新型コロナの影響は学生ヨット界にも 大会の延期や中止、相次ぐ

昨年の全日本学生ヨット選手権で行われた470級レースの様子=藤原靖史氏提供

 海の上で風に吹かれて行うセーリングは、新型コロナウイルスに感染する危険性が低い、とみられているスポーツの一つだ。しかし、活動に影響を受けているセーラーがいるのも事実。特に学生はレースの中止や延期が相次ぎ、最大のイベントである「全日本ヨット学生選手権」の開催も不透明な状況になっている。(共同通信=山崎惠司)

 ▽活動再開は「3、4割程度」

 今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響は、大学スポーツも直撃している。安全な競技とされるセーリングもそれを逃れることはできなかった。結果、活動ができない状況に追い込まれた大学ヨット部は多い。

 全日本学生ヨット連盟に加盟する大学は全国9水域(北海道、東北、関東、中部、近畿北陸、関西、中国、四国、九州)で113校ある。

 全日本学生ヨット連盟事務局の真行寺誠さんによると、8月末の時点で活動を再開できているのは「全国で3、4割程度」。再開した大学にしても、泊まり込みの合宿はできておらず、日帰りで練習に行っているという。「セーリングに対する各大学当局の理解を得られるか、がポイント」と真行寺さんは指摘した。

 全国の大学ヨット部員が目標とするのは、団体戦の「全日本学生ヨット選手権」と「全日本学生女子ヨット選手権」、そして個人で争う「全日本学生ヨット個人選手権」の3レースだ。いずれも各水域で実施される予選を勝ち抜いた大学や各選手によって争われる。

 しかし、先述のように部活動を再開できていない状況があるため、各水域の予選も開催は流動的となっている。この中で、全日本学生女子ヨット選手権は早々と中止を決めた。9月に神奈川県葉山町で開催される予定だった。女子学生セーラーにとっては最大の目標だっただけに、最終学年の4年生を中心に中止に大きなショックを受けた学生は多かっただろう。

 ▽開催に向け模索する大会も

 全日本学生ヨット個人選手権は9月4日から3日間、愛知県蒲郡市でレースを行う予定だったが、延期を決めた。同選手権に向けた各水域の予選は、加盟校の活動再開状況を見守りながら、再調整を行っている段階だ。

 学生ヨット界最大のレースである「全日本学生ヨット選手権」は10月31日から4日間、兵庫県西宮市で予定されている。この大会の各水域予選も流動的だが、それぞれの水域で何とか開催しようと模索が続いている。

 水域ごとに予選が開催できたとしても、ハードルは残る。真行寺さんは「地区予選は日帰りでも可能だが、全日本は通いではできない。団体での移動、それに宿泊が安全にできるかどうか」と語る。

  開催に向けて、クリアしなければならないさまざまな課題が残されている。代表例は、全日本学生ヨット選手権に向けて各大学が予約している宿舎のキャンセル料だ。9月中旬以降だとキャンセル料が発生するという。従って、開催可否の判断は9月中旬がデッドラインとなる。

  全日本学生ヨット選手権は1933(昭和8年)年に第1回が行われ、戦争で中断した3年間を除き、昨年で84回を数えた。開催の判断は、最終的には全国9水域を代表する評議員24人による評議員会で決定する。

 真行寺さんは、評議員に各水域の学連委員長も加わり、毎週のようにオンラインミーティングを開き、どうすれば、開催できるか、知恵を絞っているとしている。伝統ある学生ヨット界のビッグイベントを救うための努力がギリギリまで続けられる。

昨年の全日本学生ヨット選手権で開かれたレースの様子=藤原靖史氏提供

 ▽セーリング競技の感染リスクは

  国立スポーツ科学センター(JISS)の土肥美智子医師は学生ヨットの経験者。千葉大時代には1989年に北海道で開催された国体の成年女子スナイプ級にスキッパーとして出場している。

  夫の田嶋幸三・日本サッカー協会会長が3月、新型コロナウイルスに感染。家族として陽性者を見守った経験もある。 

 セーリング競技における感染リスクはどれくらいあるのだろう。土肥医師は「屋外なので〝3密(密閉、密集、密接)〟の密閉は緩和できる。感染のリスクは他のスポーツに比べて、かなり低い部類だ」と説明してくれた。

 学生ヨットの場合は2人乗りの艇を使う。スキッパー、クルーとして乗るペアについては「家族みたいなものだから、家庭内感染のようなリスクはあるかもしれない」と指摘する。とはいえ、レース中に他艇へ感染するリスクに関しては「かなり低い。ゼロに近い」とした。

 ヨット部の活動には、艇の組み立てや分解収納などといった陸上での作業がある。土肥医師は「マスクをして、しゃべらずに作業を行う。チームの中でもいくつかのグループに分けて、時間差を付けて作業すればいいのではないか。更衣室の使用や、シャワーも換気に気を付けて、部員が集中しないように時間差で利用することを勧める」とアドバイスする。

 最後に、全日本学生女子ヨット選手権が中止されるなど、失望や不安の中にいる後輩の学生セーラーへエールをもらった。

 「悔しいとか残念などと感じているに違いないと思います。でも、物事にはすべて意味があります。なので、大会がなくなったことを意義あるものに変えてほしい」

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