義足のマルクス・レーム選手がオリンピックを目指すのは、平等を証明するため「私はあなたと同じだ」

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パラリンピックは、オリンピックの閉会式から少し間をおいて開幕する。

同じ時期・会場で開催する“一つの大会”であるようで、大会構成や出場選手は分けられている。

その“違い”を、走り幅跳び義足クラスのマルクス・レーム選手(ドイツ)は飛び越えようとしている。

自身が保持する世界記録は、並み居るオリンピック選手の記録を上回る。3大会連続金メダルを見据えながら、オリンピック出場も目指す。

「私はあなたたちと同じだと証明する」と語るレーム選手。

ハフポストのインタビューで、オリンピックを目指す理由やパラリンピックが示せること、コロナ禍で開催する意義について聞いてみた。

オリンピックを目指す理由

レーム選手が持つ8メートル48センチの世界記録は、リオ・ロンドンオリンピックの優勝記録(それぞれ8メートル38センチ、同31センチ)を上回る。

障害のない選手に混じって大会に出場し、優勝の経験もある。

レーム選手がオリンピック出場を目指すのは、単なる「実力の証明」のためだけではない。

「障害があると、常に同じように扱われないこともあります。私はそれが間違っていると示したい。そういう人たちに『私は同じだ』『あなたと同じ結果が出せる』と証明する。これが、私がオリンピックに出場し、オリンピック選手と競いたいと思う理由です」

オリンピック出場は、「できないことがある」という障害の見方を変える試みでもある。障害の有無に関わらず、そうした目線にさらされる、特に若い人に向けたメッセージでもあるという。

レーム選手は問いかける。

「あなたが望めば、何でもできるのです」

「自分に何ができるのか、可能性を誰かに決めさせてはいけない。あなた自身が決め、努力することなのです。これこそがパラリンピックムーブメントで、大きなメッセージです。来年に大きく示せるよう願っています」

義足の選手としては過去に、陸上短距離走オスカー・ピストリウス氏(南アフリカ)が、ロンドンオリンピックとパラリンピックの両方に出場している。

レーム選手もかねてから出場を求めて、陸上競技連盟側と協議を続けているという。国際陸上競技連盟のいまの方針では、義足の使用が競技に有利に働いていないことの検証を選手側に求めている。

「決してネガティヴなことではなく、むしろオリンピックがもっとオープンで多様になるチャンスだと気がついて欲しい」

「同じ舞台で競う以上に、平等だと証明する機会はありません。もし叶わなくても、パラリンピックでオリンピック選手よりも遠くに飛んでみせる。 私たちパラリンピック選手が、オリンピック選手の陰に隠れる必要はないという証になります」

コロナ禍の大会の「成功」とは

大会の1年延期が決まった時、レーム選手は「ほっとした気分にもなった」と明かす。ショックはもちろんあったが、「開催は難しい」と思いながら練習を続けていた状況から解放されたからだ。

2019年11月の世界陸上選手権を最後に、出場予定だった大会は軒並み中止となった。この8月にようやく、ロックダウン後初の大会に臨んだ。

「1年の延期はとても長い。しかも今年は大会がほとんどありません。正直モチベーションを保つのが大変です」

コロナの収束も見通せていない。大会の参加者は、アスリートだけでも計1万5000以上。当初の計画では、約1000万人の観客を見込んでいる。

レーム選手は、感染リスクを踏まえた上で「恐れてはいません。大会を開くことのできる唯一の国が、日本だと思います」と信じる。

「一人ひとりが責任を持って対策する必要があります。また日本に入国するにあたって隔離されるという対応があっても、私は構いません。そうすれば日本の人たちも安全だと思えるでしょう」

コロナ禍で開かれるオリンピック・パラリンピック。どうすれば「成功」と言えるのか。何を示せるのか。

大会を迎えるにあたり、出場する側も見る側もその答えを問われているように思える。

レーム選手の答えは「団結すること」。

「私たちは、一つの大きなグローバルなコミュニティであると証明する。困難な状況に直面していますが、団結して、グローバルチームとして解決策を見つける大きなチャンスでもあると思います」

パラリンピックが示せる特別な価値

インタビューの中で、レーム選手は「パラリンピック選手が表現できる特別な価値がある」と語った。それは何か。

「パラリンピック選手は、乗り越えなければならないたくさんのことがある。アスリートの背後には、心を打つようなそれぞれ特有のストーリーがある。これがパラリンピックスポーツを面白いものにしています」

「誰でも、人生で困難な状況に直面した経験があれば、アスリートがそうしたことを乗り越えて強くなった姿や、何かを継続するのをやめなかったことを見るのは素晴らしいものです」

「私も足を失いました。『もうスポーツができない』。周りの人たちがそう思っていると考えていました。でも私は、トップレベルでスポーツができると証明したのです。それも、オリンピック選手を打ち負かすほどです。試練を乗り越えて、なおベストでいることができるというメッセージになります」

パラリンピックとオリンピックは一つであるべきか?

パラリンピックとオリンピックの“垣根”をなくそうとしているレーム選手。ひとつの大会として開催されるべきなのか。

レーム選手は、大会規模や宿泊先の確保など両立の難しさにも触れて「オリンピックとパラリンピックのアスリートは、それぞれ表現できる異なる価値があります。やはり、2つの大会があるべきです」と語る。

一方で「私たちはもっと距離を縮めるべき。可能な環境で、もっと一緒に競わないといけない」とも訴える。

東京オリンピックが8月8日に閉幕した後、パラリンピックが開幕する8月24日までの2週間余り。「なぜ、その間に一緒に開くイベントがないのか」と、いまの大会のあり方に疑問を呈する。

「オリンピックを閉幕せずに、例えばパラリンピックと混ぜ合わせて、2つの大会をつなぐ象徴的な競技やイベントをする。スタジアムに集まって、両方の選手が競争する100メートルリレーでもいい」

「『オリンピックが閉幕して、今度はパラリンピックが開幕しました』と言うのではなくて、『大会を続けます』と宣言する。そういう意味での一つの大会。共に歩み寄るのです」