コロナ対応からいち早く脱した中国への期待と不安

中国経済は4~6月期に前年比プラス成長へ転換し、主要国に比べ一足早いコロナ禍からの回復を見せました。

中国当局は、足元の景気回復を受け、政策スタンスを中長期の構造改革を重視する方針へ転換しています。構造改革路線への転換は、課題を多く抱える中国経済にとって好ましいものと考えますが、その進捗に影を落とすのは米中関係であり、秋にかけて、米中政治情勢への注目度が上がるとみています。

<写真:ロイター/アフロ>


コロナ対応から構造改革路線へ転換した中国

中国経済は4~6月期に前年比プラス成長へ転換し、7月も緩やかながら回復基調を維持しています。雇用や消費に弱さが残るなど、全面的な回復という訳ではありませんが、インフラ投資の拡大や想定以上に底堅い外需の恩恵を受け、製造業主導の回復を続けています。

こうした中、中国当局は下期経済政策を議論する7月の中央政治局会議において、コロナ禍への対応を一段落させた一方、中長期的な構造改革路線を重視する方針を示しました。当局は、大規模な消費刺激策のような短期的に景気を押上げる政策に慎重姿勢を維持しているとみられ、今年下期にそうした大規模な政策が打ち出される可能性は後退したといえます。

もちろん、当局は、足元の中国経済の回復が盤石なものではなく、依然として雇用や消費に弱さがあることを認識しています。しかし、これらの問題に対しては、大規模な政策発動を控え、中長期を見据えた構造改革路線を優先する構えです。

経済的な課題を多く抱える中国にとって、構造改革路線は好ましい

米国に次ぐ世界第2位の経済規模を誇るまで成長した中国経済ですが、米国や日本に比べて高い外需への依存度や輸出に頼る軽工業が多くの雇用を抱えているなど、構造的な課題は依然として多い状態です。

今回、当局が表明した構造改革方針には、内需振興、つまり、国内の消費や投資の拡大に向けた取り組みの強化が盛り込まれており、これまで中国経済を支えてきた外需への依存を減らそうとする取り組みの一環であると言えます。

そもそも、経済成長を背景とした人件費上昇に伴い、米中貿易摩擦前から、中国が強みとする輸出向け製造業への逆風は強まっていました。そこへ、米中貿易摩擦が本格化したことで、中国で生産を行うことそのものがリスクとなり、各国の製造業が、中国での設備投資を手控え、中国生産拠点を他国へ移転する可能性が高まっています。

また、一部の中国ハイテク企業への部品の供給を行う事も制限され始めており、ハイテク産業を育成してきた中国としては、そうした部品を外部調達するのではなく、国内で開発・生産を行うべくハイテク分野への投資を行う動機が強い状況にあります。

こうした状況下、コロナ禍からいち早く脱したことで、上述のような中長期的に国内の経済構造転換を念頭に置いた対応が可能になったものと見られます。当局が内需を中心とした経済構造への転換方針を表明したことは、中長期的な観点からみれば、中国経済の成長持続に向けて好ましい動きであると評価でき、今後の進捗が期待されます。

中国の内需振興の進捗は米中関係次第

7月の中央政治局会議では、10月に重要会議である5中全会を開催し、来年よりスタートする次期5ヵ年計画を策定することも表明されました。このタイミングで、構造改革路線への転換も表明されたということは、次期経済計画の中で、内需振興が一つの柱となる可能性が高いことを意味していると筆者は考えています。

この内需振興に向けた動きに進展があれば、政策支援の対象が軽工業やインフラ関連産業といった伝統的なものから、半導体やソフトウェア開発などのハイテク産業へ変化する可能性が高く、中長期的な投資テーマとして意識されるでしょう。

ただし、ここで忘れてはならないのは、米中関係という最大の不確実性が存在することです。

米国が対中強硬姿勢を強める要因は複数ありますが、そのうちの1つは中国ハイテク産業の急速な発展とそのハイテク技術の軍事利用などへの懸念です。米国はこうした懸念への措置として、中国向けハイテク部品の供給を制限する姿勢を見せています。中国のハイテク産業が必要とする部品、特に半導体は、内部開発と生産体制が整っていないとされ、この供給が断たれてしまうと、産業の興隆はかなりの時間が必要となり、中国当局の内需振興路線の大きな壁となります。

今年は、中国では秋の5中全会、米国では11月の大統領選と、両国で重要な政治日程があります。前述のような状況にあるため、中国側から対米姿勢を強硬にし、ハイテク分野への規制を誘発する可能性は低いと考えますが、米国側は政治的な理由も含め、強硬姿勢を示す動機が強い状況です。

米国にとって、中国向けのハイテク規制は強力な外交カードであり、使いどころを検討しているものと思われます。この動向に、中国の構造改革の進捗が左右されること、そして資産市場も大きな影響を受けることを覚えておく必要があるでしょう。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

© 株式会社マネーフォワード