むこともわかったため、食べたときに「カリッ」と大きな音が出るよう、柿の種のサイズは日本より大きく、生地を厚く硬めにした。柿の種とピーナツの比率は7対3や6対4と食べ比べをしてもらい、「一番しっくりくる」という反応を得た「65対35」に決まった。

 ▽突然のロックダウン、工場に出勤できず

 「試験販売をしてきたが、ついに全土で発売できる準備が整った。日本の高級スナックであることを売りに販売を伸ばしたい」。1月8日、亀田の合弁相手であるコメ販売のインド最大手、LTフーズのVKアロラ会長は記者会見で胸を張った。販売店を42都市の2200店舗へと増やし、4月からの初年度に売上高1億ルピー(約1億4000万円)を目指す目標を掲げた。

インドの首都ニューデリーで、LTフーズのアロラ会長(中央)らがインド版・柿の種の発売を発表した=1月8日

 しかし、中国や欧米で猛威を振るうコロナは、インドでも急速に感染者を増やしていく。モディ首相は3月25日、「経済的打撃を伴うが、インドを救うには封鎖が必要だ」と全土のロックダウンを突然発表した。市民の外出は、必需品の買い出しや通院といった必要最低限に制限され、鉄道やバス、市民の足の三輪タクシーまで公共交通機関は全面停止になった。 亀田がデリー首都圏内のハリヤナ州に建設した工場も3月下旬から4月中旬まで生産を停止した。食糧や医薬品といった必需品以外の生産が禁止となったからだった。この工場は亀田にとって米国、中国、ベトナム、カンボジア、タイに続く6カ国目の海外生産拠点だった。生産再開後も当時約25人いた従業員のうち20~30%は交通手段がなく出勤できなかった。感染が深刻なため人の行き来が禁止される「封じ込めゾーン」に指定され、出勤できない従業員もいた。

 都市や州をまたいだ輸送の規制により販路拡大の計画は一時中断を強いられた。河野氏は「3月下旬から4月にかけて検問所が多く、輸送には平常時の2倍以上の時間を要した。通常は1日で移動する距離を3~4日かけた」と振り返る。封鎖中は販売をデリー首都圏など3地域に限定した。

 ▽ネット販売、小規模店重視に転換

 モディ首相は5月から封鎖措置の緩和にかじを切った。感染は依然として拡大していたものの、貧困層も多く経済活動をこれ以上停滞させるわけにはいかなかった。

認知度向上に向け、7月には移動販売を実施=インド南部ベンガルール(亀田製菓提供)

 6月には感染が深刻な地区を除き、各地でショッピングモールや飲食店も営業を再開した。河野氏は「7月に入って生産も注文もだいぶ増え、ようやく再度の路線拡大が見え始めた」と明らかにした。柿の種を扱っていたチェーンスーパーも、7月には開業率が6割超まで回復した。こうした動きを受け販売地域も10都市前後まで拡大した。

 亀田が現在力を入れているのは、米アマゾン・コムなどを通じたネット販売や、小規模・零細商店だ。高級スーパーをはじめとする大手小売りチェーンに重点を置いていたが、コロナの影響により現地で「外に出ずに商品を受け取りたい」もしくは「近場で買いたい」という意識が強くなったからだ。

 インドの新型コロナの感染は第1波のピークさえ全く見えてこない。累計感染者は300万人を超え、米国とブラジルに次ぐ世界3位となっている。河野氏は「先が見通せないことが最もつらい。1年はウィズコロナが続くという仮説を立て、変化に応じて戦略を変更しながら販売を伸ばしていきたい」と力を込めた。

ネット販売ページでは、カリッと食感をビジュアルでアピール(アマゾン・コムのインドサイトのカリカリストアページ)

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