悔しさを糧に野尻「自分の道を進んでいければいい」巻き返しが期待されるARTA、ZENT、MOTUL【第3戦鈴鹿プレビュー】

 ドライバーズランキングでトップ3を占めるGRスープラ勢に対して、ホンダNSX、ニッサンGT-Rはどう対抗するのか。スーパーGT第3戦はこれまでの富士スピードウェイから場所を変えて、鈴鹿サーキットで戦われる。メーカーの戦いだけでなく、これまでの2戦で思うような成績を残せなかったチームにとっても、サーキットが変わる今回の鈴鹿は大きな転機になってくる。

 今回の第3戦鈴鹿で、優勝候補の筆頭に挙げられるのが#8 ARTA-NSX-GTだ。前回の第2戦富士ではポールポジションから決勝中盤までトップを守り続けていたが、ピットアウト後のアウトラップで#17 KEIHIN NSX-GTに迫られ、ダンロップコーナー立ち上がりで痛恨のスピン。ARTAは絶好のチャンスを逃すことになってしまった。

 そのスピンを喫してしまったARTAの野尻智紀に鈴鹿の金曜日、話を聞いた。当然、今回の鈴鹿に向けて並々ならぬ想いや、気合いが入るレースになると心中を察するが、野尻のリアクションは意外なものだった。

「気合はどうだか分からないですけど、不安しかないです(苦笑)」と、いきなりカミングアウトする野尻。

「やはり心配事としては鈴鹿ではテストもしてないので。(開幕前のテストでは)17号車しかここを走っていないですし、ウチの今のクルマがマッチするかどうかもわからない状況です。今年のクルマの特性や多少なりとも癖など、どういうものがあるのか非常に予想しづらいところがあるので、実際走らせてみないとわからない。コンディションもどうなるかといったところなので、より心配事は増えますね」と続ける野尻。

 前回のスピンは、野尻の中ではもう吹っ切れているのだろうか。

「チームとしてはもちろんよくないリザルトですけど、個人的にはああいったことがあって、実際、どうしてそういうことになってしまったのかを深く考えたし、それによって得られたものが、必ずあると思うんです」

「最初に話したとおり、心配だったり不安な点が鈴鹿に来ていくつかありますけど、そういったものをどう解決していくか。心配だからと言って勝てないとかではなくて、どれだけパフォーマンスを上げれるかという意味での心配です。そういったものをひとつひとつ解決していくことは僕らにはできると思っていますし、僕自身にもそういった方向へ持っていく力はあると思っています。心配事は心配事としてしっかりと受け止めながら、自分と向き合って良いパフォーマンスが出せるようにやっていきたいなと思います」

 これまでフォーミュラを含めて、予選での野尻の速さは多くの関係者が認めてるものの、予選が目立ってしまっている分、決勝で順位を下げてしまうと、それはそれで目立ってしまうという、野尻ならではの苦しい状況もあった。

「自分でいうのもあれだけど予選が目立ちすぎているので、その落差みたいなものでみんな気になってしまいますよね。レースは決勝で勝ってナンボというところはもちろん理解しているし、むしろそれがメインですけど、逆にそういう得意不得意も人それぞれあると思う。みんながみんな完成された人間ではないので、自分の道を進んでいければいいかなと思います」

 我が道を行く野尻。その力強い言葉はライバルメーカー、そしてライバルチームにとっては今回、大きな脅威となりそうな予感だ。

2020年スーパーGT第3戦鈴鹿 搬入日の野尻智紀(ARTA NSX-GT)

 野尻と同じく、前回の第2戦でどん底とも言える低迷を見せたのが#38 ZENT GRスープラだ。現在ドライバーズランキング5位で、悪くないポジションとも言えるが、好調ブリヂストン勢+GRスープラのなかではトップ3に大きく遅れを取る形になってしまっている。ZENTの石浦宏明が話す。

「もちろん、今回、勝たなきゃいけないレースだという認識はあるのですけど、冷静な目で見れば空力的にダウンフォースが大きそうなNSXが開幕直前の鈴鹿テストでも速かったのを目の当たりにしているので、勝つのは簡単ではないなと思っています。NSXは岡山テスト、そしてこれまでの2戦の富士を見ても、速い場所はいつも同じハイスピードセクターなので、この鈴鹿はクルマの特性にドンピシャなのかなと想像しています」と、冷静な石浦。

## ■新しいトライで挑むZENT GRスープラ、復調気配のMOTUL AUTECH GT-R

 GRスープラも富士でのパフォーマンスの高さがあったとはいえ、この鈴鹿も決して不得意としているわけではない。ただ、38号車ZENT GRスープラに関してはまた、個別の事情がある。

「開発車のデータから各チーム、そこからどうやってもっと速くしていくか、いろいろトライしているわけなんですけど、その速いところにまだ行けていない。今年のスケジュールではテストがないのですけど、レースウイークの中でトライしていくがなかなか難しい。時間の制約があるので、トライがしずらい状況ですよね」と石浦。

 ZENT GRスープラは開幕前のテストで細かいトラブルやアクシデントが発生してし、それが他のGRスープラ勢との差を作ってしまった一因でもあった。

「38号車は開幕戦前などにちょっとした不具合があって、その不具合に合わせて違うメニューをしてしまったりがありました。3月くらいまでの流れを一度、ぶった切ってしまっているところがあって、それが開幕してから響いてしまったので、自分たちドライバー側も反省もしています」

「やはり、新しいことにトライするには、しっかりとした流れが大事だと思っているので、そのあたりを踏まえて今回は組み立てて行こうと話しています。今までと変えている部分があるので、土曜の走り出しの練習走行が大事になると思います」と石浦。第3戦ながらも、ここで大量ポイントを獲得しなければチャンピオンシップは厳しくなる。土曜の走り出しのZENTのポジションが気になるところだ。

2020年スーパーGT第3戦 搬入日の立川祐路/石浦宏明(ZENT GR Supra)

 また、ARTA、ZENTと同様に今回の鈴鹿がチャンスになるが、#23MOTUL AUTECH GT-Rだ。前回の第2戦富士では決勝中にエンジンのトラブルが発生してしまい、予選5番手を獲得していながら決勝は9位に後退してしまった。MOTUL AUTECH GT-Rのロニー・クインタレッリが話す。

「今シーズンは2戦を終えてまだ表彰台がないので、まずはいい予選、スタートをして表彰台に乗りたいです。前回は僕のスティントでは大丈夫だったのですが、後半のスティントでちょっとエンジンのトラブルがありました。鈴鹿では私たちがチャンピオンを獲っていた頃はウエイトハンデを搭載して重い状態でフラストレーションが溜まっていましたが、今回、こんなにいい条件(ウエイトハンデ4kg)で鈴鹿を迎えられるのは初めてじゃないかな(苦笑)。このウエイトを是非活かして、まだまだ前向きに全力で頑張りたいです」とクインタレッリ。

 クルマの手応えも開幕戦、2戦目と向上していることを実感している。

「やっとセットアップの方向性を掴めてきました。もちろん、まだ他メーカーと比べて戦闘力が足りない部分があるのだけど、私たちのなかでは、開幕戦まではちょっとチャレンジして良かった/悪かったところがあって。第2戦はだいぶまとめてきたと思いますね」

「開幕戦のときは小さいコーナー、富士のセクター3が良くなかった。去年まではウチが強いところだったけど、開幕戦であまり良くなかった。第2戦のときは予選でセクター3が良くなって、去年よりはまだ余裕がある感じではないけど一応負けなかった。第2戦では小さいコーナーのメカニカルグリップが良くなってたし、そういった意味で今はセットアップのベースを見つけてきたから、良い方向に進んでいると思います」とクインタレッリ。

 MOTUL AUTECH GT-Rだけでなく、カルソニック IMPUL GT-Rも第2戦で速さを見せていただけに、ウエイトハンデが軽いこの鈴鹿で、GT-Rの巻き返しが期待できるかもしれない。MOTUL AUTECH GT-Rは第2戦の決勝でのエンジントラブルで、この鈴鹿ではシーズン2基目のニューエンジンを投入してきたという情報もあり、こちらも土曜の走り出しの状態が気になる。

 サーキットが鈴鹿に変わって、これまで不本意な結果に終わったチームの巻き返しはどこまで見られるのだろうか。事前の情報では決勝は雨の予報もあったが、晴れ/ドライの方向に変わりつつあるとのことで、真夏の鈴鹿の戦いに相応しい熱い戦いを見ることができそうだ。

ドライバー交代練習を行うロニー・クインタレッリ(MOTUL AUTECH GT-R)

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