【第7回/ゲイカルチャーの未来】世界のLGBTニュースを日本に提供し続けるジャーナリスト/北丸雄二インタビュー

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昭和から平成、そして令和にかけて50年近く、ゲイメディアの主流として様々な情報や出会いを発信し続けてきた商業ゲイ雑誌。昨年1月末に不動の人気を博した『バディ』が休刊し、今年4月には最後の砦であった『サムソン』も休刊。日本の商業ゲイ雑誌の歴史に幕を下ろした。

時代を遡ること26年前、バディが創刊された頃はまだ、一般のゲイ読者が雑誌に顔出しで登場する時代ではなく、当事者たちにとってもゲイコミュニティはミステリアスで、知らないことだらけだった。そして、現在はインターネットが主流となりカミングアウトする人が増え、SNSや動画配信でもゲイ個人が自分の個性を活かして大きな影響を生み出している。

「ゲイメディア」=「ゲイ雑誌」という単純で分かりやすかった時代が終わり、商業ベースのマスメディアから、個人が情報を発信するインフルエンサーへと時代が移り行く過渡期の今、伝説的ゲイ雑誌を創った4人が語るこれからを担うゲイに託す未来への希望。そして、日本のLGBT文化を支え続ける7人の瞳に映るゲイカルチャーの未来を届ける全11回のインタビュー特集をお届け。

第7回目となる今回は、権力を様々な視点から見つめ、時に批判を交えて戦い、人々に正しい情報を伝えるジャーナリストの北丸雄二さん。20年以上前からゲイ雑誌バディや講演、ブログなどで海外のLGBT関連ニュースを提供。日本はなぜ海外よりLGBT人権問題の取り組みが遅れているのか。そして新たな過渡期を迎えたゲイカルチャーとマスメディアについて話を伺った。

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──言葉の壁で、世界の情報が届かない鎖国・日本の問題点。

私がニューヨークに拠点を移した1993年はAIDS/HIVの問題がピークを迎えた頃で、96年にカクテル療法が登場して様々な社会運動が起きていたんだけれど、日本の新聞では同性愛の人権運動を主軸にした原稿はなかなか書けなかった。もちろん、70年代からゲイ雑誌では南定四郎さん、ラジオでは大塚隆史さんが断片的に情報を伝えることはあったんだけれども、90年代初期はインターネットもなく、日本にはまだアメリカのLGBT事情をアウトレットして伝えられる一般のニュースメディアが存在していなかった。

一方のアメリカでは毎日LGBT関連の情報が更新されていて、ハラスメントだったり教育問題だったり、様々な出来事と動きがあったわけさ。ところが日本は情報の鎖国状態だったからそうしたニュースが伝わらない。そのタイミングで創刊して間もなかったバディからお声が掛かり、当時のアメリカを中心としたLGBTニュースを伝えるコラム連載を始めたのが1997年。その連載は私が定点観測してLGBTの歴史全体が見えるようになったきっかけでもあったので、良い経験をさせてもらったと思う。

ところがそれから20年以上経った今でもやっぱり鎖国感が払拭できてないのさ。
日本という国は本来なら和洋折衷で海外の文化を取り入れるのが得意な国なのに、日本語で守られているというか、今でも言葉の壁で世界から隔離されているんだよね。既にリソースとして海外ではいろんな事件や歴史があって、近代社会もしくは現代社会の中で様々な切り口や解決方法が示されているから、どういう経緯を経て成功したのか、もしくはなぜ海外では失敗したのかをきちんと整理して咀嚼すれば「日本ならこう修正すれば成功する」などの見通しを立てて微調整することもできるはずなんだけど、日本語に翻訳するとニュアンスが変わってしまうこともたくさんあって難しくなっている。

その良い例が日本のプライドパレードだったと思うよ。欧米のスタイルとマニュアルをそのまま日本に持ち込んで東京でやってみたら日本の土壌とは合わないことがたくさん出てきて、あちこちテコ入れしながらスタイルを確立していった。その結果札幌のパレードみたいにその地域文化と共存したものも開催されるようになったじゃない。

訳書『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』ジェローム・ポーレン・著、北丸雄二・訳/サウザンブックス社/2860円(税込)

──次のステージへ進む時代。バディの終焉にはちゃんと意味がある。

ゲイというのは性と愛の話でそこから生活に繋がるんだけど、LGBTに限らず実
生活に即したものには性の問題は組み込まれているんだよ。社会制度の中では性の話題は隠されてきたけれども、話しをすることは淫らなことでもなんでもなくて、頭を拡張していろんなことに対処できるようになるわけさ。性を恐れずに語り合うことで性病の感染爆発が防げることはすでに実証されている。

欧米のLGBT人権問題というのは遡れば80年代に社会問題化したエイズから本格化しているんだよね。世間がエイズ蔓延の元を知るにはゲイ側がゲイの性事情を一度剥き出しにする必要があった。それと、この手のムーブメントではお金が動くというのも欠かせない大切な要素で、LGBTを扱った書籍が出版されて支持を得ると、利益を求めて映画産業などがそこに乗っかろうとする。欧米ではそうやって様々な産業を巻き込みムーブメントを大きくして、同時に性愛の話をラディカルなところまで突き詰めたから、障害を乗り越えることができて今があるわけ。

これからの私たちが問題を解決していくためには、いかにメタの視点で物事を考えられるかが問われていると思う。「分け隔てなく情報を提供できる場」がなかった90年代に、その「分け隔てられて日本に入ってこなかった情報」を提供したバディは一時代を画したのだと思う。同時に「ハッピー・ゲイライフ」というゲイが目指す理想を打ち出したわけだけどさ、それが幻想だと分かった上で、それでも信じてみんながメタに上がることができたから、当時の日本のLGBTが抱えていた問題をクリアできたと思うんだ。
メインカルチャーでもLGBTの情報を伝えられるようになった今、バディが役割を終えるというのは、次のステージに進む時期が来たという大きな意味があったんだと思うよ。

■ 北丸雄二/きたまるゆうじ
ジャーナリスト、作家、翻訳家。1996年まで東京新聞(中日新聞)ニューヨーク支局長。その後独立し、9.11テロや大統領選挙などNYから米国政治、社会、文化に関する報道評論活動。2018年に日本に帰国、現在は東京新聞で「本音のコラム」連載中のほか、AM/FMラジオ及び「デモクラシー・タイムズ」などのネットメディアで米国関連のニュース解説や論評を行う。一方で『ヘドウィグ&アングリー・インチ』『アルターボーイズ』『ボーイズ・イン・ザ・バンド?真夜中のパーティー』などのミュージカル/戯曲や英米文学の翻訳、評論も多数。近著に訳書で『ノーマル・ハート』(ラリー・クライマー著)、『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』など。
■ http://www.kitamaruyuji.com
■ Twitter@quitamarco

取材・インタビュー/みさおはるき
編集/村上ひろし
写真/EISUKE
記事制作/newTOKYO

※このインタビューは、月刊バディ2019年3月号(2019年1月21日発行)に掲載された「ゲイカルチャーの未来へ/FUTURE:From GAY CULTURE」を再編集してお届けしております。