【レースフォーカス】ビニャーレスが直面したブレーキトラブル/レース2で中上が履いたタイヤ:MotoGP第6戦

 MotoGP第6戦スティリアGPの決勝レースでは、マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)のマシンが1コーナーのアウト側エアフェンスに突っ込み、炎上。赤旗が提示されてレースが中断となった。このとき、ビニャーレスにはブレーキのトラブルが発生していたという。

 また、再開されたレース2では、レース1で上位を走ってた中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)などがポジションを維持できなかった。その原因はどこにあったのだろうか。

■ビニャーレスのマシンに起こったブレーキのトラブル

 17周目、ストレートから右に曲がる1コーナー前から、ビニャーレスのマシンが直進。ハイスピードのままエアフェンスに突っ込むと、マシンが燃え上がった。ビニャーレス自身はマシンがまだコース上にあるうちに飛び降り、ビニャーレスに怪我はなかった。このアクシデントにより、レースは一時中断となる。

 ビニャーレスは「最初、バイクはとてもよかったのだけど、3周、4周くらいからフロントブレーキのプレッシャーを失い始めた。26秒台になった周もあった」と、レース後に行われたオンラインの取材で状況を説明した。

 レース1で5番手スタートだったビニャーレスは、序盤、7番手付近を走行。ビニャーレスのコメントによれば、このころからブレーキに違和感を感じていたことになる。

 レースを続けたビニャーレスは、その後、10周目から少しずつポジションを落としていった。13周目には、左手を上げてスロー走行をするシーンも確認できる。この周、ビニャーレスは一時1分24秒中盤を記録したラップタイムを1分28秒台にまで落としている。しかしその翌周には、再び1分24秒台のタイムに戻した。アクシデントが起こったのはその4周後だった。

「(17周目の1コーナーで)フロントブレーキが突然爆発した。できることは何もなかった」

 それはビニャーレスにとって、これまでに経験がないものだったという。ブレーキに何かが起こったと感じたビニャーレスは、マシンから飛び降りることを決断した。右側から転がり落ちるようにマシンから離れたビニャーレス。このときは完全にノーブレーキの状態で、約230km/hのスピードが出ていた。

「ブレーキのパーツが飛んで行ってしまい、それでブレーキが利かないと思ったんだ。それでなにより、バイクから降りようとした。バイクをストップできなかったから」

 ビニャーレス自身に大きな怪我がなかったことは幸いだったと言える。ブレーキのトラブルと言えば、先週のオーストリアGPで、ビニャーレスと同じくヤマハYZR-M1を駆るファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)が言及していたことだ。

 このときクアルタラロは「ブレーキが柔らかいと感じていた。4本の指を使ってバイクを止めようとしていた。(赤旗中断中に)レース2に向けてブレーキディスクとキャリパーを交換したけれど、変わらなかった」と述べていた。

 そのクアルタラロ、スティリアGPでは「レース後、(ブレーキが)柔らかくなっていた」と感じたという。ここ数戦、マシントラブルが発生しているヤマハ勢。エンジンの使用基数がライバルメーカーよりも多くなっている懸念もある。ともあれ、今回のトラブルの原因究明が急務となりそうだ。

■レース2の明暗を分けた、残されたタイヤ

 赤旗中断後に再開されたレース2は、レース1とは違った展開を見せた。レース1ではトップを走っていたジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)が後退。同じくレース1で2番手にまで浮上した中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)も、レース2では奮わなかった。その原因には、レース2に向けて装着したタイヤがあったようだ。

 レース1で上位をキープしていた中上は、「すべてがコントロールできていると感じていました。初めて『勝てるレースだ』と感じたんです」という。にもかかわらず、レース2で7位フィニッシュとなった理由はタイヤにあった。

「レース2では、新品タイヤがありませんでした。僕はリヤタイヤにソフトを履きたかったのですが、残念ながら、新品のソフトタイヤがなかったんです。今日の上位陣は、みんな新品タイヤを履いていましたが、僕たちは持っていませんでした。とにかくグリップがなかったんです」

 中上がそう語るように、優勝したミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMテック3)、2位のジャック・ミラー(プラマック・レーシング)は、コンパウンドや前後の組み合わせを変更してはいるものの、新品タイヤを履いていた。ポル・エスパルガロ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)はフロントにユーズドのソフトタイヤを履いたが、リヤに装着したミディアムタイヤは新品である。

 一方、中上はフロントにミディアム、リヤにソフトタイヤの組み合わせは同じながら、レース2ではユーズドタイヤを履くしかなかった。レース1でトップを走行し続けていたミルも同様に、レース2ではユーズドタイヤを履いたとコメントしている。

 前戦オーストリアGPで、同じことがエスパルガロにも起こっていた。レース2に向けてリヤに履く新品のミディアムタイヤが残っていなかったエスパルガロは、そのためにバイクを止められなかったと語っていた。今回、レース2でリヤに新品のミディアムタイヤを履いたエスパルガロは「ジョアン・ミルについては残念に思う。彼に起こったのは、僕に先週起こったことに似ていると思うから」と、レース後の会見のなかで、ミルの後退について言及した。レース2では、残りのタイヤが明暗を分けたと言える。

 中上は今後について、赤旗に備え、タイヤを残すかと問われ「イエス」とも答えている。「サーキットによりますが、今後は別のバックアップを考えないといけないかもしれません」。

 奇しくもレッドブル・リンクの2戦で赤旗中断が発生し、再開されたレースで、各ライダーが残していた(残っていた)タイヤが、それぞれのレースの結果を生んだ。今回の2レースは、今後のレースウイークにおけるタイヤの残し方に少なからず影響を与えるかもしれない。

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