「サラリーマンは自由がない」30歳セミリタイアを目指す24歳にFPが言いたいこと

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、24歳、会社員の男性。これまでに贈与などで貯めた資産を運用しつつ、30歳頃には最低限の就労でセミリタイアを目指したいと言いますが……。FPの秋山芳生氏がお答えします。

30歳でセミリタイアしたいが、このままで達成できるのかわからなくなってきました。

現在地方でサラリーマンをやっています。実家は東京近郊でしばらくは帰るつもりはないです。貯蓄総額や投資総額が多いのは、宝くじをあてたわけでもなく、小さい頃からの暦年贈与などで現在も年間100万程度の贈与を受けています。またサラリーマンの収入とは別に配当収入で50万超あり、配当利回りの収益性と減配リスクの少ない銘柄を選ぶなどして安定性のバランスを取ったポートフォリオにしています。

本題になりますが、30歳頃にはセミリタイアをしたいと考えています。理由としてはサラリーマンは自由が利かなすぎるからです。業務内容の自由度、時間的な自由、地理的な自由は自分では選べません。

以前正社員になる前にアルバイト兼自営業をやっていました。雑貨や電子機器の卸売りで利益は月によって変動ありましたが、5万前後で仕事自体は融通が利きました。アルバイト収入月10万や配当収入と合わせて充分生活できました。しかし、自分だけで営業しているので、在庫管理、仕入れの管理等をしてる内に、管理が大変になったので、知人に事業ごと売却しました。その後は縁があって正社員で働いていますが、正直時間と場所が制限されており、辞められるならいつやめても良いと思っています。そこで、ある程度の資産が貯まり、配当収入と厚生年金や健保に入れる程度で働き、給与収入を得て、最低限の生活費と趣味の旅行代くらい出せれば良いかな程度に考えています。

ちなみに年間の生活費はかなり少なく、年間120万程で、個人年金、貯蓄型終身保険、海外旅行なども込みでその程度です。

【資産の内訳】

計約2000万円(株式:1500万円、REIT:200万円、投信:100万円、外国債券:100万円、貯蓄型終身保険:33万円、個人年金:16万円、確定拠出年金:13万円)

他、現預金1000万超

※保険、個人年金、確定拠出年金はすべて投稿時の価値

目標としては資産が5000万程度になるまで働くことです。その歳に3000万程度を株式等にし、手取り4%弱のポートフォリオにし、年100万程度の配当収入で、給与所得の手取りも同程度で年間200万の手取りで暮らせるのではと思っています。今の会社をやめたときに現在の社宅家賃8千円から5万程度の家になると仮定して50万生活費が増えても問題ないように考えています。また車は別に必要がなければ原付での移動も悪くないと思っていて、そっちにシフトする可能性はあります。

世間知らずの甘えん坊だとは重々承知してます。どうかアドバイスをください。

【相談者プロフィール】

男性、24歳、会社員、未婚

住居の形態:社宅(会社が賃貸アパートを契約)

毎月の世帯の手取り金額:18万円

年間の世帯の手取りボーナス額:80万円

毎月の世帯の支出の目安:10万円

【毎月の支出の内訳】

住居費:0.8万円

食費:2万円

水道光熱費:0.9万円

教育費:0

保険料:1.8万円

通信費:0.5万円

車両費:2.5万円

お小遣い:1.5万円

その他:0

【資産状況】

毎月の貯蓄額:8万円

ボーナスからの年間貯蓄額:80万円

現在の貯蓄総額:3000万円

現在の投資総額:2000万円

現在の負債総額:0


秋山: あえて言います。世間知らずの甘えん坊だと。

苦労もなく24歳で3000万円の財産を暦年贈与で得て、そして、24歳の若さであるにもかかわらず年間120万円で生活!楽しいですか?ただただ時間を浪費していませんか?いや浪費しているはずです。しててほしい……という声が聞こえてきそうです。

思わず取り乱しましたが、ご相談内容に答えていきたいと思います。

ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナーの秋山芳生です。
総資産は3000万円で、内1000万円の現金と2000万円の運用を行っている状態ですね。
5000万円貯めて早期のリタイアをしていきたいのですね。

最近流行りの“FIRE”って?

早期のリタイアを目標とするライフスタイルとして、FIRE (F inancial I ndependence, R etire E arly ) というムーブメントがありますね。最近では、『FIRE最強の早期リタイア術――最速でお金から自由になれる究極メソッド』や、『FIRE 最速で経済的自立を実現する方法』など、20代は高収入で仕事を頑張り、30代から早期退職する方法や体験を語った本が売れています。

中でも「4%ルール」といった、一定金額を運用しながら4%取り崩す(または、4%程度の配当金を得る)などの方法が注目されています。

これは、年間支出の25倍の資産を築けば、年利4%の運用益で生活をまかなえる考え方です。例えば、年間支出が300万円なら、7500万円の資産を築き年4%で運用すれば、理論上は資産を維持したまま生活できるとするものです。年間支出が200万円なら、5000万円を貯めて4%で運用するか4%の配当金が得られるポートフォリオが組めれば達成できるということになります。

4%ルールはどこからきたのか

この4%はアメリカのS&P500の成長率を7%として、インフレ率を3%を差し引いて4%と計算したものと言われています。また、高配当と言われている株式やETFやREITなどで得られる配当金もだいたい3%から4%なので、ある程度実現可能性のある数字ではあります。

この4%ルールは資産の取り崩しの場合も一つの指標として使われます。引退して資産を取り崩すタイミングになった際、資産を運用しながら総資産の4%までを年間の取り崩し額にすれば、死ぬまでに資産が枯渇する可能性が極めて低いというものです。一つの指標として覚えておいて損はないでしょう。

ご相談者様を、この計算式に当てはめると、200万円の生活費としてその25倍なので、きっちり5000万円ですね。目標金額とも合うので、おそらくこういった本などの情報を収集しているのではと思います。

運用益のアップダウンにどう備えるか

ただし、この4%ルールも本のようにうまくいくかどうかはわかりません。生涯の平均利回りが4%であっても、その期間中はマイナス10%の年もプラス10%の時もあるからです。資産が減っている時にも変わらず資産を取り崩すのはなかなか精神的に厳しいものがあります。

ご相談者様は、その辺りも考えて、運用益に依存するだけでなく労働収入で生活費の半分の100万円以上は稼いでいる状態にしたいと考えられていることと思います。また、希望されているように厚生年金に入ることで、老後の生活も安定してくると思います。正社員ではなく、パート・アルバイトで社会保険料を支払い厚生年金に加入するには、
1)勤務時間及び日数が、正社員の3/4以上であること
2)週20じ感以上の勤務、、年収106万円以上であることなど以下の5つの条件を満たすこと
・週の所定労働時間が20時間以上であること
・賃金月額が8.8万円以上(年間約106万円以上)であること
・1年以上にわたり使用されることが見込まれること
・従業員501名以上(厚生年金の被保険者数)の勤務先で働いていること ※2022年10月からは従業員501名以上という条件が100人以上、2024年10月に50人以上に変わるので、加入条件のハードルは下がってくると思います。
・学生でないこと

若いうちにセミリタイアを考えるうえでの注意点

ということで、5000万円の資産を築き、うち3000万円を4%の配当狙いで運用し、年間106万円以上を稼ぎながらセミリタイアのような生活は理論的には可能だと思います。

ですが、3点ほど考えておいていただきたいことがあります。
1)しっかりとした投資のマインド形成ができずに不況が起こると、頭ではわかっていても理屈通りに動けなくなり計算が狂っていく可能性があるということ。
2)若いうちに自己投資をして、自分の生産性をあげることが一番の投資になると思うが、その機会が失われるのではないかといこと。
3)ライフイベント(結婚、出産、教育など)を計算に入れていないで、セミリタイアを考えている。つまり一生一人暮らしを続けた場合を前提にしているということです。

投資のマインド形成については、暴落時に狼狽売りをしないようにしたり、好景気に投資過多になりリスクが高まってしまうのをコントロールするのかは、経験がものを言うので投資の勉強をしながら自分がとれるリスク許容度をしっかりと見に付けていくしかないと思います。

その中でも、「自分が労働により稼げれば、一時の減配によるキャッシュフローの悪化や、資産全体の目減りがあっても大局的に影響ない」と思えるかによってマインドの安定感は変わってくると思います。

働き続けるか続けないかは別にして、スキルや資格など労働により稼げる力を身につけておくことは、非常に重要であると思います。

金融資産とともに大切な「無形資産」とは

そして、長期的な視点で人生を見た時に、資産として金融資産と、無形資産の両方が重要になってきます。無形資産は、リンダ・グラットン教授著の『LIFE SHIFT』によると、「生産性資産」「活力資産」「変身資産」の3つです。
1)生産性資産:仕事に役立つ知識やスキル。仕事につながる人間関係や評判
2)活力資産:健康、友人、愛、家族など。肉体的・精神的な幸福感と充実感をもたせ、前向きな気持ちにさせること
3)変身資産:人生の途中で新ステージへの意向を成功させる意思と能力のこと

セミリタイアは計算上は可能だけど

人生は長く何があるかはわかりません。まだ想定もしていないライフイベントがこれから色々と起こるのではないでしょうか。結婚する、子どもが生まれる、育てる、親の介護、などなどです。5000万円の資産を築き、あとは少しの労働で年間200万円の支出で生活することを一生続けるのは計算上は可能と思います。

一方、人生の面白さは様々なライフイベントがあることや、思い通りにならないことが起こるからこその味わいがあるものと思います。そして、人の役に立つこと、貢献すること、やりがいのある仕事をみつけること、愛すること、愛されることを通じて、豊かな人生を送るという視点に立ったとき、今という時間が将来において非常に重要になってくると思います。

コロナ禍における影響により、リモートワークなど地理的なものを超えた働き方が進んでいます。課題とされている、業務内容の自由度、時間的な自由、地理的な自由を得やすい環境になってきているとも思いますので、自己投資をして自分を磨くとともに、選択の幅をひろげ、今という時間を大切に考えていただければ幸いです。

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