文字の読み書きができないと言われる障害「ディスレクシア」。学校側の認識はどうなっているでしょうか。認定NPO法人EDGE代表の藤堂栄子さんに聞いてみました。
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ディスレクシアでもいきいきと暮らせる社会を目指す
文字の読み書きに極端に時間がかかるなどの症状をもつ「発達性ディスレクシア」。小学生の40人クラスの2〜3人が直面する問題ながら、あまり知られていないのが現状です。また、一般の社会だけではなく、実際に子どもに勉強を教える教育の場でも、しっかりと対応できるところは極端に少ないといいます。
ディスレクシアや読書困難を抱える人たちでもいきいきと暮らせる社会を目指す、認定NPO法人EDGE(エッジ)代表の藤堂栄子さんにお話をうかがいました。
藤堂栄子氏プロフィール
1953年生まれ。
慶応義塾大学法学部政治学科卒、星槎大学大学院修士修了
認定NPO法人エッジ会長、星槎大学特任教授
著書:発達障害理解のためのハンディシリーズ(金子書房、共著)、ディスレクシアでも大丈夫(ぶどう社)、ディスレクシアでも活躍できる(ぶどう社)他多数
時事通信「内外教育」「厚生福祉」他に寄稿
教科書の音声版「BEAM」
ーーEDGEが提供する「BEAM」とはなんですか?
ディスレクシアの方は、紙や画面の文字の認識をすることは難しいのですが、音声になった言葉は認識できることが多いです。
EDGEでは、実際に学校で利用されている教科書をMP3の音声で聴ける、音声版教科書「BEAM」を無償で提供しています。
ーー学校では積極的に音声教科書は導入されていますか?
学校側がディスレクシアのことをしっかりと理解していれば、使うように促しているとは思います。ただ残念ながら、ディスレクシアのことをしっかりとわかっている教育現場は、まだまだ少ないように思えます。
ーーディスレクシアが学校などで発覚されないケースも多いのでしょうか。
たとえば、一歳半検診や三歳児検診では全員文字が読めないのですから、ディスレクシアはスルーされてしまいます。そして小学校に入るときですが、小学校では「学校でひらがなの読み書きを学ぶ」を前提としてスタートしますから、文字が読めているか読めていないか?というチェックは、ここでもスルーされてしまうわけです。
小学校1年生ではひらがなやカタカナは文字と音が対応していることが多いのである程度訓練で読めるようにはなります。小学2、3年生で、読みのスピードが遅い、漢字が苦手であっても、それが文字が読めないことが起因なのか、怠けているのか、ふざけているのかなど見極めが難しいことも少なくありません。
そうこうしているうちに、内容理解までたどり着かないので自信を失い、学習意欲を失ったり、不登校や授業妨害をしたりなど、他の問題が生じます。読み書きについての困難さに早く気づいて、どの程度、どの部分が困難なのかを見極めて、適切な教え方、学び方や支援や配慮を行うことが必要です。
ーーディスレクシアは女性も多いのでしょうか。
日本では、まだまだ女性が勉強できなくても、男性ほど問題視されない環境があるように思えます。「リケジョ」や「レキジョ」なんて言葉があるくらいですからね(笑)。そのため、文字の読み書きが苦手でテストなどの点数が低くても、ディスレクシアとして認識されていないケースを危惧しています。
実際に、社会人になってから私たちのところに相談にくる女性が少なくありません。ディスレクシアは男性のほうが比率では多いとされていますが、こういったケースを調査していくと、結果は違ってくるかもしれません。
テストで、ひらがな解答では「バツ」となる厳しい対応
ーー歴史のテストで、織田信長を“おだのぶなが”とひらがなで書いたら不正解になった例を見掛けました。
学校でディスレクシアと認識されていれば、2016年4月から施行された障害者差別解消法に基づき「合理的配慮」で“おだのぶなが”と書いてもマルをもらえるようにはなっているのですが、発達性ディスレクシアと診断されていない子に対してもマルがもらえるかというと、まだそこまで教育現場の意識が育っていません。
ディスレクシアのことを理解していないと「ちゃんと勉強していないからだ」という論調になりがちです。そのため「同じ文字を100回書きなさい」という昔ながらの勉強法をとってしまう可能性さえあります。ひとつの文字を認識するのに同年代の子の何倍ももかかる子どもにとって100回書き取りは苦行でしかなく、虐待にも似た行為です。
ーーディスレクシアの子どもに「100回書き取り」はツライですよね。社会に出たらパソコンやスマホがあるので、漢字であろうがひらがなであろうが対応できる気がするのですが。
そうですよね。スマホのアプリで文字を読み込めば、音声で読み上げてくれるし、テキストだって音声読み上げしてくれる、文字の入力も音声で可能です。文字の読み書きが苦手ならば、このあたりはICTの力で解決できることが多いはずなんですが、抵抗が強いですね。
半径10メートルの価値観に縛られない
ーー藤堂さんのお子さんもディスレクシアとお聞きしました。
長男がディスレクシアなのですが、日本での学校教育に馴染まず、15歳で単身イギリス留学をしました。
ーーかなり大胆な選択ですね。
ディスレクシアに対する認識も対応も日本より進んでいたため、日本にいたときよりも、しっかり本来の能力を発揮できるようになりました。
イギリスでは、ディスレクシアであると判断されると程度に応じて、さまざまな支援がはじまります。スペルや文法の正確さよりも、まずは意図が伝わることが重視され評価されるようになったので、本人もがぜんやる気が出ました。
また20年前のことですが、英文であればワープロソフトなどでスペルチェックは可能でしたし、音声認識も日本語より英語のほうが進んでいました。ICTの力ですべてが解決するわけではないですが、生きやすい環境をつくるためにテクノロジーは、どんどん活用すべきだと思います。
彼は今建築家として活動をする傍ら、タイの大学で教授をやっています。本人がディスレクシアとわかったときに、自分はラッキーだけれど、日本にはいっぱい大変な思いをしている子どもがいる、そのような子どもたちのことを何かしてくれと頼まれて、ディスレクシアを支援するNPOをスタートしました。
周りが価値観を広くもって、身の回りで「正しい」とされている学び方だけに縛られないことで、ディスレクシアの人たちが、いきいきと暮らせるようになってもらえればなと思っています。
ーーありがとうございました。
専門家に聞きたいことを募集中
これだけ多くの子どもが抱える問題でありながら、問題として取り沙汰されていないのは一重に「ディスレクシア」という障害が、あまりにも知られていないということがあります。
本シリーズでは、引き続き「ディスレクシアは治るのか?」「どのように対処していけばいいのか」といったテーマについて、さまざまな専門家のお話を聞いていきます。「もしかしたら?」「専門家の意見を知りたい」といったご要望があれば、 お知らせください。できるだけ機会をつくって記事で紹介していこうと考えています。
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