知ってますか、小田原の路面電車 64年ぶり「帰郷」の輸送費ネットで募る

【写真左】小田原市内を走る202号=1956年4月【写真右】長崎市内で活躍するかつての202号=2019年3月(小田原ゆかりの路面電車保存会提供)

 かつて神奈川・小田原の街を走っていた路面電車を64年ぶりに「帰郷」させようと、地元有志が奔走している。新天地の長崎で現役を終えた車両の保存場所を用意し、輸送費用を工面するためクラウドファンディング(CF)をスタート。目標額500万円を集めるため、広く支援を呼び掛けている。

 「小田原ゆかりの路面電車保存会」(小室刀時朗会長)が帰郷を計画しているのは、1952年から56年まで小田原の市街地を走り、その後、2019年まで長崎市の路面電車「長崎電気軌道」で活躍していた「小田原市内線モハ202号」(長崎電気軌道151号)。市内線で現存する唯一の車両で、昭和の城下町を知る「生き証人」だ。

 19年3月にこの車両が引退し廃車になることを知った小田原の鉄道愛好家らが、保存を目指し、同社に譲渡を申し入れた。車両にアスベストが使われている可能性があったことから一度は断られた。しかし、その後不使用が確認され、今年2月には譲渡先の一般公募が始まった。

 これを受けて再び地元有志が立ち上がり、行政や経済界も巻き込んだ「オール小田原」で取り組んだ結果、同4月に譲渡先に選ばれた。輸送・保存に向けた準備を進めるため、小田原市内外の鉄道愛好家やまちづくり関係者らで同会が設立された。

 設置場所は、まちづくり会社「報徳仕法」が来年2月にオープンする観光・交流施設(同市南町)内に確保したが、最大の課題は長崎からの輸送費。長さ11メートル、幅約2.3メートルで重量約15トンの車両をトレーラーと船で運ぶため、約700万円が見積もられている。

 そこで広く支援を得ようとCFに踏み切った。21日から始まり、期限は9月25日で目標額は500万円。小室会長は「小田原に64年ぶりに帰る路面電車をぜひ市民に知ってもらい、次の世代に伝えたい」と協力を呼び掛けている。協力者には寄付額によりピンバッジや絵はがきなどの鉄道グッズ、小田原名産品などの返礼品を贈る。

 同会は車両設置後、良好な状態での保存に努め、車内での写真展示などのイベントも企画していく。また、次世代型路面電車システムであるライトレールトランジット(LRT)を市内に導入するための起爆剤にもしたいとしている。

 資金協力は専用サイト(http://readyfor.jp/projects/odawara_chinchindensha)へ。

 ◆小田原市内線 1888年に国府津─小田原間の馬車鉄道として開業。1900年に路面電車の運行を開始し、19年までに箱根湯本まで延伸し、箱根登山電車に接続した。その後、運行区間を縮小・変更し、35年からは小田原─箱根板橋間となった。自動車の交通量増加のため56年に全線廃止された。

© 株式会社神奈川新聞社