勝ち点方式が消える? ドラフト候補への影響も…筑波大・川村監督が語る大学野球の今後

筑波大・川村卓監督【写真:佐藤佑輔】

チームプレーよりも個人技が主流に? リモート練習が戦術にもたらす影響

全国で唯一、春の大学野球リーグ戦を行った東京六大学。当初の予定から4か月遅れ、炎天下のなかでの戦いとなったが、その開催は全国の大学野球関係者に大きな希望を与えた。一方で、依然として解決すべき問題はまだまだ山積みの状況が続く。大学野球は今後どう変わっていくのか。首都大学野球連盟所属、国立大としては全国屈指の実力を誇る筑波大野球部・川村卓監督に聞いた。

都心から電車で2時間、茨城県つくば市にグラウンドを置く筑波大野球部では、4月3日から全面的に練習を禁止。感染拡大を防ぐためという大学側の判断で、学生を地元に帰すことはせず、選手も寮やアパートで我慢のときを過ごした。本格的な練習再開は8月に入ってから。9月19日には秋のリーグ戦開幕が控えているが、選手の状態はまちまちだと川村監督は言う。

「技術的な部分では、例年通りの練習よりもむしろ伸びている子も多くいました。問題なのは、伸びてた子と落ちてた子の差がものすごく開いていたこと。うちは寮生と寮外生とに分かれているんですが、体力的な面では倍近くの差がついていた。寮生はお互い刺激し合ってできていた反面、アパート住みの子は極端に体力が落ちていた子も多い。単に学生の資質だけでなく、リモート授業の弊害もあります。リモートではなかなか評価がつけづらく、どの教員も課題の量がかなり多くなっていた。寮外生には理系学部の子も多く、課題に忙殺されて満足な練習ができていなかった面もあります」

とはいえ、必ずしも悪い面ばかりではない。川村監督が言うように、自主練習でも全体練習以上に力をつけている子も多くいた。仮にリモート練習が定着すれば、チーム力よりも個々の成長を促す指導が主流になるのではというのが川村監督の見立てだ。

「リモートは基本的には1対1の指導となるので、意欲のある子はどんどん伸びる。今の子にはZoomのほうが話しやすいのか、ミーティングでほとんど話さなかった子がよく発言するようになったり、選手とのLINEのやり取りもこれまである程度は感覚で指導していたことが言語化することで理解が深まった面もあります。とはいえ、やはり連携などのチームプレーは全体練習でないと身につかない。この状況が続けば、個人の能力を最大化した野球が主流になるかもしれない。その是非はともかく、プロや社会人を目指す選手が力をつける環境としては悪いことではないのかもしれません」

大学野球の代名詞でもある勝ち点方式が消える? ドラフト候補への影響も

収束の見えない状況のなかで様変わりしたのは、練習法ばかりではない。川村監督は大学野球のシステム全体にも今後何かしらの変化が訪れるのではと見ている。

「大きいところでは、このままコロナの影響が続けば今までの勝ち点方式が見直される可能性がある。やはりリモートでどこの大学も授業のやりくりが難しくなっているなか、この先1勝1敗で並んだときに月曜日も試合を行うというのが難しくなってくる。この秋は勝率制に移行しているリーグも多くあると聞きます。それがコロナの影響で継続されていくことは十分あり得ること」

大学野球の代名詞でもある勝ち点方式が勝率制へと変わると、どのような変化が起こるのか。投手の球数制限やドラフト候補の成長にも大きな影響があると川村監督は指摘する。

「勝ち点方式だと1勝1敗で並んだとき、どうしてもエースが中1日での登板となってしまいがち。勝率制となれば予備日の予期せぬ登板がなくなり、雨天順延などを除いて、先発投手のスケジュールは立てやすくなる。プロに進むような投手の酷使もある程度は避けられるようになるでしょう。一方で、1試合ごとの勝敗が順位に直結してくるので、下級生や2番手を使ったりといった、いわゆる捨て試合ができない。場合によっては得失点差も絡んでくるので、そうなると大量リードでも際限なく点を取りに行ったり、本来の野球とは別物となってしまう懸念もある」

特に東都大学野球や首都大学野球のように、入れ替え戦があるリーグでは最下位を避けるためその傾向はより顕著になるという。入れ替え戦があるから強くなるという考え方もある一方で、下級生や控え選手も育てるという考え方とは相反する面もある。今後勝率制となることで、入れ替え戦を見直していく可能性もあるのではないか、と川村監督は私見を語る。

いずれにせよ、その在り方そのものが大きく変わる可能性もあるコロナ禍での大学野球。メリット、デメリットも含め、様々な角度からの議論と検証が必要となっていくだろう。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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