手作りの伝統と最新技術、生まれ変わった「モーガン」で“不自由”を楽しむ

クラシカルな佇まいが魅力の英国スポーツカー、モーガン。「一度は乗ってみたい」と思う人もけっこういるはずですが、その最新の中身と走りとは果たしてどんなものでしょうか? ニューモデル「PLUS SIX」でチェックしてみました。


手づくりの味わいが残るモーガン

クルマに限らず、多くのプロダクトは効率化が優先され、その結果として良質なものがより安く、より多く提供されることが正義だと言われています。もちろん否定する気持ちはありませんが、モーガンのような、今もなお、職人の手作業の味わいを残し、ゆったりとした時間の中で生産されているクルマに接すると、少しばかり気持ちに変化が生じます。非効率も悪くないなぁ、と言うところでしょうか?

例えば今、モーガンがラインナップしているクルマに乗ろうとしたら、まず15万円ほどの手付金を納め、オプションや装備品を選んで自分の仕様を決定し、出来上がるまで1年ぐらいはかかります。このような条件で納車を待つことになります。

今日、モーガンは年間に約800台の車を製造しているのですが、世界中のリクエストに応えていたらそれぐらいは当たり前のウエイティングかもしれません。納車までには、自分のクルマの製造過程を見るツアーがあったりしますから、余程のクルマ好きでもない限り、そんな悠長な、と思うかもしれません。

でも、たまに見かけるモーガンユーザー達のなんとも言えない幸せそうな表情が物語っています。こうした長い時間を耐えてきた解放感がどことなく満足な表情を作り出しているのでしょう。

さて、会社が設立されてから110年以上も経過し、今なお手作り要素を残しているモーガンのラインナップには前2輪、後ろ1輪の3輪車である「3 Wheeler」、そして4輪モデルで4気筒エンジンを積んだ「PLUS FOUR」、6気筒エンジンを搭載した「PLUS SIX」で構成されています。どのモデルも最新の機能と、永年守り続けてきたモーガンのDNAをバランスよく融合させてクルマを製造しています。

最大の特徴はクルマで最も重要なボディの骨格の一部に、英国産トネリコ木材を用いたフレームを採用していることでしょう。今時、木?と驚くかもしれませんが、これがモーガンの真のDNAなのです。さて、どんな走りを見せてくれるのでしょうか? 早速、6気筒の最強モデル、PLUS SIXで乗り出してみましょう。

走りに感動

エンジンをスタートさせ、走り出してみました。木を使用したプラットフォームは「みしり」とも言いません。スタイルこと「4/4」や「ロードスター」といった伝統モデルから受け継いでいますが、その骨格には「CXジェネレーションストラクチャー」という新世代のプラットフォームが採用されているのです。木は使用されていますが基本的な作りは、3年以上かけて開発された接着剤やリベットによって組み立てられたアルミ製プラットフォームなのです。結果として軽量化や、ねじり剛性が100%向上したそうです。古くからのモーガンファンに言わせれば「これまでのモーガンとは別物」であり、完全なる新世代モーガンとも言われます。私も旧型の「4/4」と比べて、圧倒的な進化に驚かされました。

ウインドスクリーン越しのシーンが実に魅力的。

フロントのサスペンションにマクファーソンストラット、リアには4バーリンケージが採用されて、きっちりとまっすぐ走り、コーナリングもしなやかにこなしていきます。はっきり言ってかなりレベルの高いスポーツ性能を持ったクルマなのです。おまけに快適性と柔軟性、運動性能が実にバランスよく味つけされていますから、どんな路面でも不安を感じることなく気持ちのいいハンドリングを経験できたのです。

1千万円オーバーのスポーツカーで心配することなのか?と思うかもしれませんが、これがモーガンとなると“キッチリ走ることに感動する”のです。

当然です。プラットフォームやサスペンションだけが最新ではありません。採用されている6気筒エンジンはBMW Z4や新型トヨタ・スープラにも採用されたBMW製エンジンです。その最高出力340ps、最大トルク500Nmを発生する3Lの直列6気筒ターボエンジンが長いボンネットに収まっています。さらにトランスミッションはZ4と同じZF製の8速ATです。シフトレバーのデザインや操作性は、ほとんどZ4なのですが、フロントスクリーン越しに見える風景は撮ってもクラシカルなのです。エンジンなどはスープラやZ4と同じとは言え、醸し出される味わいは全くの別物です。

猛暑が連続する都内は「オープンなんか乗るものじゃない」と言えるほどですが、それでもモーガン PLUS SIXの楽しさは、「ちょっぴり我慢するか」という気分になります。

やっぱりモーガンはオープンがいい

これだけの大きなトルクをしっかりと受け持ち、コーナリングもしなやかにこなす軽快な走行性能。この走りを実現しているもうひとつの理由は1,075kgという軽量ボディにもあります。軽量化も重要な性能アップと言われるだけに1トン少々の車重は、切れ味のいい走りにとって当然プラスに働きます。ちなみにカタログをチェックすると、このPLUS SIXの加速は0~100km/hが4.2秒、最高速は267km/hという動力性能なんです。これはスーパーカー並の加速性と言えます。おまけにステアリングの操作感は軽く、実にクイック。アクセルに対するレスポンスも抜群で、トルク感たっぷりに加速していきます。

そんな最新モーガンの走りを、市街地が中心とはいえ、たっぷりと楽しんだところで、さすがに炎天下の試乗にも限界が来ました。もちろんエアコンもキッチリと装備されていますから冷風は出てくるのですが、最高の風量にセットしたところでも、容赦なく照りつける陽の光には敵いません。そこで手動で折りたためる幌を掛けることにします。取りあえず一人で説明書片手に取りかかったのですが、これがなかなか大変です。あーでもない、こうでもないとやりながらほぼ15分。幌がかけ終わった頃には汗だくでした。でもこれでエアコンの恩恵をたっぷりと受けることができます。エアーの吹き出し口には水滴がたっぷり付いています。幌とガラスの間には隙間もあるので、激しい雨に見舞われたら雨水の侵入を完全に防ぐこともできないでしょう。

15分ほどかかり幌のクローズができた。慣れればかなり早くなるはず。

しばらくソフトトップをかけたまま走ります。でも何かちょっぴり寂しい気持ちになってきました。「やっぱりモーガンはオープンがいい」。ここから幌を開けるには、また15分、いやそれ以上の時間を有するかもしれません。それでもオープンにした欲求がモリモリと盛り上がってきます。あ~あ、よせばいいのに……。ようやく日が傾き夕方になったことをいいことに、再チャレンジ。この不自由な感じを楽しむ気持ち、まるで儀式のような拘束感はちょっぴり癖になりそうです。でもきっと真夏や真冬には助手席に、誰も乗ってくれないでしょうね。

これで車両価格1,518万円(PLUS SIX・ツーリング)かぁ。効率だけを追い求めたらこの価格は納得できないかもしれません。でもモーガンにはこの価格に見合うだけの魅力があることだけは分かりました。

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