【高校野球】ひとつ屋根の下で生まれた衝突と絆 星槎国際湘南が最後まで貫いた「必笑」の夏

星槎国際湘南・濱田琉大主将【写真提供:フジテレビ】

全国的にも稀な全寮制の星槎国際湘南は、あえて選手の寮待機を決断した

東海大相模の優勝で幕を閉じた今夏の神奈川県独自大会。無観客試合でも変わらぬ盛り上がりを見せた神奈川の高校野球だが、今大会ノーシードから4強入りを果たした全寮制の星槎国際湘南では、土屋監督が掲げる「必笑」のスローガンのもと、最後には笑って終わる野球を貫いてきた。

同校のスローガンは土屋監督が就任した2015年から変わらず、「必笑」の二文字だ。「必ず高校球児の最後は涙で終わる。その涙が良い悪いじゃ無くて、思い切って試合をやった後に勝っても負けてもニコッと笑える様に、お互いやったなと笑顔で終われないかなと思っていて。お互い仲間同士が終わって抱き合って称えられるような、強い絆を作ってやりたい。必笑って言うのは、必ず笑うんだけど、笑う中にもまた涙もあるかな」という指揮官の理念のもと、指導者にも臆さず意見を言い合える風通しのよい環境を築いてきた。

コロナ禍による自粛期間中には、万全な感染症対策、さらには保護者からの要望もあり、生徒を寮に残すことを決断した。コーチをはじめスタッフも寮に住み込みで外部とは隔離された環境のなか、団結力を培ってきた。

もちろん練習は素振りなどの自主練習に限られ、例年通りのメニューをこなすことはできなかったが、同じ屋根の下にいたからこそ生じた衝突や絆もある。1年夏から試合に出場していた濱田琉大主将は、神奈川大会抽選会の前日、控えメンバーとの意見の相違に苦しみ、コーチにその悩みを打ち明けた。

「気持ちの入ってない選手とか、そういう選手は(メンバーに)入れないで、しっかり気持ちの入った選手でこの夏の大会に挑みたいと話をした。なんでついてきてくれないんだろうって。全員でミーティングをして、やるなら全力でやろうと話しました」

星槎国際湘南・土屋恵三郎監督【写真提供:フジテレビ】

互いに顔を合わせる環境だからこそ、全力でぶつかり本音を語り合った

佐々木部長も「生徒たちが目標を失った喪失感は大きかった。面談をしていても、もういいかなという3年生がいたのは事実」と認めるが、一方でレギュラーメンバーも大会が近づくにつれて焦りが見えたと副主将の茂木陸は言う。

「幹部と他の選手の意見の食い違いが多くあって、自分たちはこうしてほしい、幹部じゃない人も幹部にこうしてほしいというのがあった。何もできない状況の中で、そういうところの焦りから先走ってしまったことが多くありました」

お互いの本音をぶつけ合い、一丸となって臨んだ最後の夏は3年生29人全員がベンチ入り。濱田主将も「2年半積み重ねた寮生活で、神奈川一のチーム力を築き上げてきた。楽しかったです」と笑顔をこぼした。

コロナ禍でもバラバラになることなく、ミーティングを重ねてきたからこその衝突と和解。そんな星槎国際湘南については、フジテレビ系「S-PARK」のドキュメンタリー企画「2020夏 これが、僕らの甲子園」(30日放送)でも、高校で野球を辞める三塁コーチャー、吉浜良真選手の葛藤に密着している。集団生活が育む高校野球の人間形成が、この先も途絶えることなく続くことを願いたい。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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