斉藤由貴「初戀」歌手デビュー1年目にして “女優” の表現力!

1985年 9月2日 斉藤由貴のシングル「初戀」がオリコン4位に初登場した日

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サードシングル「初戀」レコード売上にとらわれない名曲

今から35年前の8月21日、斉藤由貴の3作目のシングル「初戀」が発売になりました。斉藤由貴は、1984年の『第3回 ミスマガジン』でグランプリに選ばれて以来、数多くのドラマや映画の主演、そしてCMキャラクターに抜擢。彼女のアイドル時代におけるシングルの大半は、その主題歌やCMソングに起用され、斉藤由貴というアイドルの存在感の大きさが楽曲のヒットにも大いに関係しています。

その、80年代の彼女の新作シングル(アルバムからのリカットを除く)の中で唯一タイアップが付いていないのが、今回紹介する「初戀」です。本作のレコード売上は累計16.2万枚(オリコン調べ、以下同じ)。これは、主演ドラマ『スケバン刑事』の主題歌となった前作「白い炎」(累計19.9万枚)よりも、また主演映画『雪の断章』の主題歌となった次回作「情熱」(累計17.8万枚)よりも低く、この数字だけ見れば本作が伸び悩んだ作品のように見えるかもしれません。

しかし、楽曲のドラマ性は、その前後の作品と比べても全く引けを取りません。むしろ、タイアップに制約されない分、各々が自分の心の中で “初戀” ワールドを展開できるほど見事な作品なので、今回 “レコード売上にとらわれない名曲” として取り上げたいと思いました。

松本隆 × 筒美京平 × 武部聡志、そして何より “女優” の表現力!

まず、松本隆による歌詞が神業ではないかと思うほど、初戀フレーバーが作中に充満しています!好きな相手の似顔絵を書いては何度も消したり、映画館でその人と触れ合った肩が気になって内容が入ってこなかったり、似たような経験は誰しもあるのではないでしょうか(遠い目…)。

サビの「♪ 好きよ 好きです 愛しています どんな言葉も違う気がする」というフレーズがすべて日本語で、タイトルが “初恋” ではなく “初戀” と表記されていることも、文学的な気高さを保っており、斉藤の声の魅力を最大限に引き出しています。

次に、筒美京平のメロディー展開も、穏やかに過ぎていくAメロ、ふと内省的に我に帰るような気持ちにさせるBメロ、そして天にも昇るような「初めての気持ち」を表すがごとく高音に伸びていくサビ部分と、歌詞の世界に見事に寄り添った形となっています。

これも、語り継がれる斉藤由貴の名曲「卒業」(作詞:松本隆、作曲:筒美京平)同様に、詞先で作られたのではないでしょうか。どちらの作品も、青春期の淡い風景を武部聡志がドリーミーかつデリケートに色付けています。

そして、何より斉藤由貴の歌唱表現にも目を見張るものがあります。片想いで不安気な感じを出すためか、全体をいつもより繊細な声で歌いつつ、サビの高音部は柔らかく伸びるファルセットで包むという緩急のつけ方が見事です。

また2番の「♪ つきあった人はいたけれど こんなには深くなかったわ」では自分に問いかけながら確信に至ったことを語り口調で表したり、「♪ 溶けそうな幸福(しあわせ)が怖い」では嬉しくてつい浮足立つように歌ったり… と歌手デビュー1年目にして既に “女優” の歌になっています。

ラジオをキッカケにした “心のタイアップソング”

こうして、彼女の「初戀」に魅せられた人が多かったのか、本作はノンタイアップながらレコード売上で4週連続4位と長く上位入りを果たしています。ドラマ『毎度おさわがせします』の主題歌となったC-C-B「Romanticがとまらない」や、ドラマ『金曜日の妻たちへⅢ』の主題歌となった小林明子「恋におちて-Fall in Love-」など、タイアップの有無がレコード売り上げに大きく影響し始めた1985年としては、かなりの健闘と言えるでしょう。

そして、ラジオリクエストでの「初戀」は、『ザ・ベストテン』調べでは週間ランキング最高3位、オリコン調べでも年間27位と、これは「白い炎」(『ザ・ベストテン』最高7位、オリコン年間32位)よりも「情熱」(『ザ・ベストテン』最高5位、オリコン年間40位)よりも高い人気で、ラジオをキッカケに “心のタイアップソング”として好きになった若いリスナーも多かったことが読み取れます。

今や、「ドラマに斉藤由貴が出ていたら、何かが起こるはず」と視聴者が勘ぐってしまうほど、唯一無二のミステリアスな存在感を放つ彼女ですが、その片鱗を、歌手デビューわずか半年の本作から堪能してみてはいかがでしょうか。

Song Data
■ 初戀 / 斉藤由貴
■ 作詞:松本隆
■ 作曲:筒美京平
■ 編曲:武部聡志
■ リリース日:1985年8月21日
■ オリコン最高位:4位
■ 推定売上枚数:16.2万枚
■ 100位内登場週数:10週

カタリベ: 臼井孝