コロナ禍の1~8月、中国公船の尖閣接近は過去最多 日本は中国にレッドラインを示さなくてもいいのか

By Kosuke Takahashi

2020年1~8月の中国公船による尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海侵入とその外側にある接続水域内で確認された隻数は合わせて873隻となり、中国公船が初めて領海侵入した2008年12月以来、同期比で過去最多となった。海上保安庁のデータで分かった。

世界各国が新型コロナウイルスの感染対応に追われるなか、中国は引き続き、その間隙を縫うようにして尖閣諸島周辺への接近を増やし、存在感を高めている。海外の識者からは「日本はそろそろ尖閣諸島をめぐって、中国に対してレッドライン(越えてはならない一線)を示す必要があるのではないか」との声も上がっている。

海上保安庁のデータによると、1~8月の中国公船による尖閣諸島接近は前年同期比では5.3%増えた。873隻の内訳は66隻が領海(沿岸から約22キロ)への侵入、807隻が接続水域(領海の外側約22キロ)内での確認となっている。

●過去最長の連続航行

中国海警局の船は4月14日から8月2日まで船が入れ替わりながら接続水域で航行を続け、過去最長となる111日の連続航行を記録した。日本の海上保安庁に相当する中国の海警局は、中国軍の指揮下にある武装警察の傘下に置かれている。

尖閣諸島をめぐっては、8月に興味深い論文が発表された。東アジアの海洋安全保障を専門とする英ロンドン大学キングスカレッジ戦争学部のアレッシオ・パタラーノ専任講師が8月21日、Gathering Storm? The Chinese ‘Attrition’ Strategy for the Senkaku/Diaoyu Islands(筆者仮訳:迫り来る危機?尖閣諸島/釣魚島に向けた中国の「摩耗」戦略)と題した論文を発表した。

この論文の中で、パタラーノ氏は「尖閣諸島/釣魚島周辺での中国の活動はここ数カ月で重大な変化を見せている。これは日中関係にとって潜在的に危険な出来事である」と指摘した。

●「中国は自国の領海内のごとく法執行」

パタラーノ氏は、とりわけ中国公船が尖閣諸島周辺の領海内で、あたかも自国の領海内であるかのように、操業中の日本漁船に接近して追尾をするなど自らの法執行の動きを強めている点を指摘している。

パタラーノ氏が特に注目するのは7月5日で、後に歴史を振り返れば、この日が1つの転機になるだろうと警告している。中国公船2隻は4日から5日にかけて、39時間23分にわたって領海に侵入。日本の海上保安庁の巡視船の退去要求に従わず、領海内で操業する日本漁船の周辺を航行したり追尾したりした。そして、2012年9月の日本政府の尖閣国有化以降で最長の航行時間となった。

尖閣領海内での日本に対する中国の法執行の動きが強まっていることに伴い、パタラーノ氏は日本がそろそろ中国に対してのレッドラインをまとめる必要があるのではないかと鋭く問うている。

ただ、尖閣諸島をめぐって、日本がレッドラインを設けるとしたら、それはどこになるのか。また、レッドラインをあらかじめ示し、中国がそれを越える行動を起こした時、日本はどうするのか。何もしない場合、日本政府の威信失墜をはじめ、ダメージは避けられないだろう。

●「日本は中国公船をプッシュバックしなければならない」

尖閣周辺で活発な動きを強める中国公船の動向について、チャイナウォッチャーでもあるインド外交官は筆者の取材に対し、「日本はその都度、中国公船を物理的にでも強行にプッシュバック(押し返し)しなくてはいけない。さもないと、中国の実効支配を徐々に許すことにつながる」と警告している。

これに対し、第11管区海上保安本部(那覇市)の広報室は筆者の取材に対し、尖閣諸島の領海に侵入した中国公船が、日本の民間漁船を追尾したケースは2020年が最初ではなく、2013年にも既に確認されていると指摘した。

そして、「外国の公船に対し、海保の巡視船が体当たりなどをしての法執行は国連海洋法条約に従い、できない」「中国公船に体当たりして、物理的に追い返そうとすれば向こうに口実を与え、状況がエスカレートしかねない」などと慎重な姿勢を見せた。そのうえで、「領海内に侵入した中国公船に対しては、国内法に基づいてしっかりと対応していく」と述べた。

尖閣諸島をめぐっては、自民党の国防議員連盟(会長・衛藤征士郎元防衛庁長官)が勉強会を重ねており、海保や警察、自衛隊の体制強化などについて政府の2021年度予算編成に間に合わせる形で提言をまとめる考えだ。このほか、自民党の稲田幹事長代行ら有志が8月17日、「尖閣諸島の調査・開発を進める会」を発足させた。

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