トランプ落選でテスラ株が上昇?バイデン政権が誕生すれば米国はこう変わる

11月3日の米国大統領選挙が迫ってきました。現職で共和党候補のトランプ大統領(74)に対し、民主党は8月17-20日の党大会で、オバマ政権時の副大統領ジョー・バイデン氏(77)を大統領候補として指名。副大統領には、数ある候補者の中からカマラ・ハリス上院議員(55)が選出されました。

ハリス氏は両親がジャマイカとインドの出身で、バイデン氏が勝利すれば、女性で初の副大統領となります。民主党は黒人系女性の起用を党の多様性を反映する象徴として位置づけ、大統領選のカギを握る女性やマイノリティの支持拡大に繋げる心づもりでしょう。


トランプ大統領は劣勢

世論調査では、バイデン候補の優位が伝えられています。同氏が勝利した場合、政策が大きく変わる可能性は高いでしょう。

バイデン氏は7月9日、大統領選に向けた経済政策「より良い復興(Build Back Better)」を発表。米国が直面している危機として「新型コロナウィルスの大流行」「経済」「人種正義」を挙げ、こうした将来の危機に対応することは国家にとって大きなチャンスだと主張しました。

バイデン氏の政策の4本柱とは

同政策は4つの柱から成ります。第一は、製造業やテクノロジー企業支援、政府調達における米製品を優先的に購入する「全ての米国製」政策です。政府調達を4年間で4,000億ドル増やし、電気自動車(EV)や先端技術分野で米国製品を購入していきます。また、研究・開発やEV、5G、AIなどに3,000億ドル投資する計画です。こうした親ビジネスよりの政策を打ち出すことで、企業や株式市場にあるバイデン氏に対する懸念の緩和に務めています。

第二は、環境・インフラ投資で、4年で2兆ドル(=約210兆円)を投資する計画です。2035年までに電力部門が排出する温室効果ガスをゼロに抑えるだけでなく、気候変動対策として戦略的にEVやクリーンエネルギーへ投資することが重視されています。環境分野での新たな大型投資により500万人の雇用を生み出す計画です。

第三は、教育・福祉の分野で、今後10年間で子育て支援に3,250億ドル、高齢者介護に4,500億ドルなどの支出を計画しています。第四に、人種平等政策では、制度的な人種差別に対処し平等を推進するとして、人種的マイノリティを支援するための税控除などを発表しました。

大きく変わる環境政策で、恩恵を受ける企業は

バイデン氏へ政権が交代した場合、最も大きく変わるのが環境政策です。2015年12月に国際的に採択された温暖化対策「パリ協定」を巡り、トランプ大統領は脱退を決定(正式離脱日は選挙翌日の11月4日)。これに対してオバマ政権の政策を引き継ぐバイデン氏は、「パリ協定」への再参画と、前述した4年で2兆ドルにのぼる環境投資を表明しました。

トランプ政権は、地球温暖化対策は米国企業、特に石油などのエネルギー関連企業の競争力の低下を招くと主張。トランプ政権による法人税の引き下げ(35%→21%)に逆行するバイデン氏の法人税率の引き上げ(21%→28%)は、大企業にとって利益の抑制要因になると非難しています。

しかし、バイデン氏は環境投資や米国製品の購入政策は米国の競争力を強化し、1,000万人規模の雇用創出に繋がることを強調して反論しています。実際、省エネや新エネへの移行は大きなビジネスチャンスです。

例えば、テスラは次世代パワー半導体採用による省エネ性能の飛躍的な向上に、9月のバッテリーディにおける低コスト・長寿命の新しいバッテリーの発表への期待が加わり、バイデン政権誕生観測から株価は大きく上昇しています。世界の電動車市場は19年から25年にかけて年率平均+35%で成長する見通しです。

世界最大の風力・太陽光発電事業者ネクステラ・エナジーへの注目も大きいです。米IT企業のデータセンター建設ラッシュによる電力需要が増加する中、環境意識の高い大手企業を中心に二酸化炭素の排出量を削減する動きが加速していることが追い風です。

フェイスブックなど巨大IT企業は、使用する電力全てを再生可能エネルギーで賄うプロジェクト「RE100」に署名しています。

欧州でも過去最大の環境投資で経済政策にテコ入れ

バイデン氏の政策に先立ち、欧州連合(EU)でも、経済の復興と脱炭素社会への移行を両立させる「グリーンリカバリー」が掲げられ、化石燃料の代替エネルギー開発に膨大な投資を行う計画が勢いづいています。

「パリ協定」を背景に、EUは2019年12月、2050年までに温室効果ガスの排出を中立(ネットゼロ)にするなどの目標を法制化する「欧州グリーンディール」を公表。中間目標として2030年までに1990年対比55%削減(最低で50%削減)を目指しています。

2020年1月には「持続可能な欧州投資計画」(別名「欧州グリーンディール投資計画」)を発表し、10年間で1兆ユーロ以上の投資計画を示しました。この財源の一部として、EU首脳会議は7月21日、新型コロナで打撃を受けた欧州経済を立て直すための7,500億ユーロ(約92兆円)の「復興基金」の創設で合意。この基金の約3分の1は気候変動対策に充てられます。EU次期7ヵ年中期予算と合わせると、過去最大規模の環境投資を伴う刺激策となります。

高い成長をみせる洋上風力発電

欧州の再生可能エネルギーセクターでは、洋上風力発電の高い成長性が注目されます。2017 年に合併して誕生したシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジー(ドイツ・スペイン)が洋上風力分野で風力タービンなど機器メーカーとしては世界シェア1 位です。三菱重工業は2014年、デンマークの風力発電メーカーのヴェスタスと折半出資で、洋上風力設備に特化したMHI ヴェスタスを設立しています。

米国でバイデン政権が誕生すれば、見える景色は一転すると予想されます。世界的にグリーンテクノロジーの活用が活発化するフェーズに入っていく可能性が高まっていく見通しです。

<文:シニアストラテジスト 山田 雪乃>

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