100人の青春オンライン取材会 甲子園だけじゃない! 〝総文祭ロス〟高校生応援企画が始動

オンライン取材会で学芸員(右)から曜変天目の解説を受ける高校生たち=9日、東京・世田谷の静嘉堂文庫美術館

 コロナ禍で部活動に青春を懸けられなくなった高校生は、甲子園を目指す球児だけでない。文化系部活の高校生を応援するために、東京都高校文化連盟(高文連)が新たなプロジェクトを始めた。各地の高校生約100人がインターネットで一堂に会し、国宝を鑑賞したり、著名な文化人をインタビューしたりする取材会だ。(共同通信=小池真一)

 ▽失った集団の学びと交流

 きっかけは、「文化部のインターハイ」とも呼ばれる、年に一度の全国高校総合文化祭(総文祭)だ。毎年約2万人の高校生が集い、演劇や美術・工芸、音楽など20余りの部門ごとに日頃の部活動の成果を披露する。今年は高知県で7月31日から1週間、開かれる予定だった。でも、新型コロナウイルスの感染防止のためウェブ開催に。集団で学び、交流するまたとない機会を失った全国の高校生たちに落胆、失望が広がった。

 〝総文祭・部活ロス〟の高校生を励ます企画として東京都高文連が実施を決めたのが、高校生オンライン取材会だ。2020東京オリンピック・パラリンピックに向け全国各地で繰り広げられてきた、共同通信主催の中学生・高校生の取材会活動「文化プログラムプレスセンター」とコラボレーションし、部活の部門ごとにテーマを設けてシリーズ開催することになった。総文祭と取材会の経験者からなる大学生グループ「文化プログラムユースプレスセンター」が運営面で協力。文化庁の後押しや総文祭高知大会の事務局のアドバイスもあり、わずか2カ月の準備期間で実現にこぎ着けた。

ウェブ開催になった全国高校総合文化祭高知大会の総合開会式=6日

 ▽曜変天目に新たな歴史

 8月9日に行われた第1弾は、国宝の茶わん「曜変天目」などの茶道具をテーマに7都府県の高校茶道部員約100人が参加した。世界に3点しかない曜変天目のうち1点を所蔵する東京都世田谷区の静嘉堂文庫美術館を拠点に、同館主任学芸員の長谷川祥子さんが、曜変天目をはじめ重要文化財の「油滴天目」、茶入れの歴史や茶道との関わりなどを解説した。取材会の様子はライブ中継され、ニュースサイト「47NEWS」を通じて多くの教育関係者が閲覧した。

 天下一とたたえられてきた茶わんをオンラインとはいえ目の当たりにし、茶道部員たちの好奇心は大いに刺激された。「実物を拝見できた喜びを感じることができました」と生徒が感想を記事にしたように、オンライン取材会は「今、本当に体験している」感を出すよう工夫された。その一つは、学芸員との質疑応答。高校生からは「全ての曜変天目がなぜ日本にあるのか」「部活動で用いる茶道具との違いは?」「今、作ることができるのか」などの質問が相次いだ。一つ一つに丁寧に答えた長谷川さんは「的を射た質問ばかり。曜変天目とのいい出合いの場にできた」と語った。

 ▽ライブ感が大事

 展示中の曜変天目をライブカメラで映して中継したのも、「今、本当に体験している」と参加生徒が感じられるようにするためだ。撮影を担当した大学2年の青山日菜子さんは、博物館巡りが趣味。「ライブ感を出すよう、実際に美術館で鑑賞するときの目線を大切にしました」と話した。参加者の一人、京都府立北稜高校の井上愛喜さんは「この茶碗を所有していた人々と、曜変天目を通じて『美しい』の感覚を共有できたような気分になった」と感動を記事で伝えている。

オンライン取材会の参加生徒による新聞の数々

 取材会で進行役を務めた東京都立富士高校の服部有妙さんは「各地の茶道部の高校生が集まって一緒に取材をできたのがとても大きい」とし、同じく宮木朋音さんは「小グループでの交流会では、部活動をめぐり情報交換できた」と話した。参加生徒たちが喜びと感動を盛り込んだ記事・新聞の数々は、文化プログラムプレスセンターのサイト(https://www.presscentre.net/events/yohen-200809)で公開中だ。

 高校生オンライン取材会は、趣旨に賛同しボランティアで参加する現代美術作家の日比野克彦さんのインタビュー会が8月30日に、同じく指揮者の佐渡裕さんのインタビュー会が9月6日に行われる。それぞれ47NEWSで誰でも無料でライブ中継を見ることができる。

日比野克彦さん
佐渡裕さん

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