亜種?希少種? かつてブラキオサウルスだった恐竜達 「ジラファティタン」

巨大恐竜界のスーパースターを襲った大事件

ブラキオサウルス(B. altithorax)の生態復元想像図

1900年の発見から、ブラキオサウルス は竜脚類の顔として、今日まで高い人気と知名度を誇っている。

特に、ベルリンのフンボルト博物館に展示されている骨格は、世界最大の骨格として有名である。

巨大恐竜界のスーパースターとして多くのファンに愛されて来たブラキオサウルスだが、アメリカで発見された個体とタンザニアで発見された個体の化石の違いから別の恐竜である事が判明し、世界に衝撃を与える。

今回は、長年ブラキオサウルスと呼ばれていた恐竜が、近年の研究によって別の恐竜であると判明し、恐竜界の常識を覆した大事件を紹介する。

アフリカの宝と呼ぶべき大発見

1907年、当時ドイツ領だった現タンザニアのリンディ近郊にあるテンダグルで巨大な骨が発見されたという報告が、タンザニアに滞在していた古生物学者、エーベルハルト・フラースに届いた。

テンダグルでの発掘

巨大な骨の数々を確認したフラースは、これが巨大恐竜の墓場であると確信する。

フラースの確信通り、この化石が史上最大級の大発見となる訳だが、発掘には膨大な金が必要であり、発掘を待っているのが史上最大級の恐竜とあれば尚更だった。

見本となる骨を持ってドイツに戻ると、フラースはフンボルト博物館の館長であるヴィルヘルム・フォン・ブランカに持ち帰った化石を見せて資金援助をお願いする。

当時の最大規模の発掘に掛かる莫大な予算は決して簡単に集まる額ではなかったが、ドイツの名を世界に轟かせる一世一代のチャンスという事もあって、何とか資金を工面すると、ブランカはヴェルナー・ヤネンシュを隊長とした発掘隊をタンザニアに送り出す。

ヤネンシュ指揮の元で行われた計4回の発掘は、ケントロサウルスエラフロサウルスディクラエオサウルストルニエリアといった何種類もの恐竜がほぼ完全な形で発掘され、期待以上の大成功となる。

多くの恐竜の化石がほぼ完全に発見されただけでも特筆すべき出来事だったが、この発掘の目玉となったのは、アメリカでも発見されていたブラキオサウルスの完全に近い化石だった。

発見から100年以上経った現在でも、復元されたものとして最大の恐竜として訪れた来館者の目を奪っているが、ブラキオサウルスがアメリカから遠く離れたアフリカでも発見されたという事実は、アメリカとアフリカが繋がっていた事を証明するものであり、恐竜が大陸を行き来していた「証拠」の発見は「アフリカの宝」というべきものだった。

ブラキオサウルスかジラファティタンか

化石が展示されたフンボルト博物館の館長であり、発掘のスポンサーとなったブランカにちなんで、ブラキオサウルス・ブランカイと名付けられた個体は「世界一有名なブラキオサウルス」として多くのファンに親しまれていた。

ところが、研究が進むにつれてアメリカの個体であるアルティトラクスとブランカイの双方の骨格の特徴に違いが見られるようになり、1988年に古生物学者のグレゴリー・ポールは、ブランカイはジラファティタン(ギラファティタンとも)という新種の恐竜であると主張する。

ジラファティタン (Giraffatitan)の展示 フンボルト博物館 wiki(c)Axel Mauruszat

骨盤の形状など細かい違いは確かに確認されたが、1990年代に日本で発売された図鑑を見てもジラファティタンの名前が載っているものがほとんど存在しない事からも分かるように、ジラファティタンの名前が当時の世の中に広まる事はなかった。

世間的に名前が広まる事はなかったものの、ジラファティタンに関する研究はその後も続き、1998年に個体不明のブラキオサウルスの頭骨とジラファティタンの頭骨を比較した結果、両者に明らかな違いが確認される。

ブラキオサウルスの頭骨はジラファティタンの頭骨に比べると口先が短くなっている上に、歯の形も異なっているなど複数の相違点が確認された。(この頭骨は19世紀にオスニエル・チャールズ・マーシュがブロントサウルスの復元に使って後に否定されたものだが、アルティトラクスの頭骨が発見されていないため「ブラキオサウルスの頭骨の可能性が高い」と言うしかないのが現実である)

ギラッファティタンの実物頭骨と小型ブラキオサウルス類エウロパサウルス頭骨の比較

双方の頭骨に違いがあるのは事実だが、当時の日本で全く話題になっていなかった(おまけに当時はインターネットが普及していなかったため情報が簡単には手に入らなかった)事が証明しているように、ジラファティタンを独立した恐竜として見る声はまだ少なかった。

ジラファティタンの独立

ブラキオサウルスが誰もが知る超メジャーな恐竜であるのに対して、ジラファティタンは「アフリカ産ブラキオサウルス」という亜種的な位置付けでしかなく、知名度も相変わらず低いままであったが、2009年にブランカイとアルティトラクスの化石を比較していたマイケル・テイラーが研究結果を纏めた論文を発表した事によって状況は一変する。

マイケル・テイラー(Palaeontologist Michael P. Taylor.)

ブランカイとアルティトラクスの化石を徹底的に比較したテイラーは、両者の骨の形状が大きく違う事を指摘して、改めてブランカイがジラファティタンであると主張する。

これによって、ブラキオサウルスとジラファティタンは別の恐竜であると証明され、ブラキオサウルス・ブランカイはジラファティタン・ブランカイとなり、フンボルト博物館に展示されている骨格もジラファティタン・ブランカイに改名される。

ジラファティタンという恐竜が正式に認められたのは大きなニュースだったが、それ以上に世界に衝撃を与えたのは「世界で一番有名なブラキオサウルスがブラキオサウルスではない」という事実だった。(これまで描かれていたブラキオサウルスはジラファティタンがモデルになっていたので、ブラキオサウルスに関する常識が全て覆された事になる)

研究はこれからも続く

今回はブラキオサウルス・ブランカイの発見と、ブランカイがジラファティタンという別の恐竜になるまでの経緯を紹介したが、これまでブラキオサウルスと言われていた恐竜がブラキオサウルスではないと明らかになったのは、実はこれが初めてではない。

1947年にポルトガルで発見された竜脚類の化石がブラキオサウルスのものであるとされ、1957年にブラキオサウルス・アタライエンシスと命名されたが、ジラファティタン同様に化石の研究が進むにつれてブラキオサウルスとは違う事が明らかになり、2003年にルソティタンという名前に改名されている。

ルソティタン(Hypothetical reconstruction of Lusotitan)イメージ

ブラキオサウルス、ジラファティタン、ルソティタンは生息時期もサイズもほぼ同じであり、アメリカ、アフリカ、ヨーロッパに住んでいた彼らがどのような形で進化したのか、非常に興味深いところである。(現在ブラキオサウルス科に分類されているサウロポセイドンも一部の化石しか見付かっていないため、将来は別の科に分けられる可能性も十分にある)

なお、想像で描かれたジラファティタンやルソティタンのイラストを見るとブラキオサウルスの色違いでしかなく、ゲームの『モンスターハンター』シリーズでいう亜種か希少種のようにしか見えないが、今の時点では同じネコ科でも外見は全く違うトラとライオンよりも違いは小さい。

もっとも、トラでいうシベリアトラやスマトラトラのように細かく分けられた亜種であるとはっきり決まった訳でもないので、今後の研究の進展と新たな証拠の発見に期待したい。

(文 / mattyoukilis

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