東京五輪で初めて実施される空手の形女子で金メダルを目指す清水希容(しみず・きよう、ミキハウス)に、競技への思いを聞いた。(聞き手、共同通信=村形勘樹)
―新型コロナウイルス禍での生活は。
東京五輪が延期され、国際大会はいつ再開されるのか分からないけど、今はすごく稽古に打ち込めている。この半年はあっという間に過ぎた。来年はもっと早く感じるだろう。一日一日を大事にしたいと思う。
―空手との出会いは。
空手を始めたのは小学3年の時。1歳上の兄の練習を見学しに行った際に、女子の先輩による形の演武を見て「空手ってこんなにきれいで格好いいんだ」と思った。空手は男子の闘いというイメージが強かったけれども、その美しさが子ども心に響いた。自分を表現できるところもすごく楽しいと感じた。
―人前で演武を披露するのは昔から好きだったのか。
小学4年で初めて出た地元大阪の区の大会で優勝した。「私を見てほしい!」という気持ちは当時から変わらない。自分と向き合って黙々と練習することが苦にならない性格も、形に向いていたのかもしれない。
―結果にこだわりだしたのはいつから。
中学時代。初めて出場した学年別の全国大会で、すばぬけて強い2人の選手がいた。もっともっと、うまくなって勝ちたいという気持ちが出た。それからずっと3位止まりだったが、高校3年の全国高校総体で初めて日本一を経験し、さらに大きな舞台に立ちたいという気持ちが強くなった。
―2014、16年に世界選手権を制した。
誰もが目標にし、世界で2人しか立てない決勝の舞台はすごく特別だった。そこからの眺めというのは、他の大会と比較にならないくらい気持ちが良かった。ただ、演武に納得できたかといえば、全然できていない。まだまだ課題だらけだと思っている。
―形の魅力とは。
形はただ見せるだけのものではなく、相手との攻防を体現している。そのことを知っているだけでも、見え方が全然違ってくると思う。「どうやって(見えない相手と)闘っているのかな」という視点で見てもらえたら。
―どういう演武を追求している。
「受けたら本当に倒れそうだ」と思われるまでに突きや蹴りを磨き上げ、攻防が目に浮かぶような演武を目指している。空手を知らない人でも空気を切る音や雰囲気を肌で感じてもらえたらいい。
―表現の幅を広げるための取り組みは。
空手が楽しく、ずっと空手漬けの日々だったけれど、ここ数年は息抜きの意味も込めて異分野にも視野を広げ、空手につなげようとしている。昨年は長野の善光寺で写経に挑戦し、無の境地を体験した。劇団四季の公演も定期的に鑑賞し、自分たちと同じくミスの許されない舞台に立つ緊張感や客席の隅々まで届ける表現力を興味深く見ている。
―読書から得ることもあるとか。
たくさんある。今回の(新型コロナの)自粛期間に読んだのは、自分の流派である糸東流の宗家の本。初代や先代がどういうふうに空手の動きをつくってきたのかということが書いてあった。当時の考えを学べるのは大きい。
―伝統が継承されて今がある。
そうですね。途切れて、なくなってしまっている部分もある。私も次の世代に伝えていけるように今、頑張って知識をためている感じだ。空手は武道で、競技的側面だけが全てではない。たくさんの先生方からの教えを無駄にしないようにしたい。
―「希容」という名前は珍しい。
祖父の知人が付けてくれた。希望の器をどんどん大きくしながら成長し、夢を成し遂げられる人生を歩めるように、という思いが込められている。名前は好きで、大事にしている。
―空手は24年のパリ五輪では実施されない見通し。
来年は空手界にとって最初で最後の五輪になるかもしれないので、あと1年しっかり練習を積んで、その集大成をぶつけたい。私は現役を引退しても死ぬまで空手に携わるつもりでいる。五輪から外れても空手が消えるわけではないので、多くの人たちに魅力を伝えたい。
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清水 希容 空手・形女子の東京五輪代表。小学3年で空手を始め、世界選手権は14、16年に優勝、18年は2位。全日本選手権は13年から7連覇中。アジア大会は14、18年に制した。東大阪大敬愛高、関大出。ミキハウス。160センチ、56キロ。26歳。大阪府出身。