ゼン・ジェリコは徒花じゃない!時代の狭間に響くストレートなバンドサウンド 1987年 3月21日 ゼン・ジェリコのデビューアルバム「ファースト(ザ・サウンド・オブ・ミュージック)」が日本でリリースされた日

中高生の自己主張! 透明下敷きに挟み込むアーティスト写真

皆さんは中学・高校時代、透明な下敷き(硬質カードケース?)に雑誌の切り抜きを挟んでいませんでしたか? 1972年生まれの私が中高生の時はクラスメイトの結構な割合がお気に入りのアイドルやミュージシャン、スポーツ選手の切り抜きや映画のチラシなどを下敷きに挟んでいました。正確に言うと下敷きではなく、今でいうクリアファイルのもっと硬いやつ… あれに切り抜きを挟んで、下敷きのかわりに使っていたわけです。挟み込むアイドルやアーティストのセレクションは中高生のちょっとした自己主張で「オレ、こんな音楽聴いてるぜ」的なアピールのアイテムだったのです。

洋楽ロック好きの私も御多分に漏れず “切り抜き挟み中学生” で、ザ・スミスのモノクロ写真を挟んでおりました。一方、同じクラスの洋楽好き女子たちは、デュラン・デュランや a-ha、G.I.オレンジの切り抜き率が高くて、彼女たちからは「岡田くん、スミス好きなんだ… 暗いよね…」的な陰口をヒソヒソと言われており、当時の私にとっては解決しなければならない大きな課題であったのです。

1987年にデビュー! イギリス出身のロックバンド、ゼン・ジェリコ

1987年4月、私は地元の公立高校に入学します。ティーンエイジャーにとって、卒業~入学というタイミングは、イメージを一新する大きなチャンスなのであります。そう、高校イメチェンのチャンス到来です! スポーツ刈りだった髪型をもう少し伸ばし、銀縁眼鏡からコンタクトレンズに変えるのと同時に、下敷きの中身も一新したことは言うまでもありません。そして、私がセレクトした切り抜きは “ゼン・ジェリコ” だったのです。

ゼン・ジェリコは1987年3月にデビューアルバム『ファースト(ザ・サウンド・オブ・ミュージック)』をリリースしたイギリス出身のロックバンド。ボーカルのマーク・ショウは抜群のルックスでモデルとしても活躍していた。音楽性はニューウェーブ以降のギターサウンドをベースにしたロックなのだが、スミスやエコバニのような暗さや捻くれた感じはなく、もっとストレートなサウンドだ。また、U2やアラームのような熱血漢とは違う溌剌とした熱さもあり、ありそうでなかなかないサウンドが魅力のバンドだった。私は迷わず、ゼン・ジェリコの切り抜きを下敷きに挟み込み、高校生活をスタートさせたのだ。

高校生活にも慣れてきた頃、私の下敷きを見て「岡田、下敷き、ゼン・ジェリコじゃん」と声を掛けてきたクラスメイトは2名だけ… しかも、両方とも男子だ。こうして、私の “ゼン・ジェリコで高校イメチェン計画” は失敗に終わった。

当時、クラスの女子たちの注目はデュラン・デュランや a-ha ではなくなっていたようなのだ。私が高校受験のお勉強を頑張っているその間に、中高生の間ではBOØWYがブレイクし、大人気になっていたのだ。そう、高校生の興味は、BOØWY以降、ブルー・ハーツやユニコーンらのバンドブームや折からのヘヴィメタル・ブームを受けて、メタル・バンドに移り変わっており、教室での音楽談義の中心は80年代洋楽アイドルではなくなっていたのだ。

UKロックシーンに風穴を空けようとする強い意志

一方、ゼン・ジェリコは東京郊外の公立高校の教室での一コマとは無関係に活発に活動していた。目立ったシングルヒットがあったわけではないのだが、アルバムはUKチャートで35位に入り、新人ロックバンドのデビュー作としては立派な成果を残している。日本においても洋楽専門誌ではよく取り上げられており、アイドル的な側面だけではないロックバンドとしての人気もあったように記憶している。

1989年にはセカンドアルバム『ザ・ビッグ・エリア』を発表し、タイトルトラックがUKシングルチャート13位のヒットとなり、アルバムも同チャート4位の大ヒットとなった。しかし、多感な高校生だった私は、セカンドアルバムにおけるバンドの成長は売れ線狙いのセルアウトに感じてしまった。1989年にはイギリスからもアメリカからも新しく勢いのあるロックバンドがたくさん登場しており、たった2年前にデビューしたゼン・ジェリコでさえ80年代ロックの遺産のように見えてしまったのだ。

今にして思うとゼン・ジェリコは、80年代ニューウェーブと90年代インディーロック復権の狭間にデビューし、上手いこと時流に乗れなかった悲しいバンドだったのではないだろうか? しかし、1987年のデビューアルバムには、活気のなかった当時のUKロックシーンに風穴を空けようとする強い意志と勢いを感じる。

本稿執筆のため久しぶりに聴き返した『ファースト』からは、80年代ロック特有の “今聴くと恥ずかしい” 感じもない、むしろ、時代的なトレンドとは関係なく溌剌とした若いロックバンドのアーカイブとして純粋に聴くことができる。80年代徒花的に評価されるバンドだが、なかなかどうして、今聴いても古臭さを感じさせない良質なバンドサウンドを鳴らしていたことは評価されるべきではないだろうか?

さて、余談だが今の中高生は透明な下敷きに雑誌の切り抜きを挟んでいるのだろうか? スマートフォンがあるのだから、そんなことする必要ないのだろうな。

追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。

カタリベ: 岡田浩史

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