2冠達成

 戦いの当事者よりも周囲の観戦者の方が状況をよく理解できることがある…「傍目八目(おかめはちもく)」は囲碁から出た言葉だが、将棋のタイトル戦では最近、この“傍目”がやたらと強力だ。先の変化を「億」の単位で瞬時に読みつぶす人工知能(AI)が解説陣に加勢している▲挑戦者・藤井聡太棋聖の3連勝で迎えた王位戦7番勝負の第4局。2日目の午後に入ってAIさんの形勢判断は「藤井優勢」。ただし「1手でも間違えれば、藤井さんが負ける変化は山ほどあります」と解説の高段棋士▲だが、18歳の指し手は1手も緩まなかった。自陣の危険度をきっちり読み切って“AI推奨”の果敢な順に踏み込み、史上最年少二冠のゴールに飛び込んだ▲将棋観戦記者の共著「天才 藤井聡太」(文春文庫)に〈自分が間違えたら終わり、という将棋を好んでいるように見える〉という藤井評がある。「相手のミス」を前提にしない最短距離の将棋。この日もそんな一局だった▲終局後のインタビュー。「んー、そうですね…」と前置きしながら丁寧に言葉を探す。難しかった、分からなかった、望外の結果-。謙虚さは相変わらずだ▲史上最速で八段に昇段したが、タイトル保持者の間は段位で呼ばれることはない。その日がいつか訪れるのか、今はなかなか想像しにくい。(智)

© 株式会社長崎新聞社