日産キックス、”モーターだけで走る”ハイブリッドの走行感覚とは

日産にとって10年ぶりとなる新ブランドが6月にデビューしたコンパクトSUV、キックスです。日本ではe-POWERと呼ばれる日産流ハイブリッド専用モデルとして発売されます。最大の特徴と言えばモーターだけで走る独特の走行感覚。さっそく街に、高速にと乗りだし、その魅力を探してみました。


コンパクトでスポーティな外観が魅力です。

日産のe-POWERと言えば、ノートの搭載されている「シリーズハイブリッド」と呼ばれる形式のシステムです。1.2Lの3気筒エンジンは積んでいますがタイヤを駆動することはなく、発電用として活躍します。タイヤを回すのはモーターだけです。当然のようにその走行感覚は完全に電気自動車(以下EV)と言うことになります。

ちなみに海外ではこのコンパクトSUVキックスは、ガソリンエンジン車として2016年から販売されています。ガソリン仕様の製造は中国、メキシコ、ブラジルで行われていたのですが、日本市場向けにそれに手を入れて右ハンドルのe-POWER仕様としました。

製造を受け持っているのは現在のマーチと同じタイ工場ということになります。クオリティなどで心配される人もいますがキックス自体がワールドワイドに展開する世界戦略車ですし、クオリティコントロールは日産がしっかりとやっていますから、大きな懸念はないでしょう。

日産車の顔立ちは端正でまとまっています

実際に目の前に現れたキックスは安っぽさや雑さなどまったく感じません。日本以外でのデビューから4年経過していますが、古くささは感じません。コンパクトなそのスタイルはライバルであるトヨタCH-Rやホンダのヴェゼル、そしてマツダCX-30と並んでも十分に個性を発揮できるレベルにあると思います。むしろその固まり感のあるスタイルは実寸でも全長が4,300mmを切り、ライバルより短めです。

そこで実際に乗り込んでみると、別に前後の居住性で窮屈な感じはしません。それではトランクを犠牲にして、前後長を稼いでいるのか思いきや、それもありません。特別に広々というわけではありませんが、ライバル達と比較しても遜色ないレベルの容量をちゃんと実現しています。パッケージングの上手さと言いますか、横幅でも前後の長さでも、そして頭上の空間でも窮屈な感じがしないのです。久しぶりのブランニューの日産車、なかなかいい感じです。

市街地でもクイックで軽快な走り

好印象を持ったままエンジンスタートします。1.2Lの3気筒エンジンがスタートしました。借り出したときのバッテリー充電量の問題でしょうか、発電専用のエンジンが回っているのですが、それほどけたたましくはありません。同じシステムを搭載するノートe-POWERが少し賑やかだったことを考えると、少し改善されたのでしょうが、気になるほどではありません。少しするとエンジンは完全に停止モードでした。

ツートーンインテリアエディションのインパネ。質感は平均レベル

さっそく走り出します。35km/h以下、あるいは信号待ちなどでは極力エンジンを回さないようにしていると聞きましたが、確かに低速ではエンジンがその存在を出来る限り消そうとします。ここから少し速度を上げ、50km/hぐらいからでしょうか、エンジンが一気に充電のために忙しく回るようになります。当然、これぐらいの速度になってくると走行音も大きくなりますからエンジンが回っていても気になりません。ごくごく普通のガソリン車的な音のレベルです。

ところが走行フィールはまったく別物です。すでに述べたとおり、ハイブリッドと言っても最大の特徴はタイヤを回すのはモーターだけということです。つまり加速感や減速の感じはEVなのです。使用されているモーターはノートe-POWERの109ps(80kW)より強力で129PS(95kW)であり、いざとなれば交通の流れもリードできるほどの加速感を見せます。

あのリーフやノートe-POWERでも知られる「ワンペダル」というモードもあり、独特の走行感覚のドライブが始まりました。市街地では信号待ちからの加速も力強く、そしてシームレスに加速していくのでとてもスムーズな走りです。

ドライバーズシートのホールド性も良く、疲労感は少なそう

減速時はと言えば回生ブレーキを強めに設定していますからアクセル操作のみでも十分な減速感を得られ、最終的には停止するまでワンペダルでドライブできます。現実としては信号待ちで前のクルマが迫ってくるとブレーキを踏んでしまいますが、慣れてしまうとワンペダルだけで、完全停止も可能です。

“どうも慣れない”と言う人もいるのですが、バッテリーの充電量を高めに維持するには、このワンペダルはけっこう効果があります。少しばかり前につんのめるような感覚はありますが、慣れてくると徐々に楽しくなります。

ワンペダルの操作感を生かしながら街角のコーナーなどクリアする。セッティングをスポーティにしたという少し硬めのリア・サスペンションもいい味を出していますから、実に軽快です。レスポンスのいいコンパクトSUVの元気な走りは、踏ん張りのきいた感覚があって、安心して市街地を駆け抜ける事が出来るのです。

独特の走行感覚が癖になりそうです

今回のe-POWERはモーターによる低速からトルクのある加速が特長で、スポーティな運転感覚が楽しめます。ノートe-POWERから進化した感じがします。そんな感覚を持ちながら今度は高速に突入しました。

料金ゲートを抜けて本線に合流します。もちろんこの時ばかりはフル加速です。しかし1,3トンあまりのボディは軽々とモーターのトルクを生かしながら速度を上げて無事に合流完了します。当然ですがエンジンは全力で発電に回ります。少々、騒音は増してガソリン車のような加速感覚になります。

エンジンやEVの制御類などがボンネットの下にぎっしり

ここで少し思ったのですが、高速でフル加速状態の追い越しなどを行ってもエンジンがうなりを上げるのですが、それに合わせてモーターの加速感が付いてこない感じが時々ありました。エンジンの賑やかさほどの加速フィールがないというか、妙な雰囲気なんです。

もしこれがピュアEVならエンジン音がありませんから、純粋にモーターの加速を感じることになります。ところがe-POWERの加速感にはエンジン音という要素が加わりますから、ちょっぴり感覚のズレが出てきます。まぁ、それもマイカーとして乗り続ければすぐに慣れる感覚でしょう。

それ意外にも新しい発見がありました。市街地で硬めに感じたサスペンションが高速ではしっとり感が増したことです。これならば心地の良いクルージングをロングドライブでも十分に快適な走りを続けられます。残るは山岳路などを試すべきなのですが、今回は残念ながら時間がありませんので断念。なぜワインディングにこだわるかというと、ノートのe-POWERで経験した発電のために必死に回り続けるエンジンのセッティングがどう変化しているか? がとても気になるからです。

ひょっとしたら、エンジンの存在をより多く感じることになるだろうか? それとも進化していてエンジン音はノートe-POWERほど気になるレベルではなくなっているのか? そのテストとロングドライブでの燃費や使い勝手はまた近いうちにレポートしたいと思います。

全体とすればとても好印象で試乗のエンディングを迎えました。そして撮影タイム。ここでひとつだけ気になったのはパワーウインドーのスイッチなどが少しだけチープな感じがあった点です。インパネの操作系は質感も満足レベルなだけに、惜しい点でしょうか……。

運転支援システムの「オートパイロット」が標準装備されています

それ以外はなんとも満足のコンパクトSUVです。これでベーシックモデルが2,759,900円、インテリアにこだわった“ツートンインテリア”仕様が2,869,900円。現在はこの2タイプの価格設定ですが、この辺もライバルとも同じ感じですから、特別に割安感があるわけでもありません。じっくりとキックスの購入ポイントを考えてみると、やはりモーターだけで走る独特のEV感覚とスポーティさ、でしょうか? じっくりと他のライバル達のことをじっくりと考え比較検討してみました。

世界的に人気がある300万円前後のコンパクトSUVだけに、どのモデルも実に魅力的です。なんとも悩ましいクルマ選びを覚悟しなければ行けない感じです。

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