住民有志がソバの種まき 対馬・青海地区の段々畑を再生へ

 対馬海峡西水道に面し、2008年に県が「だんだん畑十選」に認定した段々畑が広がっている長崎県対馬市峰町の青海(おうみ)地区。名前の通り、青い海を間近に望む中山間地だが、過疎化などを受け、この十数年で耕作放棄地が増えている。地区住民有志は23日、かつての美観を取り戻そうとソバの種まきに汗を流した。

 青海地区は農耕を中心とした20世帯37人の小集落。子どもの健やかな成長を祈って海岸の石を積み、円すい形の塔を作る「ヤクマ祭」(旧暦6月の初午(はつうま)の日)が毎年行われるなど、昔からの民俗文化が残っている。
 映画「男はつらいよ」シリーズ第27作目「浪花(なにわ)の恋の寅次郎」(1981年8月公開)では、主人公役の渥美清とマドンナ役の松坂慶子が対馬で再会する場面のロケ地となった。対馬市によると、同年8月末時点の同地区は26世帯109人と、人口は現在の約3倍の規模があった。
 23日は午前8時に50~80代の住民13人が地区内のバス停前に集合。段々畑は日当たりの良い高台の斜面にあり、このうち耕作放棄地の草を刈り、畑として再生させた約70アールで対馬在来のソバ「対州(たいしゅう)そば」の種まきや、畑を荒らすシカよけのワイヤメッシュを張り巡らした。
 農業の平山正仁さん(62)は「シカは一晩かけてでも畑の入り口を探し出す。高齢化もそうだが、この20年あまりでシカが増えたのも耕作放棄地が増えた原因の一つ」と説明してくれた。畑は2週間ほど前に耕していたが、中には多くのシカの足跡やふんが残されていた。
 種まきを担った主婦の平山貴美子さん(71)ら女性3人は、農作業の休憩中、昔のヤクマ祭について話に花を咲かせた。段々畑ではかつて麦を育て、初夏に収穫していた。ヤクマ祭では40年ほど前まで、蒸した麦とエンドウ豆、黒砂糖を唐臼(からうす)でついた「小麦餅」を味わっていた。「甘くておいしかった。また作ってみたい」と語り合っていた。秋に収穫したサツマイモを畑の土の中に入れ、たき火で蒸し焼きにした「黒焼き芋」も絶品だったという。
 作業は約4時間で終了。区長の平山武光さん(59)は「9月末には、展望所から白いソバの花を眺めることができるだろう。住民が高齢化している中で維持していくには今後、(段々畑の管理を手伝ってもらう代わりに作物を贈る)オーナー制度や、学生の体験学習など外からの力を呼び込む必要がある」と話した。
 「浪花の恋の寅次郎」青海ロケで飼っていた牛を引く姿が撮影された地区最高齢の平山一男さん(96)は「段々畑は日当たりが良く、何でも育った。また昔のようにきれいな景色を見たい」と自宅で懐かしんだ。

麦の穂が彩っていた過去の青海の段々畑(1987年ごろ、写真家の仁位孝雄さん撮影)
耕作放棄地が増えた現在の青海の段々畑(8月23日撮影)
青海地区

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