巨人戸郷が叩き出す菅野や中日大野雄を凌ぐ数字 セイバー指標で見る8月の月間MVP

巨人・戸郷翔征【写真:荒川祐史】

8月はヤクルトがセ・リーグの全ての借金を背負う形に

新型コロナウイルスの影響で約3か月遅れて開幕したプロ野球。8月を終えて各球団がほぼ60試合超を消化し、シーズンの折り返し地点を迎えたことになります。そこで、ここではセイバーメトリクスの視点から8月のMVPを選出してみましょう。

まず、8月のセ・リーグ各球団の月間成績は以下の通りだ。

1 巨人 14勝10敗
打率.256 OPS.725 本塁打27 援護率5.35
先発防御率3.97 QS率44.0% 救援防御率3.47

2 DeNA 14勝11敗
打率.270 OPS.730 本塁打24 援護率3.82
先発防御率3.50 QS率34.6% 救援防御率3.42

3 中日 13勝11敗
打率.225 OPS.626 本塁打15 援護率3.54
先発防御率3.11 QS率53.8% 救援防御率3.70

4 阪神 13勝12敗
打率.235 OPS.670 本塁打20 援護率4.00
先発防御率3.10 QS率65.4% 救援防御率3.79

5 広島 12勝12敗
打率.243 OPS.708 本塁打28 援護率4.28
先発防御率3.45 QS率57.7% 救援防御率4.61

6 ヤクルト 7勝17敗
打率.246 OPS.698 本塁打21 援護率4.47
先発防御率4.56 QS率44.0% 救援防御率5.20

ヤクルトは8月のセ・リーグの借金を全て請け負う形となってしまいました。月間防御率が4.81で、援護率4.47を上回ってしまうほどの投壊状態に陥ったのです。ピンポイントで見れば小川泰弘がノーヒットノーランを達成した試合も含めて5試合で4回のハイクオリティスタート(HQS)、防御率2.29と奮闘していますが、チームは月間25試合で14度先制点を奪われるなど主導権が握れないまま試合を終えることが多くなっています。また救援防御率5点台もヤクルトのみです。

中日、阪神、広島の投手陣のクオリティスタート(QS)率が50%を超えています。広島では森下暢人、遠藤淳志が4QS、中日では大野雄大が3HQS(すべて完投勝利)、ロドリゲス、勝野昌慶が3QSを記録、阪神では8月18日から28日まで10試合連続でQSを達成しています。DeNAは打率、OPSともにリーグ1位を記録しましたが、なぜか援護率はリーグ5位の3.82。打ってはいますが、それがなかなか得点につながらず歯痒い思いをしたファンも多いのではないでしょうか。

そんなセ・リーグの月間MVPは9月9日に発表される予定ですが、ここでは、セイバーメトリクスの指標による8月の月間MVP選出を試みます。

ヤクルト・村上宗隆【写真:荒川祐史】

ヤクルトの村上はリーグトップのwRAA11.75をマーク

・8月の月間MVP:セ・リーグ打者部門

打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用います。

各チームのwRAA上位3名は以下の通りです。

巨人 丸佳浩7.75 坂本勇人6.19 中島宏之4.70
DeNA 佐野恵太9.29 梶谷隆幸7.11 宮崎敏郎5.51
阪神 近本光司6.96 サンズ6.90 大山悠輔3.47
広島 鈴木誠也8.07 堂林翔太4.83 坂倉将吾3.42
中日 大島洋平5.16 阿部寿樹5.03 高橋周平2.90
ヤクルト 村上宗隆11.75 青木宣親6.13 山田哲人3.69

6、7月に調子の上がらなかった巨人の丸や阪神の近本が本来の実力を発揮し、チーム1位の貢献度を記録しています。特に近本は月間38安打、打率.352、5盗塁がいずれもリーグ1位でした。DeNAの佐野、広島の鈴木は開幕から4番として好調をキープ。特に佐野は月間6本塁打、22打点で“2冠”を達成しており、打率も.343もリーグ3位であることから、公式の月間MVPの最有力候補といえるでしょう。

鈴木は月間打率.267と物足りない印象ですが、OPS.931はリーグ3位と健闘、ただチーム内に鈴木を追随する打者がいないため孤軍奮闘状態となっています。中日のwRAAトップが大島の5点台。中日の月間チーム防御率がリーグ1位の3.28であるにもかかわらず、援護率が3.54、打率.225、OPS.626すべてリーグ6位ということが、中日が期待ほどの勝利を得られていないことを物語っています。

ヤクルトは村上、青木に加え、8月13日に1軍復帰した山田哲人の貢献が目立ちました。村上は公式の6、7月度の月間MVPを獲得しましたが、今月はwRAAという指標でリーグ1位の11.75を記録し、ヤクルトの不動の4番としての貫禄を示しています。よって今月のセイバーメトリクスの指標から見た打者部門のMVPは村上としたいと思います。

村上宗隆(ヤクルト):wRAA 11.75
打率.345(リーグ2位)OPS1.055(リーグ1位) 5本(リーグ3位)出塁率.457 長打率.598(ともにリーグ1位)

戸郷は9連勝中の菅野や5連続完投勝利中の中日大野雄よりもRSAAで優れる

・8月月間MVP:セ・リーグ投手部門

投手評価には平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAを用います。ここでのRSAAはFIPベースで算出します。

各チームのRSAA上位3名は以下の通りです。

巨人 戸郷翔征5.81 菅野智之4.72 中川皓太1.92
DeNA 山崎康晃2.21 エスコバー2.18 今永昇太2.21
阪神 高橋遥人3.61 ガンケル2.64 青柳晃洋1.86
広島 森下暢人5.50 フランスア2.22 島内颯太郎1.89
中日 ロドリゲス4.06 大野雄大4.03 勝野昌慶2.33
ヤクルト 今野龍太2.83 石山泰稚2.06 小川泰弘0.83

公式の月間MVPの有力候補としては、以下の4人が有力な候補となるでしょう。

大野雄大(中日)
登板3 3勝0敗 防御率0.67 奪三振27 奪三振率9.00
被本塁打2 WHIP0.59 QS率100% HQS率100% K/BB6.75
※3試合すべて完投勝利

小川泰弘(ヤクルト)
登板5 3勝2敗 防御率2.29 奪三振27 奪三振率6.88
被本塁打4 WHIP0.96 QS率80% HQS率80% K/BB3.86
※8月15日ノーヒットノーランを達成

菅野智之(巨人)
登板4 4勝0敗 防御率1.50 奪三振21 奪三振率6.30
被本塁打1 WHIP0.77 QS率100% HQS率100% K/BB7.00

森下暢人(広島)
登板4 3勝0敗 防御率1.80 奪三振29 奪三振率8.70
被本塁打1 WHIP0.83 QS率 100% HQS率75% K/BB4.83

大野雄大の8月3完投を含め、現在まで5戦連続完投していること、菅野智之の8月4連勝を含め開幕9連勝していること、小川泰弘がノーヒットノーラン達成と、大記録が目白押しのために誰が選ばれてもおかしくない状況と言えるでしょう。

そんな中でRSAAでは月間の既定投球回数に達していない戸郷翔征がリーグ1位でした。ただ既定投球回まであと2/3回ですし、投球内容は群を抜いていた記録を残しています。よって8月の月間MVPとして戸郷を挙げたいと思います。

戸郷翔征(巨人):RSAA 5.81
登板4 4勝0敗 防御率 0.37
奪三振32(リーグ1位)奪三振率11.84 被本塁打0
WHIP1.03 QS率50% HQS率25% K/BB3.20

なお、戸郷と森下は今年の新人王を競う形となっています。

戸郷 9試合7勝2敗 防御率1.90 奪三振率10.0
森下 9試合5勝2敗 防御率2.19 奪三振率9.34

と、これらの指標では戸郷が有利ですが、イニング数やQSで見ると

戸郷 イニング52 完投0 QS率55.6%
森下 イニング61回2/3 完投1(完封1) QS率77.8%

と、先発投手としてイニングイーターぶりを発揮しているのは森下です。戸郷が後半戦イニング数を稼ぐ投球ができるかどうかが、新人王獲得に向けての試金石となりそうです。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

© 株式会社Creative2