<再ブレーク盤>角川博『雨の香林坊』変わらぬ高音もベテランならではの説得力も

 1976年デビューの男性歌手のソロ名義64作目となるシングル。昭和時代の人気番組だった『スターものまね大合戦』や『レコード会社対抗オールスター大運動会』での活躍から久しいが(特に、美空ひばりの声帯模写は神業レベル)、あれから40年前後たった今でも演歌・歌謡曲部門ではTOP3に入る人気を保っている。特に本作はロングセラーの兆しを見せている。

 『雨の香林坊』は、金沢を舞台としたブルース調の歌謡曲で、艶めかしいサックスと角川の甘い歌声が絶妙に絡み合う。「あなたの心が 離れていると 抱かれるそのたび 感じてた」と、言葉を溜めずに高音を当てる部分など、とても緑寿を迎えた人とは思えないし、それでいてその説得力は、さすがのベテランだと恐れ入る。細川たかし『心のこり』を長く十八番にしている人には、令和のレパートリーを増やしてみてもいいかもしれない。

 カップリングの『忘れてあげる』は、「つらくても 今日かぎり 忘れてあげる あなたのこと」と、好きな男性を想って身を引く女性が主人公のミディアム・バラードで、明るく穏やかな曲調が尚更に未練ごころが垣間見えて切なくさせる。こちらは、ちあきなおみ『紅い花』や、やしきたかじん『あんた』あたりが好きな人におススメ。

 いつまでも女歌をつややかに歌い続けるには、きっと陰の努力も相当なことだろう。孤独や加齢と闘いながら頑張る時、本作を聴けば、きっと幾分か気が楽になるはず。

(キング・1273円+税)=臼井孝

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