五島市のこれから 野口市政3期目(下) 人口減少 難問の「自然減」対策 道筋は

五島市人口の自然動態

 五島市長選の告示翌日。二次離島の奈留島へ向かうフェリーの客室で、野口市太郎氏(64)は言った。「奈留島内で生活が完結できるよう、何とかサービスを維持しなければ」。市中心部の福江地区に比べ、人口減少が著しい“周辺”の二次離島や支所地区。医療や介護、教育などの維持はギリギリの状況と言える。
 例えば教育。子どもの数が減る中、市立奈留小中は2017年度、県立奈留高は18年度から島外から「留学生」を受け入れ、奈留高は島外出身生徒が過半数を占める。「廃校にしないため必要」(島民)な制度。安定的な受け入れに向け、住民組織が学生寮の建設も進める。
 奈留島で街頭演説に立った野口氏は「小中学校や高校を守り、支えていく」と約束。聞いていた男性(65)は「留学がうまくいくよう願うしかない。島で生まれる子どもは減るばかりで、増える要素もないからね」とため息をつく。
 「今の奈留島は福江島の未来」と表現する島民もいる。奈留島の現人口は2千人余り。約9千人が暮らした60年前と比べた減少率は75%(15年国勢調査時点)で市全体の59%を上回る。人口減は生活基盤にも影響を及ぼし、14年には奈留病院が診療所化。介護分野などは人材確保が難しい。
 市全体では人口減に歯止めをかけつつある。雇用拡充や移住支援などにより、昨年は新市発足後で初めて、転入数から転出数を引いた「社会動態」が33人のプラスに。今年も7月時点ではマイナス37人(前年同月はマイナス53人)と改善しており、2年連続の「社会増」も視野に入れる。新型コロナ禍に伴う地方移住の動きもにらみ、市はオンライン移住相談会を常設するなどして誘致を進める。
 ただ人口減対策の両輪のもう一方、死亡数が出生を上回る「自然減」の対策は難問だ。死亡数は600人台で高止まりの一方、出生数は年々減り、17年以降は200人を下回る年も。その結果、自然動態は年間マイナス400人台が続く。
 市は、小中学生の医療費助成や不妊治療支援拡充などを実施。野口氏は今後も出会いや結婚、出産などの支援策に力を入れる考えだが、短期的に成果が出やすい社会減対策に比べ、自然減対策は数十年単位の見通しが必要になる。
 コロナ禍で厳しい財政も予想される中、成果が表れにくい施策にもしっかり取り組むのか-。当選直後の野口氏に問うと「そういう決意。将来を見据えた投資をしていく」と述べた。長期的な課題に道筋を付けられるか、野口氏3期目のかじ取りに注目が集まる。

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