「北朝鮮、金与正が委任統治」韓国国家情報院の分析は驚くに値しない

By Kosuke Takahashi

韓国の情報機関、国家情報院は8月20日、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)国務委員長が妹の金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党第1副部長ら側近に一部の権限を委任していることを明らかにした。

これを受け、韓国メディアでは「北で金与正が委任統治」(朝鮮日報)、「北朝鮮、金与正が委任統治」(中央日報)といったニュースの見出しが躍った。

しかし、正恩氏による与正氏への一部権限の委譲や委任は驚くべきものではない。なぜなら、すでに与正氏自身がそのことを公の場で言明していたからだ。

例えば、与正氏は6月13日、朝鮮中央通信を通じて発表した談話の中で、「私は(金正恩)委員長同志と党と国家から与えられた私の権限を行使し、対敵事業の関連部署に次の段階の行動を決行するように指示した」と述べていた。

筆者は、与正氏が特に対韓国政策と対アメリカ政策について、正恩氏からすでに権限を与えられているとみている。それは与正氏の最近の談話からもうかがえる。

例えば、前述の13日付の与正氏の談話も「近い将来、意味のない南北共同連絡事務所が跡形もなくなる悲惨な光景を目にすることになるだろう」と述べた。その言葉通り、韓国を手玉に取る形で、16日に同事務所の爆破を強行した。

また、対アメリカ政策についても、与正氏は7月10日付の談話で「米国の立場の決定的な変化がない限り、年内、さらには今後も朝米首脳会談は不要であり、無益だ」と述べた。さらに、米朝首脳会談が「誰かのつまらない自慢話に利用されるのは明らかだ」とも述べ、トランプ米大統領を相手に警戒感をにじませていた。

与正氏の談話では、「私は~」という一人称が主語の文章がたびたび登場する。

このようにみていくと、韓国国家情報院は今回、新たにインテリジェンス(情報)を得て「北朝鮮内での金与正氏への一部権限の委任」の見解を示したというよりも、北朝鮮国営メディアを通じた北朝鮮側の主張に基づいて分析結果を示したとみられる。

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© 高橋浩祐