いよいよ時代はYouTube（いや、雑誌も負けませんよ）！
猫も杓子もバスプロも続々とYouTuber宣言している昨今、すでに一定の人気を獲得しているバス釣りYouTuberの「ないちゅーん」さんに密着して、YouTuberの現実と夢、そしてどんな機材を使っているのかなどを詳しく語ってもらった。キミもユーチューバーデビューしてみる！？
釣りYouTuberないちゅーんさんをスッパ抜き!!
【Profile】
ないちゅーん
愛知県出身の人気釣りユーチューバー。もともとデザイン関係の会社で、商品宣伝のために始めたユーチューブチャンネルの「ワンキャスTV」で人気者になる。
今年の2月に独立し、ないちゅーんチャンネルを開設。登録者数などは非公表ながら、順調に動画を投稿している。
ガンクラフトとコラボし、オリジナルカラーのジョイクロを発売したこともある。
バスプロではないバス釣り有名人、というニューウェーブ
担当編集Kより「ないちゅーん」さんというYouTuberを取材してほしい、という仕事の依頼を受けたのだが……正直、ないちゅーんさんを知らなかった当の中年ライター。もちろん事前に動画をチェックした。すると、映っているのは比較的どこにでもいそうな青年である。釣りのウデ自体は一般人の域をそれほど逸脱していないように見えるが、しゃべり方や立ち振る舞いはスマートかつ慣れたもの。この「親しみやすいほどほど感＋コミュ力」が人気の理由なのか？
本降りの雨の朝5時半。五三川の駐車場にて初顔合わせ。うむ、水も滴るいい男である。「ないちゅーんです！」と、本名ではなくYouTuber名（？）で自己紹介していただいたのも新鮮だった。
早速、釣り& YouTube動画撮影を開始。YouTuberなので、なにやらブツブツとしゃべりながら釣りをしている。釣り方はというと……イマカツのギルロイドベビーを、立っている側の護岸際に投げてちょんちょんやりながら引いてきたり、対岸に投げてから川の流れに乗せてオーバーハングの中に入れて放置……という感じである。
釣り自慢ではYouTuberにはなれない!?
ないちゅーん「この前、ギルロイドベビーで55cmくらいありそうなバスを掛けたんです、ランディングをミスってバラしたんです。その後、アレを超えるバスを釣ってないのもありますが……ビッグベイトがマイブームですね。昔はとりあえず、1匹釣りたくてワームとかを使ってたんですけど、今は、一個のルアーを使い続ける。ルアーが大きくなればなるほど釣れたときの感動も大きくなると思っています」
そう言いつつも、今度はシマノのバンタムBtフロッグで対岸のブッシュを撃っている。
ないちゅーん「1年前くらいに、伊豫部健さんがフロッグで釣ってて、その動画がすごい人気だったんですよ。なら、フロッグで釣ったら視聴回数が回るかな……と。トレンドも結構重要なんですよ」
と、すぐに正反対のことを言える柔軟さ。やはり、YouTubeは魚を釣るよりも人を釣る方が大事なのか？
ないちゅーん「ハハハ、結局人を釣れないと観てもらえないんで。YouTubeってそんな感じですよ。いくら魚を釣ってても、その内容によって観てもらえなかったりする。トレンドを抑えるのは重要です。新製品が出たらとにかくすぐに使ってみるとかね」
なるほど……。今まで取材させていただいたバスプロのみなさんも「ただ釣る」だけの人は少ないが……単なる釣り自慢じゃYouTuberはダメなのかもしれない。
YouTubeでカッコつけるのはNG。リアルさと親近感こそが大事
「釣れない……」そんなリアルを飾らずに見せた方が面白い
ないちゅーん「釣れないです……。五三川とはいえ前はこんなに人がいなかったんですけどね。僕が動画でやってから釣り人が増えました」
通りがかる釣り人に「ないちゅーんさんですか？ 観てますよ」と軽いノリで声を掛けられている。このハードルの低さもバスプロとはちょっと違うかもしれない。他の地元アングラーから「動画で場所を出すと釣れなくなるからやめてね」…とかいかにもありそうな話だが……ないの？
ないちゅーん「ないですね。逆に、視聴者さんが現場で釣れる場所を教えてくれることが多いです。僕はバンバン大きいのを釣る方じゃなく、どちらかというとドジっ子キャラなんで、警戒されないんですよ」
この日は釣り開始時点からずっと本降りの雨だったが、ないちゅーんさんはいかにも釣り人然としたレインコートは持っていないのか……上はカッパ風ジャケットに下は短パンである。つまり、ずぶ濡れなわけで……。
ないちゅーん「パンツまでビショビショになっちゃいました。もう上がりますかね……」
と、7時22分にギブアップ。まあ、必ずしもバスを釣ることだけが本題ではないのはYouTubeもこの記事も同じ（ていうか、もう豪雨辛かったです）。ということで、ないちゅーんさんの自宅がある愛知県某所へ向かった。
主な使用タックルを手前から。
●フロッグに使用
ロッド：レイトブルーミングス（トランスセンデンス）
リール：アルカンセSTD HS（ZPI）
ライン：ルアーPE5号（東レ）
●ビッグベイトに使用
ロッド：ワイルドサイドWSC68XXH-5（レジットデザイン）
リール：アルカンセ ブリゲードHS（ZPI）
ライン：エクスレッド タイプNS18ポンド（東レ）
●ベイトフィネス
ロッド：トライザF4-69XTZサンダーバード（メガバス）
リール：アルカンセRGC NS（ZPI）
ライン：エクスレッド タイプNS10ポンド（東レ）
ないちゅーんさんのYouTubeスタジオに潜入！ カメラはiPhoneでOK
郊外にある、一軒家。庭にはお父さんのアルミボートや大型バイクがある。ご自宅の階段を上がると……そこがないちゅーんの自室兼YouTubeスタジオだ。
ないちゅーん「いつもここに三脚を立ててiPhoneで生配信をしています。画面に流れるコメントを拾いながら質問などに答えてます」
カメラはiPhoneですか？
ないちゅーん「本当はハンディカムもいいんですけど、配線が高かったりして…こっちの方が手軽にできますからね。iPhoneひとつあればなんでも割とできちゃうんで、コスパがいいです」
動画編集のスキルはまったくなしからスタートしたYouTube動画制作
では、改めてインドアなインタビューを。どうしてYouTubeを始めたのだろうか？
ないちゅーん「以前、デザイン会社に勤めていたのですが、自社製品を作ろう、という提案をしたんです。僕は釣りが好きだったので、どうせならそれを仕事にできたらいいな、と。それが、2017年。当時はまだバス釣りYouTuberはあまり多くなく、彼らに自社製品の宣伝をお願いしようとしましたがギャラが高くて……。そこで、ローコストで宣伝するために自ら演者として出よう、ということになったのが始まりです」
そのチャンネルの名前は、ワンキャスTV。仕事のような遊びのようなプロジェクトであるが、すべてが手探りだったという。
ないちゅーん「そのときは動画編集のスキルはまったくなく、不安でしたが、いざやってみると好きなジャンルなせいかサクサクとできるようになりました。動画を上げれば上げるほど視聴者さんの数も増えていきました。あと、反応がリアルな数字に現れるのも面白かったですね。視聴者さんからのフィードバックもモチベーションが上がるきっかけになりました」
無理をしてカッコイイ動画を作る必要なんてなかった
プロが作るテレビ番組や市販されている釣りDVDなどと、YouTube動画はなにが決定的に違うのだろうか？
ないちゅーん「最初はそういうプロが作ったものを参考にしていたんですけど、どうもカッコつけてるんですよね。最初は僕自身もそうでした。ミスしたシーンはカットして編集してたんですよ。オープニングも長ったらしくカッコいいシーンをBGMで映像を切り替えたりして……。でも、それってあんまり求められてないんだな、ということが数字からわかった。もっとリアルで親近感のある表現をみんな求めてるのかな、と切り替えていきました。バックラッシュしたのも、根がかりを入水して取りに行くのも平気で見せるんですよ。そういうみんなが経験してるであろうことをあえて見せていく。そこは大事にしていますね」
商業誌としては少々耳が痛い話な気もするが……次のページからはYouTubeの真髄にもうちょっと近づいてみることにしよう。
バス釣りYouTuberの仕事道具をご紹介【撮影機材】
ないちゅーんさんが動画制作や釣りで使っている道具たち。それほど多くもないし、いわゆるプロ仕様でもない。誰でも持っているような機材でYouTube動画は作られているのだ。ひとつずつ紹介していこう。
手ブレ補正もバッチリ、アクションカメラ：Go-Pro
定番のGoProでも最高機種を使用。
ないちゅーん「これは絶対いいですね。両側にレンズが付いていて、前も後ろも撮れるので、自撮りがやりやすい。ハーネスは改造した首掛けタイプを使っています。肌が痛くならないようにゴムチューブを巻いて、首から外れないようにストラップもつけています。以前はチェストタイプやヘッドタイプも使っていたのですが、チェストタイプは見た目が……ヘッドタイプは観ている人が酔いやすいんですよね」
サブにハンディカメラ：HDR-CX535（ソニー）
動画撮影はもっぱらアイフォーンを使うことが多いが、強風時など限界を感じたときなどはハンディカムの出番。
ないちゅーん「アイフォーンだと撮影中に電話が掛かってきたりして……ということもハンディカムならないです。ただ、古いので画質はアイフォーンのほうがいいですね」
安定した映像で絵変わり：三脚
ないちゅーん「ここ絶対釣れそうだな……と思ったときに三脚も立てて撮影します。GoProだけだと画変わりがしないので……釣り場シチュエーションも含めて表現することができます」
動画では意外と大事、指向性マイク：Video Mike Go（ロード）
ないちゅーん「超指向性が強いマイクです。野外だと風の音が問題になるのですが、これがあると綺麗に収録可能です」
画角やレンズ効果で絵変わりさせたい：パワーショットG7XマークII（キヤノン）
ないちゅーん「おしゃれに動画を撮るときはコンデジも使います。でも音がイマイチなので、映像のみですね」
自撮りのメイン撮影機はiPhone：iPhone11（アップル）
ないちゅーん「今までの動画のほとんどはGoProとiPhoneで撮影しました。iPhone8は画像はあまりよくないし16:9の画面設定ができず微妙でしたが、iPhone10以降、手ブレと画質がよくなって、iPhone11なら十分です。やっぱり新しいほうがいいですね」
長時間撮影するのに必須モバイルバッテリー：パワーコア10400（アンカー）
ないちゅーん「10,400mAhなので丸1日持ちますね」
バス釣りYouTuberの仕事道具をご紹介【編集機材】
釣りと撮影だけじゃない、編集も自分でやるのがYouTuber。売れっ子のマネをするだけでなく、独自のセンスで差をつけるチャンスだ。
編集マシン：MacBook Pro（アップル）
ネットオークションで安く買ったというMacBook Proの2014年モデル。外付けで1TBのハードディスクを使用している。別のキーボードを上に乗せているがその理由は……下に続く。
編集ソフト：PowerDirector18（サイバーリンク）
ないちゅーんチャンネルを編集しているソフト。本来、Windows用なのだが、MacにWindows OSを入れて、使用している（なのでWindows用のキーボードを使っているのだ）。編集した動画をそのままユーチューブにアップロードできるなど相性がいい。
バス釣りYouTuberの仕事道具をご紹介【現場用の釣り道具と装備】
ないちゅーんさんが釣りの現場に持ち込む撮影機材以外の道具例。これは一般アングラーとそれほど変わらないが、撮影関係機材が多少混じるのと、テーマを決めているせいなのか釣り道具自体は少なめ。
DRTのウエストバッグ、ボガグリップタイプのフィッシュグリップ、東レの糸クズワインダー、そしてバズブリゲードの腰巻タイプライフジャケット。黒系のカラーで統一している。
DRTのウエストバッグに入っているもの。特製メジャー、リューギのルアーボックス、フックなど小物をまとめたポーチ、プライヤーとハサミ、ないちゅーんオリジナルステッカー。
スニーカー好きのないちゅーんさんは、釣り場でも足元はビシっと決めている。ゴアテックス生地のナイキやガンクラフトとコンバースのコラボシューズなどいろいろ。
ZOMBIE（エレクトリック×DRT）。人気ブランド同士のコラボ偏光グラスを使用。レンズは大きめで、どんな天候でも快適。フレームも軽くて使い勝手がいい。
ないちゅーんオリジナルステッカー。
釣り場で出会った視聴者さんなどにプレゼントするという……ユーチューバーの必殺きびだんご？
ないちゅーんチャンネル特製。幅が広いので、岸釣りで使いやすい。ブラックとグリーンというのがないちゅーんさんのパーソナルカラーなのか？ ないちゅーんオリジナルメジャー。
YouTube動画の企画からアップまで、制作ルーティーンはどんな感じ？
ないちゅーん「希望としては、週3くらいで動画を上げたいんですけど、現状、週1上げられたらいいかな…っていう感じです。YouTubeは内容もしっかりしていないとダメなんで、内容の薄い動画を毎日上げるよりも、濃いものを週1のほうがいい。その1週間のサイクルは……」
1. 動画の企画の考える
どのルアーを使うか、と決める。1年前のYouTubeを観たりして季節に合ったルアーをチェック。自分が釣りたいものよりもお客さんのニーズに合わせるのが重要。でも、釣りたい気持ちもないとダメ。
2. 釣行ロケは2～3時間
五三川や大江川など、東海エリアの釣り場へGo。昼くらいに釣り場について、2〜3時間くらい釣りをする。長くなると動画チェックに時間がかかってしまうため、丸1日釣りをすることはまずない。
3. 編集作業は長くて10時間くらい
カット編集、テロップ入れ、BGM入れ……など地味な作業が続く。動画の編集は短くても2時間、長いときは10時間ほどかかる。データの移行なども含めると、平均して8時間ほど。
4. サムネイル作りは1番気合いを入れて作る
非常に重要な作業。Photoshopで、画像を加工し、キャッチーなタイトルを載せる。パワーワードがあるそうだが……詳しくは企業秘密。これは1分でできるときもあれば、丸1日以上悩むこともある。
5. 動画のアップロード
編集した動画作品をYouTubeにアップロードする。説明文はフォーマット化させて、商品名やお店の名前などをあえて入れる。そのほうが検索に引っかかりやすくなるのだ。
気になるYouTuberの収益や再生回数など、リアルな数字は？
収入、ノウハウ、ウケるコツ……気になってしかたがない釣りYouTuberの真実を、釣り球気味の直球で聞いてみた。これでキミもYouTuberを目指すか、それとも諦めるか……？
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例えば使うワードは「バスフィッシング」より「バス釣り」です。絶対！
Q. 釣りYouTubeでウケるコツは？
A. サムネイルの引きと事件性ですね。
ないちゅーん「例えば、みんながあまり行かないような秘境のダムのバックウォーター。そこで投げているサムネイルの回は22万回再生されました。『ドコ、ココ？』っていうのが一番気になるんでしょうね。あと、タイトルで事件性を感じさせるのもいいです。この穴にこのルアーを投げたらとんでもない魚が釣れた……とか、とにかく普通の釣りじゃないようなタイトルとサムネイルだとすごくいいです。想定範囲外のことを期待されるんでしょうね。あとは、自分の場合そんなに釣らないんで、実際素人が使ってどうなの？っていうリアルな視点で観てもらってるのかな。AKBの『会いに行けるアイドル』というのに近いかもしれません。五三川に行ったら会えるよ、みたいな」
Q. ズヴァリ、収入は？
A. ストラディックが1個半買えるくらいです。
ないちゅーん「しょぼいですよ。月あたり、ストラディックが1個半買えるくらいです。今の段階ではYouTubeで生活できるレベルではないです。まず、広告収入が入る条件として、登録者数1000人以上、トータル再生時間が4000時間を超えていないとYouTubeパートナープログラムに入れない。それを達成すると、『おめでとうございます』というメールがYouTubeからきます。また、ジャンルによって広告単価が違うのですが、釣りは単価が低め。ビジネス系などは単価が高いようです。動画は長いほうが広告収入につながりやすく、最後まで観てもらえるほどGoogleに『いい動画』だと評価されやすい。結果、『おすすめ』や『関連動画』になりやすく、再生回数が増えて行きます。なので、『最後まで観てください』と最初にいうのが今はセオリーです」
Q. 釣れたらオイシイルアーってナニ？
A. それは…まあ、人気のルアーですね。
ないちゅーん「やはり、手に入らないくらい人気のルアーですね。あとは、ビッグベイト系も最近は力を入れています。それでもギルロイドベビーなど1.2ozという比較的手を出しやすいサイズで、入門者から上級者まで受け入れられやすいかな……と思って使っています。さすがに、ジャイアントベイトクラスになるとマニアックになるので、見る人が限られてきちゃうんですよね」
6月の五三川にて、55cmクラスをヒットさせたルアー。リアル系とチャート系のい2色購入。発売後すぐに使うというのもユーチューブ的にはキモ。
Q. ないちゅーんチャンネルに足りないところは？
A. 動画更新頻度ですね（笑）。
ないちゅーん「理想は毎日更新なんですが、釣りって移動にも撮影にも時間がかかるし、釣れるかどうかもわからないし、お金もかかるし……コスパが悪いんですよね。部屋で語っているだけで何10万回まわってるビジネス系の人に比べたら……。趣味程度に上げている人なら気にしなくていいと思いますが、稼ごうと思ってやるなら相当頑張らないと無理です。あと、僕にはありがたいことに熱狂的な固定ファンがいて、それがどれだけいるかが重要です。なぜかというと、物販などを買ってくれるので。なので、YouTubeの再生回数だけで稼ぐのはあまり考えていませんが、回らない動画よりも回る動画の方がいいのは間違いないです」
Q. ないちゅーんさんの未来像は？
A. タレント……なのかな？
ないちゅーん「今はデザイナーの仕事、アパレルの仕事が本業です。YouTubeはアパレルなどの資金源を調達するためにやっている部分もあります。前職ではルアー作りもやりましたが、そんなに得意じゃないんで……そこはプロのビルダーにお願いしたいです。ただ、演者ではいたい。希望としては……僕は車の後ろに乗って、前にカメラマンとディレクターが乗ってて……県外遠征とか企画をこなしていく、っていうのをやってみたい。それって、タレントなのかな（笑）」
ないちゅーんさん御用達、名古屋市内にあるバスアングラーのためのアパレルショップ、 STRUCTURE。愛用のTシャツなども多数販売されている。
STRUCTURE
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