猛暑だった8月も終わり、秋の気配もするようになりました。世間は、安倍首相が退陣するとの突然のニュースで持ち切りです。
このコラムでは投資の世界で過去の失敗から学ぶ事が多いという話をしていますが、安倍首相も第一次内閣では、華々しい成果もあげられず、1年あまりで退陣しました。ただ、その失敗を糧に、第二次安倍内閣は憲政史上に残る長期内閣となったのです。
第一次、第二次安倍内閣の決定的な差
第一次安倍内閣と第二次安倍内閣の大きな違いは何だったのでしょうか。しっかり分析してみると、いかに失敗を成功に結び付けるか、ということにつながるのではないかと思います。
第一次安倍内閣は、小泉長期政権の後でした。「変化」よりも「安定」が求められた時代だったということでしょう。ですから、小泉元首相が変化させたものを、いかに安定的かつ成長するようにするかが求められていました。そんな中で、さらに変化を求めてしまったことが、内閣がうまくいかなかった原因ではないでしょうか。
そして、第二次安倍内閣が発足したのは、リーマンショックから立ち直りかけたところで、東日本大震災ショックを受けた後でした。当時の民主党政権からの「変化」を求められた中で、「三本の矢」に見られる経済重視の政治に切り替えたことが評価されたと言えます。
もちろん、どん底を脱した後の期待感が後押しをしたということですが、世論が「変化」と「安定」のどちらを求めているのか、また、求められたものにしっかりと対応できたかが、失敗と成功の分かれ目だったということです。
変化と安定のタイミング
そして、この変化と安定のどちらが成功しやすいかというと、当然のことながら変化する方です。投資の世界でも、一つのやり方でうまく行っている時は「変化」を求めることはなく、うまくいかなかった時に「変化」すれば良いというのは同様です。
つまり、小泉政権の後、小泉元首相のやり方をそのまま踏襲すればいいと安直に考えると、失敗していたでしょう。前政権がうまく行ったあとというのは非常にやり難いと思います。
逆に、民主党の野田政権の後ということであれば、民主党が掲げた経済よりも人重視ということの反対を行えばいいわけですから、比較的簡単に変化させることができ、成功する可能性が高まります。
当たり屋につくか、曲がり屋に向かうか
投資の世界でも、人が失敗したのを見れば、その反対を行えばうまくいきます。もちろん、自分が失敗したことの反対も行えばいいのですが、自分の失敗というものはどうしても後を引きずってしい、その反対を行いにくいもの。成功体験がどうしても邪魔をして、変化しにくいのです。
その反対に、人が失敗したのを見ると、「あの人のように失敗しないようにしよう」と、比較的簡単にこれまでと反対の事をしやすいもの。つまり、変化することができるのです。
相場格言にも、相場の当っている人にくっついて行けと、「当たり屋に付け」というものがあます。うまく行っていない人の反対をすればいいという意味で、「曲がり屋に向かえ」という言葉もあります。
そして、当たり屋に付くのと曲がり屋に向かうのでは、圧倒的に曲がり屋に向かった方がうまくいくことが多いのです。もちろん、曲がり屋といっても当ることもあり、100%ではありません。しかし、変化する、つまり投資方法を変えることは比較的わかりやすい方法なのだと思います。
ただ、実際に曲がり屋に向かうのも当り屋に付くのも難しいと思います。曲がり屋、というのを相場の下手な人とするのではなく「うまく行っていない人」「失敗した人」というように解釈すればわかり易いと思います。
コロナ禍、“幻想”に囚われた人の投資の失敗とは
例えば、今年のこれまでの相場を考えます。新型コロナウイルスの問題で大きく下落しましたが、日経平均で見ると新型コロナウイルスの感染が拡大している最中に高値を付けました。
つまり、このウイルスがここまで経済に打撃を与えるとは、誰も考えなかったのです。実際には1,2月の時点で、中国などでは店舗を閉鎖していたので、予想できたはずなのですが。
それにも関わらず、株価が高値を付ける中で買い急ぐ動きも見られました。既に相場が変化しているにも関わらず、株は上がるものだというこれまでの相場を引きずって、買えば上がるという雰囲気になっていたのです。株価が上昇し、逆にコロナの影響は小さいと思い込んでしまった人が多かったということでしょう。
「株価上昇が続く」という思い込みと幻想に囚われた人は失敗しました。一方で、相場の変化に気づいて、買い上がるところにしっかりと売り向かった人は成功しました。そして、2月から3月の暴落の時には、1月2月の高値で買った人たちが慌てて売り急いだ後に底入れ反転となりました。
相場のリズムに乗る
相場は常に上げ下げしていますから、上がれば下がり、下がれば上がるというリズムができています。そのリズムの変化に乗れる人が成功し、乗れない人が失敗するということなのだろうと思います。
そして、そのリズムにしっかりと乗るには乗れていない人=失敗した人の動きを見て、変化させていくということが大切なのでしょう。
<文:清水洋介>