鋭利な線で古里描く 前衛画家 Kenshiさん=佐世保出身= 帰郷し新たな表現方法を

「佐世保には描けるものがたくさんあって楽しい」と語るkenshiさん=長崎市茂里町、長崎新聞社

 東京都世田谷区在住の前衛画家Kenshi(ケンシ、本名・中村憲之)さん(73)が、7月から出身地の佐世保市で絵画制作に取り組んでいる。1、2年ほどの滞在予定で、佐世保港や米海軍佐世保基地の周辺、外国人バーなどの街並みを独特なタッチで描き続けている。
 福岡県生まれで4、5歳の時に佐世保に移住。高校3年生の頃、母の勧めで絵画教室に通った。講師の画家柳原英思さんから「志を高く持って世界を目指しなさい」と助言され、F6号のスケッチブック(24枚)に毎日1冊から多いときは3冊にわたり佐世保の風景などを鉛筆で描き続けた。
 1966年、19歳で第11回県展長崎時事新聞社賞を受賞。上京し、日本大芸術学部に入学した。都内の美術館や画廊などで絵画を見て回り、独自の表現を追い求めた。すぐに頭角を現し、都内で個展を開くなど活躍。75年には米カリフォルニアに渡り、その後も欧米の数々の国際展に出品、入賞を重ねてきた。94年、世田谷区に画廊「and gallery」を開設。若手アーティストのプロデュースにも力を注いできた。
 オンリーワンの作品を追求するKenshiさんの作品は主に抽象画。イメージしたものを鋭利な線で表現した作品は独創的と評価されてきた。線描表現の原点は、小学生時代に読んだ白土三平のマンガ。「線に躍動感があり、余白の使い方がうまかった。自分も誰にも描けない線で作品を作りたいと思った」
 40代までは世界での活躍を意識して制作に没頭。71年に「ジャパン・アート・フェスティバル」優秀賞、93年には「OBAYASHI絵画・イラストコンクールABC&PI展」大賞を受賞した。「毎日が闘いだった。絵を楽しむという感覚はあまりなかった」。50代から若手美術家の育成にも力を注いだ。そして70代。活動に余裕を持てるようになり、新たな表現方法に挑戦しようと古里を活動拠点に選んだ。「東京は描くものがあまりなく頭の中でつくるから抽象画になるが、佐世保は描けるものがたくさんあって楽しい」
 光沢がある厚紙にニードルで線を彫った部分に版画用インクで色付ける技法「ドライポイント」を用いて、佐世保の何げない風景などを毎日描き続けている。
 「今だからこそできる表現方法で描き、佐世保をテーマにした作品集を制作してみたい」と充実した表情を浮かべた。

Kenshiさんがドライポイント技法で描いた佐世保市万津町周辺の風景画
Kenshiさんの1984年の作品「Across the Universe」

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