安倍首相退陣へ!アナリストが「市場への影響は限定的」とみるワケ

8月28日、安倍首相が突然の辞任を表明しました。連続在任期間が歴代最長を更新したばかりのタイミングで、市場関係者ならずとも意外な展開に驚かされました。もともと同日に予定されていた記者会見の場で、新型コロナへの対応と首相の体調問題についての説明がなされることになっていましたが、直前には首相の続投表明が予想されていただけに、思わぬサプライズとなりました。

28日の日経平均株価は大幅に下げました。これから9月相場を迎えるにあたり、どのような展開が待ち受けるのでしょうか。安倍首相辞任の影響と、今後の相場展開を簡単に占ってみたいと思います。


第1次安倍政権退任時との決定的な違い

辞任の速報が広まると株価は下げに転じ、日経平均株価は一時、前日比600円を超える下げに見舞われました。為替市場でもドル円相場が1ドル=105円台まで円高が進行し、リスクオフの様相を強めました。

しかし、結論から言えば、首相交代の影響は現時点で限定的ものにとどまると予想されます。その背景としては、第一に、直後の世論の反応が総じて同情的で、「辞任やむなし」の見方が強まったためと考えられます。「アベノミクス」に代表されるように、在任7年8ヶ月の間に遺した功績が評価される一方で、その裏側で進行した体調悪化を気遣う声も少なくありません。

また、第一次安倍内閣のときとは異なり、「政権投げ出し」とは受け止められていないことも大きいようです。新型コロナ対策に一応の道筋をつけ、政局流動化のダメージを最小限に食い止める配慮がなされたことも、任期途中での辞任への批判をそらすことにつながったと見られます。

31日には辞任ショックは消化?

実際、週明け31日の株式市場は反発でスタートし、日経平均株価は一時400円超の上昇を見せる場面もありました。28日の辞任報道が伝わる前の水準まで、いったん株価は戻したかたちであり、辞任ショックはおおむね消化されたと判断されます。

今後は、後継の首相選びに市場の関心がシフトしていくと予想されます。安倍路線を引き継ぐ安定感と安心感のある人物が新首相に選出されれば、市場を取り巻く不透明感は大きく後退することになりそうです。現時点で詳細な日程は未定ながら、9月半ば頃には新しい首相が決まる見通しです。

<写真:ロイター/アフロ>

米国は大統領選一色

グローバルの政治イベントで、もう一つの関心事となるのが11月の米大統領選です。8月の民主党大会を経て、バイデン前副大統領が正式に大統領選の候補に指名されました。副大統領候補には女性で黒人のカマラ・ハリス上院議員が指名され、これからの約2ヵ月間は選挙モード一色となりそうです。

現時点の支持率を見る限りでは、バイデン候補が優勢であることは明らかです。民主党の予備選が事実上決着してから、バイデン候補の支持率は一貫してトランプ大統領を上回って推移し、足元では7ポイント程度のアドバンテージがあります。

ただ、それが決してセーフティ・リードでないことは、4年前の大統領選の教訓から誰しもが認識している点です。株式市場はバイデン勝利を織り込み始めていますが、テレビ討論会の結果次第では、トランプ大統領の挽回も十分に考えられ、最後までもつれる可能性があります。

バイデン候補勝利で市場はどうなるか

仮に、バイデン候補が勝利した場合、「果たして株式市場はその結果を好感するのか」、といったシミュレーションが市場関係者の間で日々行われていますが、少なくともネガティブな反応となる可能性は限定的と考えます。

主要な政策分野で両者が対立する部分は少なくありませんが、対中政策におけるバイデン候補のスタンスがより緩和的・融和的と見られることはポジティブです。また、株式市場が警戒するのは各種の増税ですが、経済の建て直しが進められるうちは、実現の可能性は低そうです。

4年前の大統領選では「トランプ氏勝利なら政治の混乱は免れない」との見方も多かったのですが、今回はそこまで不安は大きくありません。市場参加者に求められるのは、あくまでも大統領選の行方を冷静に見守ることと言えるでしょう。

大統領選とマーケットの興味深い関係

米大統領選を控える年の米国株式市場の特徴について調べると、興味深い傾向が明らかとなります。それは、9月の株価変動性(ボラティリティ)が低水準にとどまりやすいということです。ボラティリティとは株価のブレの度合いを表したものですが、選挙情勢を見極めようというムードが強まることで、株価の振れ幅は小さくなる傾向が読み取れます。

ボラティリティの低下は投資家にとっては一つの安心材料となり得るため、投資家のリスク許容度を高めることが期待されます。そういう意味では、9月は次なる上昇に向けてのエネルギーを溜める局面と位置付けられるかもしれません。

業績・株価の面でのポテンシャルの高さでは、相変わらずハイテク業種に優位性があると見られますが、低ボラティリティ下での物色の視点としては、業績見通しの改善が著しい、これまでの不調業種にも注目したいところです。全体の株価上昇ピッチが緩やかになる局面では、出遅れ業種の挽回にも、投資家の目が向けられる可能性があるためです。

<大和証券 チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和>

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