韓国国民に広がる不安と不満 8月半ばから新型コロナ感染が再び拡大【世界から】

8月24日、マスクを着用してソウル中心部を歩く女性ら(共同)

 新型コロナウイルス感染拡大のスピードに衰える気配が全く見られない。米ジョンズホプキンス大の集計によると、全世界の感染者は2300万人を超え、死者も80万人以上を数える。

 どこの国や地域も対策に頭を悩ませている中、徹底した感染防止策によってうまくコントロールできていると思われた韓国も防止策を一進一退させている。新型コロナウイルスとの共存を模索する取り組みを続ける韓国の現状について伝えたい。(釜山在住ジャーナリスト、共同通信特約=原美和子)

 ▽7月までは抑え込み

 厳格な予防策を取っていた韓国は5月6日から「日常生活でできる防疫措置」に移行した。これによって、外出などの制限が緩和されることになった。休校となっていた小学校から高校までの授業のほか、美術館やイベントなども段階的に再開された。普段通りの社会生活が戻り始めたのだ。筆者も子どもの学校が再開された後、私用で外出する機会が徐々に増えていった。

 とはいえ、ソーシャルディスタンス(社会的距離)やマスクの着用、手洗いなど基本的な感染防止策は引き続き、求められた。例えば、学校では生徒に対し、健康状態のチェックやマスク着用を義務化した。授業もオンラインを併用するなどして、「密」にならないように工夫している。

 ソウルのクラブで集団感染が起きるなどしたものの、7月までの国内感染者数は1日当たり数十人前後で推移していた。全体としては感染の抑え込みに成功したといえる。感染者の多くが海外からの入国者で占められていたことも国民の間に安心感をもたらしていたといえる。

5月20日、韓国・大田の高校で、透明な仕切り板を取り付けた机の前に座る生徒ら(聯合=共同)

 ▽徹底される感染防止策

 先日、韓国でも放送されている海外向け日本語チャンネル「NHKワールド・プレミアム」の番組内で韓国の海水浴場で実施されている防疫対策が紹介された。その海水浴場では、訪れた客に個人情報を記録できるQRコードの取得を求めていた。感染が発生した場合に備え、来場者の記録を管理するのが目的だ。

 QRコードを使った身元確認は、集団感染が起きたクラブといった遊興施設など感染リスクが高い「高危険度施設」に指定された場所では義務化されている。だが、指定されていない飲食店や美術館などさまざまな施設でも導入が進んでいる。

 実際に筆者が足を運んだレストランでは入場の際に、検温に加えて店舗の入り口に設置された機械でQRコードを取得することを求められた。QRコードが取得できない人は来場者の氏名や住所を記入するなどの協力要請に応じなければ入場を断ることになる。

 なお、QRコードを取得したことで記録される氏名や電話番号、来店時間などの個人情報は4週間保管された後に、自動的に削除されるという。

 このシステムを導入していないデパートや水族館といった施設でも入店や入場の際に検温や連絡先の確認などを行っている。

 感染防止策は徹底され、安心できる。そんな印象を強く持った。

 感染を100%防ぐことは不可能―。国や自治体はこのことを大前提にして対策を講じてきた。そして、国民に対してもマスク着用や手洗いといった地道な努力を呼び掛けてきた。個人情報を国に提供するQRコードの取得を国民の多くが受け入れているのも、国民の間で防止策への理解が深まりつつある証拠なのだろう。

レストラン入り口に置かれた体調や電話番号など個人情報を書き込む用紙。QRコードの取得ができない客に対し用紙への記入を義務化している店舗もある=原美和子撮影

 ▽またも教会が発端

 そんな韓国で今、感染が再び拡大している。

 韓国政府は8月15日、新たに166人の感染が確認されたと発表した。3月以降で最多になったことを受けて、ソウル市と隣接する京畿道(キョンギド)の防疫措置を強化することも明らかにした。

 具体的には、ソウル市民らに不要不急の外出や集まりの自粛を要請。他地域への移動も控えるよう呼び掛けた。その後、集団感染が起きやすいクラブやカラオケボックスなどの営業中止を追加で決定した。

 翌16日には1日の新規感染者が279人に達した。200人を上回るのは約5カ月ぶりのことだ。加えて、ソウル市では初めて100人以上の感染を確認した。保健当局は再流行の危機にあると警戒している。

 感染拡大のきっかけとなったとされているのが、保守系の政治活動家が代表を務めるソウルの宗教団体「サラン第一教会」で起きた集団感染だ。同団体内だけで感染者は875人(8月24日現在)に上っている。

 ところが、教会は防疫措置を十分に講じなかった。そればかりか、15日には感染の疑いが持たれている中で革新系の文在寅政権の退陣を求める大規模集会への参加を強行した。

 韓国政府は17日までに代表のチョン・グァンフン氏を感染病予防法違反の罪で警察に告発した。

 韓国では2月にも新興宗教団体「新天地イエス教会」の信徒らを中心とした大規模集団感染が南東部・大邱(テグ)などで発生している。教会施設で再び感染拡大が起こったことに、ネットなどを中心に憤りの声が上がっている。

 だが、7月末に企業や学校が夏休みに入ったことで人の動きが活発化していることを忘れてはならない。特に海外旅行が難しくなっている今年は済州島など韓国国内のリゾート地の人気が高まっている。

 また、日本の統治から脱したことを記念した8月15日の「光復節」から3日間が連休であったことも感染者増加への懸念材料となっている。ここにも注視する必要がある。

新型コロナの集団感染が起きたソウルの宗教団体「サラン第一教会」周辺を消毒する当局者=16日(聯合=共同)

 ▽揺れ動く心情

 今回の感染拡大を通じて、韓国国民は感染防止に取り組みながら社会生活を回復していく難しさを突きつけられた。加えて、「第2波」や「第3波」を食い止めることが容易ではないことも改めて痛感させられている。

 国民の心情も揺れている。最初の感染拡大から既に半年が経過しているにもかかわらず、先が見えない状況が続いているからだ。国民からは「予防のために外出を控えることの重要さは理解できる。だが、自粛生活が何度も繰り返されることは困難だ」という率直な意見が聞こえる。不安と同時に不満を感じていることが分かる。

 一方で、経済活動などを止めることが得策ではないことも多くの人が十分に理解している。

 他の国と同じように新型コロナと共存しながら受け入れていかなければならない。韓国は現在、そういう段階に差し掛かっているのだろう。

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