ホンダの電動化に対する魂が込められた新型インサイト
3世代に渡り、モデルチェンジごとにボディタイプが変更されてきているインサイト。ホンダにとってはどういう位置付けなのだろう。2018年のデビュー当初、開発責任者の本田技術研究所四輪R&DセンターLPL主任研究員の堀川克己氏(当時)に伺ったところ、
「ホンダのハイブリッドとして、今後の中心となるシステムのスタートを切る車種が大体インサイトでした。インサイトにはホンダの電動化に対する魂が込められているのです」とコメントする。
初代インサイトは空力を突き詰めた燃費レーサー。2代目は価格を下げてお客さまが購入しやすいハイブリッドを目指し、使い勝手の良い5ドアハッチバックにした。そして今回は、
「ハイブリッドが当たり前になってきた市場に新たな提案するにはどうすべきかを考えて、3代目インサイトには発電用モーターと走行用モーター、ハイブリッド専用エンジンを備える2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」を搭載。その特性を活かしたボディタイプはオーソドックスではあるもののセダンだったのです」。
ではその特性とは何か。
「性能面では、爽快かつ快適にということです。そして当然クルマが持つべき安心感を出す。こういった基本的な性能をバランスする一番良いクルマはセダンスタイルが似つかわしいと考えました」と答えてくれた。つまり、より上質かつ洗練されたシステムであるe:HEVに相応しいボディ形状はセダンと判断したのだ。
また、3代目の開発目標として一番達成すべき点として、
「見た瞬間に格好良いと思ってもらえることです。艶っぽく良いものだと思ってもらえるかどうか。お客様の価値観で高いのはデザインです。見たときに欲しくなって、ああいいなと思ってもらえないと次はないでしょう」と語る。新型インサイトは強い意志のもとに開発されたことが伺われる。
上質な走りをデザインで表現
では、そのデザインについて、今度は担当の本田技術研究所四輪R&D;センターデザイン室1スタジオ研究員の和田 陸さん(当時)に話を聞いてみよう。
「デザインの開発初期段階にe:HEVのプロトタイプに乗る機会がありました。そこで体感したことを素直に表現しています」と語る。具体的には、電動化にしたことでエンジンでは感じられないスムーズな加速は「水平基調というデザインのモチーフで表現」。同じく電動化によるトルクフルな走りは、「ボディの抑揚や張りで表現しました。重厚感のある、リズムのある水平基調で表しています」という。特にBピラーから後のリアフェンダー周りでそのスタンスの良さや力強さは見事だ。
こういったダイナミックさに加えて、セダンであるからエレガントさも必要だ。
和田さんは、「上質で少し大人っぽいセダンを目指し、サイドパネルの抑揚には力を入れました」と話す。「ともするとシンプルな表現はつまらなくなってしまいがちなので、ダイナミックさをしっかりと感じてもらいながら、品がある、上質に感じてもらえるようなデザインにしています」とのこと。それがキャラクターラインに頼らず抑揚のある面での表現なのだ。
e:HEVはいいとこどりのハイブリッドシステム
さて、ホンダの未来を担うシステム「e:HEV」とはどういうものなのか。ハイブリッドにはシリーズ方式とパラレル方式がある。シリーズ方式は、エンジンで発電用モーターを駆動し、その電力を使って走行用モーターを回し、それでタイヤを駆動するというシステム。パラレル方式は、エンジンとモーターの動力の両方を使ってタイヤを駆動するシステムという違いがある。e:HEVは走り方に応じてシリーズとパラレルを使い分けることによって最高効率を実現する、いわば良いとこ取りのシステムといえる。
具体的なシーンに当てはめて解説してみよう。
〇EVドライブモード〜発進・低速時はモーターでの走行で負荷の少ない走行
市街地の発進や低速走行では、エンジンは使用せずモーターのみで走行。
〇ハイブリッドドライブモード〜負荷のかかる加速時でも効率のいい走行
強い加速時にはエンジンで発電しながらモーターで走行。高出力時には更にバッテリーからも電力を供給する。
〇エンジンドライブモード〜高速クルージ時でも高い燃費を維持
シリーズ方式でモーター走行すると、高速なので発電量が大きくなってしまう。そうすると電気への変換損失が大きくなり、かえって燃費が悪くなる。そこでe:HEVではシリーズ方式からパラレル方式に切り替え、エンジンを直結して走行することで高効率を維持。またエンジン効率の高いところでモーターのアシストと回生で負荷を調整することで、高速域での高い燃費を維持する。
このように様々な走行シーンで、シリーズ方式とパラレル方式を知能的に切り替えることで、相互の優位性を活かしながら最高効率を達成しているのだ。
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EX・BLACK STYLEは大人のスポーティさを表現
今回試乗したのはEX・BLACK STYLEだ。18インチのアルミホイールを装着するとともにステンレス製のスポーツペダルを採用。さらにプレミアムクリスタルレッドメタリック(テスト車)とプレミアムクリスタルブルーメタリックでは、インテリア加飾にエクステリアカラーに合わせたステッチカラーが設定される。
走りの質にこだわった自然なフィーリング
室内に乗り込んで右手奥にあるPOWERボタンを押すと赤色に点灯。メーター上にREADYと表示されれば準備は完了。あとは、センターコンソールにあるDのボタンを押せばインサイトはモーターのみでスムーズにスタートする。そこでの印象はそのスムーズさとともに静粛性の高さだった。モーターのみで走行できるクルマは多数あるが、エンジンノイズがないことで意外とロードノイズが耳に入りやすくなる。それがこのインサイトではほとんど気にならないのだ。そこからアクセルをより踏み込みエンジンが始動したとしても、エンジン音の侵入もそれほど大きくはない。
混んだ街中をぐるぐると走り抜けていてふと気づいたことは2つ。ひとつは走行中にエンジンが始動した時のショックが皆無なことだ。ハイブリッド車に乗るとエンジンが始動した瞬間に僅かに加速する、あるいはショックを感じるなどの違和感を覚えるクルマが多いが、インサイトに関しては全くといっていいほどそれはない。
そしてブレーキのフィーリングが自然なことも評価したい。ハイブリッド車の場合減速エネルギーを電気に変える回生ブレーキシステムが介入するが、これがブレーキフィールにいたずらをして、ブレーキペダルの踏力に変化が生じ強めにかかったりコントロールがしにくくなる場合があるのだ。これについてもインサイトは全くなく、良く出来た内燃機関のクルマのようにスムーズに、かつコントローラブルにブレーキを操作することが出来た。
今回のマイナーチェンジで大きく印象が変わったのが乗り心地だ。マイナーチェンジ前のモデルでは16インチと17インチ仕様を乗り比べたが、明らかに17インチでは乗り心地がバタつきバネ下の重さを印象付けていた。しかし今回18インチ(コンチネンタル コンチプロコンタクト235/40/18)という更に大径になったタイヤを装着しているにもかかわらず、全くバタつきを感じさせないのには驚いた。サスペンション関係で特に大きな変更はないようだが、細かなチューニングが進んだ結果、どういったシーンであっても快適な乗り心地を約束してくれる。もちろんパワーに関しても必要にして十分以上だ。
安全運転支援システムも「Honda SENSING」を標準装備し充実している。高速道路でアダプティブ・クルーズ・コントロール(渋滞追従機能付き)や車線維持支援システム(LKAS)などを試してみたが、この辺りもマイナーチェンジでチューニングが進んだようで、急な加減速や追い越し車線を走行中に走行車線のクルマを捉えて減速することもなかったので、完成度は非常に高いといえる。
安全につながる物理スイッチの採用
インテリアに目を移すとセンターパネルを中心にした広々とした印象を与えるインパネが目に入る。決して煩雑な印象はなく、上手にタッチパネルと物理スイッチを使い分けているレイアウトにも好感が持てる。
特に物理スイッチの採用は大いに評価したい。近年タッチパネルに多くのスイッチを埋め込むクルマが多いが、クルマはスマホのように常に画面を見ながら操作することは出来ない。走行中にエアコンの温度を下げたい(あるいは上げたい)場合、タッチパネルでは、画面を切り替えて温度を調節し、元の画面に戻すという操作が必要だ。その時々で操作が出来たか、画面は切り替わったかとスクリーンに視線を移すことになり大変危険なのだ。
一方物理スイッチの場合は場所さえ把握しておけばブラインドタッチが可能なのだ。しかもインサイトの場合ダイヤルに刻みが入っており、また、クリック感も金属のようで非常に質感が高いものを採用しているので、とても上質なクルマに乗っている印象を与えてくれる。
最後に僅かだがリアシートに座る機会があったので報告しておくと、このサイズにしては十分以上の広さを確保している。頭上高も十分でシートも座り心地は良好。サイドサポートも十分なので、長距離移動も快適に過ごせるだろう。
SUV全盛の中、インサイトを選ぶ理由
近年SUV市場が拡大していくに伴い、セダン市場が縮小していく傾向にある。確かにSUVは全ての面において利便性が高く有効なクルマたちであり、それを否定する気は毛頭ない。
一方でセダンを欲する層は確実に存在し、そういった人たちの多くは欧州車に流れてしまっている。それはもしかしたら日本車に魅力的なセダンがなくなってしまっていたからかもしれない。そこに気付いたホンダはインサイトや今年2月にデビューしたアコードなど、良質なセダンを投入してきた。やたらにキャラクターラインを入れてスポーティ感を演出するようなことはせず、しっかりと面を作り込むことで光の陰影にこだわり、インテリアでも質感を高めるために操作感やその時の音にまで注意を払う。走らせてみれば内燃機関と同等の走りと、それ以上の静粛性と燃費が手に入る。これらを踏まえると、今一度セダンに目を向ける良いタイミングではないだろうか。
<Honda インサイトをもっと知りたい!>
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新たなグレード「EX・PRIME STYLE」にも注目
今回紹介したEX・BLACK STYLEと同時に、アイボリーを使った明るいインテリアが印象的なEX・PRIME STYLEも追加されている。エクステリアとインテリアを専用仕様として、より洗練されたセダンに仕上がっている。