来夏のパラリンピック開催可否「期限設けず最後まで待つ」 国際パラ委員会のパーソンズ会長、五輪中止の場合は断念

オンラインでインタビューに応じるIPCのアンドルー・パーソンズ会長=8月20日

 国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドルー・パーソンズ会長(43)=ブラジル=が東京パラリンピック開幕まで1年となり共同通信のインタビューにオンラインで応じた。新型コロナウイルスの感染拡大で来夏に延期された東京大会の開催可否を巡る判断について「期限を設けず、可能な限り最後の瞬間まで待つ」との意向を表明。「来年1月、2月、3月とコロナの状況がどうなるか誰にも予期できない。パンデミックの状況を注視しながら、土壇場まで関係機関と検討して決断したい」と語り、少なくとも大会開催の最終判断が来年以降になる見通しを示唆した。仮に国際オリンピック委員会(IOC)が五輪中止を判断した場合、パラも独自の判断を模索せず中止になると説明した。(共同通信=田村崇仁)

 ▽無観客は検討せず

 ―IOCのバッハ会長はコロナ対策で大会の簡素化を検討し、複数のシナリオを準備していると明言した。IPC会長として観客削減や無観客は検討すべきシナリオか。

 観客削減や無観客は現段階で検討していない。来夏の大会が予定通り開催されるとすれば、観客を入れて行う。競技会場の観客はパラの一部で根幹を成すものだ。

 ―参加選手数や競技・種目数の削減はどうか。

 来夏の渡航制限緩和などの状況も見通せないが、選手と観客の体験は守られる。それが大前提で、それ以外の項目で簡素化やコスト削減を図る。

 ―どんなテーマで簡素化が可能なのか。

 IOCや大会組織委員会などと協力し、さまざまな式典や交通輸送、宿泊など200項目以上で簡素化と経費削減を協議していく。

IPCのパーソンズ会長=2019年12月、東京都中央区

 

 ▽メンタルヘルス

 ―障害者は介助などで「3密」回避が健常者よりも難しい。基礎疾患を持つ選手は感染による重症化も懸念される。

 もちろん健常者よりパラ選手のリスクがあるのは理解している。10月から3カ月間で年内にコロナの追加対策を検討していく。約4千人のパラ選手が宿泊予定の選手村では医療の専門家と協議し、特別な隔離対策も必要となる。

 ―各国選手の状況は。

 各国・地域の国内パラリンピック委員会(NPC)とも連携して情報収集しているが、練習を再開した選手もいれば、まだ復帰できない選手もいる。世界の誰も来夏のことは予測できず、新型コロナ禍で選手は大きな不安を抱えているのが実情だ。家族や選手の日常生活、練習環境にも影響している。もし大会が中止になれば、多くの選手にとって大きな打撃になるだろう。情報共有と支援強化で、課題となるメンタルヘルスに対する影響を最小限に抑える必要がある。

リオ・パラリンピックの開会式で日本選手団の旗手として入場行進する車いすテニスの上地結衣=2016年9月(ゲッティ=共同)

 ▽予選は複数シナリオ

 ―暑さ対策はどうか。

 新しいものはない。だが今年は日本の梅雨明けが遅く、7月は比較的涼しかったものの、8月から猛暑となった状況は聞いている。1年延期で今夏のデータを新たに収集し、追加対策を計画できるのは数少ない利点の一つだ。

 ―パラの各国予選は。

 各国・地域の代表を決める予選の日程が流動的なため、国際競技連盟(IF)と共に『複数のシナリオ』を準備している。予選再開の時期を来年1月、2月、3月などと細かく分けてシミュレーションしている。

 ―車いすバスケットボールの障害クラス分け問題についてはどうか。障害の程度が規定より軽いと判断され、東京大会で出場資格を失う選手も出た。

 障害のクラス分けはパラの根幹を成すものだ。非常に複雑だが、IPCの参加資格は全ての競技連盟の同意で作られ、承認されている。われわれは競技の公平性を保つ責任がある。車いすバスケだけに例外措置を与えることはできない。

リオ・パラリンピックの閉会式で行われた2020年東京パラリンピックを紹介するセレモニー。「東京で会いましょう」のメッセージが映し出された=2016年9月(共同)

 ▽人類の団結と共生の象徴に

 ―新型コロナの収束が見通せないが、大会開催の意義とは何か。

 これはスポーツだけでなく、人類全体のテーマだ。普通、われわれが共通の敵と思うのは地球に来る異星人だが、今回はウイルス。パラはスポーツを通じて社会を変革する運動でもある。世界中の人々が障害や困難、違いを乗り越えて集う。選手の健康が大原則とはいえ、私は楽観的だ。五輪とパラの開催は人類がウイルスに打ち勝った団結と共生の象徴になる。

 ―このほど、人間の可能性に挑戦する世界のトップ選手に迫った映画「ライジング・フェニックス」もネットフリックスで公開された。

 不屈の精神で困難に立ち向かうアスリートが発信する素晴らしいメッセージを見てほしい。世界中の人々の見方を変えてくれるパワーを持っている生涯最高の作品だ。

韓国・平昌冬季パラリンピックの閉会を宣言するIPCのパーソンズ会長=2018年3月(共同)

 アンドルー・パーソンズ 国際パラリンピック委員会(IPC)副会長、ブラジル・パラリンピック委員会会長などを務め、南米初開催の2016年リオデジャネイロ大会を成功に導いた。17年9月のIPC総会でクレーブン氏(英国)の後を継いで第3代会長に就任。東京大会の準備状況を確認する国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会の委員でもある。43歳。

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