五島市長選 直前情勢 現職と新人の一騎打ちか

シャッターを下ろした店も目立つ五島市中心部商店街。新型コロナが島の経済や暮らしを脅かすが、政策論争は低調=同市中央町

 任期満了に伴う五島市長選の告示が23日に迫った。現職の野口市太郎氏(64)と新人の中西大輔氏(31)が立候補を表明し、一騎打ちの公算が大きい。新型コロナウイルス対応に注目が集まるが、両陣営とも感染防止のため集会などを開かず、政策の浸透や支持の広がりは不透明。静かな前哨戦を追った。
 7月中旬、野口氏の事務所開き。商工や建設、農林漁業などの団体関係者、推薦する自公の市議ら計約40人が出席し、一定の組織力を示した。転入が転出を上回る社会増を昨年達成し、観光客も過去最多を記録した同市。「ホップ、ステップ、ジャンプ。これからという時に…」。野口氏は“追い風”の中のコロナ禍を嘆きつつ「厳しいかじ取りが求められるが私には8年の市長経験、古里への情熱がある」と自信を見せた。
 前回は無投票で、市長として選挙の審判を受けるのは初めて。初当選時は1カ月前に出馬表明した相手との短期決戦で、「本格的な選挙経験が浅い」と野口氏の集票力を懸念する声も。人口減対策で成果を上げた裏で「地元に恩恵がない」との不満もあり、一定の批判票は出るとみられる。
 それでも移住者の新人を相手に“楽観ムード”が漂い、陣営は警戒を強める。春の壱岐市長選で移住者の30代新人が、4選した現職に肉薄したことは五島にも波紋を広げた。選対幹部は「支持者から『投票せんでも結果は変わらん』と言われるが、緩みが危険」と厳しい表情を浮かべる。
 新型コロナの影響で、例年よりひっそりとしたお盆期間。「若人」のたすきを掛けた中西氏は、市中心部の交差点で、運転手にスピーカーで呼び掛けた。
 「コロナで価値観は変わる。変化に柔軟に対応するには、政治が変わらなければ」。新図書館建設などの大型公共事業を中止し、コロナ対策を充実させる施策などを訴えた。
 千葉県出身。システムエンジニアとして野村総研に勤めたが、たまたま旅行で訪れ、魅了された五島へ2017年にIターン。1年以上前から街頭演説や地域回り、動画投稿サイト「ユーチューブ」やSNSでの情報発信を続けてきた。立憲民主党の推薦を得て、県連代表の山田勝彦氏と並んだ2連ポスターを市中に掲示。共産党県委員会も支援する。
 懸念は組織力や知名度の不足。野口氏に対する批判票や浮動票の取り込みを狙うが、有権者からは「移住者には任せられない」と中西氏のリーダーシップや政策の実現性を疑問視する声も。若さや新しさを打ち出した「都市型選挙」が、どれだけ島の保守地盤を崩せるのか。中西陣営は票の出方を読みあぐねている。
 両陣営とも、新型コロナ禍で大々的に人を集められず、政策論争も低調なまま選挙戦に突入する。「今後の市内の感染状況次第で、投票率や情勢は大きく変わる」。感染者数の動向も注視している。

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