【米国リテールトレンド】デジタルに見るファッションの未来(前編)

加速するファッションのデジタルシフト

 新型コロナウイルスの感染拡大により消費が落ち込むなど、先が見えない時代を彷徨う中、どの業界においても未来を描く力が必要とされている。それはファッション業界も同じで、これまでHRテックやフィンテックなど、他業種に比べるとデジタルシフトに対するマインドセットが遅れた業界と揶揄されてきたが、この段階になってようやく急ピッチで変革を進めようとしている。昨年ワールドが子会社化したことでも話題になったブランドバッグのシェアリングサービス「ラクサス」、洋服のサブスクとして定着した「エアークローゼット」、D2Cの「ファブリック トウキョウ」など、すでにサービスとして市場で認知を得ているものもあるが、今後ファッションはどのようにテクノロジーと結びつき、利便性だけでなく、ファッションならではのファンタジーをも魅せてくれるのだろうか? 物質主義に彩られた経済的な成功から、心が満たされる精神的な成幸へと、豊かさの定義も変化してきている。ここでファッションテック先進国、アメリカからの事例を紹介しよう。

ウクライナ女性起業家によるアメリカでの挑戦

 ダリア・シャポヴァロヴァ (Daria Shapovalova)。日本では聞き覚えのない名前だが、ヨーロッパのハイエンドなファッション界隈では、彼女を知らない人はほぼいないのではないだろうか。ウクライナ出身の彼女は、元々ファッショニスタとして注目を浴び、パリコレクションでは常にスナップカメラマンにパパラッチされる存在だった。自国のデザイナー達をグローバルに広めたいと思った彼女は、「MORE DASH」というセールス&PRエージェンシーを立ち上げた。現在ウクライナはもちろん、ロシアやジョージア、その他各国の新進気鋭のブランドをアメリカやアジア、ヨーロッパ、中東のバイヤー達に斡旋する役目を担っており、パリでショールームを開設している。またウクライナのモードシーンを牽引する立役者として、メルセデス・ベンツと協賛で「キエフ・ファッション・デイズ」というファッションウィークを立ち上げたことでも知られている。

 そんな彼女が共同創業者のナタリア・モデノヴァ(Natalia Modenova)と共に次に挑戦しているのが、ファッションテックの領域だ。そのため、彼女達は拠点をLAへと移した。そして、近頃発表したのが「デジタル専用の服を着る」というコンセプトの元誕生した「Dress-X」だ。

 現在、ファッション業界は世界で2番目に多くCO2を排出する環境汚染産業だと言われている。サスティナブルな取り組みが声高に叫ばれているいま、「Dress-X」ではフィジカルなファッションが生み出す美しさや興奮を共有しつつも、デジタル上で服を着る楽しみを通して、環境に優しい持続可能なファッションを謳歌することを提案している。操作はいたって簡単。自分の全身をスマホで撮って保存し、「Dress-X」のプロダクトページにアップロードするだけ。支払いが済んだら、およそ1週間ほどで自分のデジタルルックがメールに届く。理想の姿を手に入れるには写真の撮り方など、色々とコツがあるので実際に試してみることをお勧めする。続く後編では、「Dress-X」が業界で注目される理由など、ご紹介したいと思う。

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