麻倉未稀だけじゃない!映画「フラッシュダンス」の正統派日本語カヴァー 1983年 9月5日 アイリーン・キャラのシングル「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」がオリコン1位を記録した日

世界的大ヒット! 映画「フラッシュダンス」とその主題歌

1983年度アカデミー歌曲賞を受賞した映画『フラッシュダンス』は世界的な大ヒットとなり、もちろん日本でも大流行した。どのくらい大きなヒットだったかというと、同級生の女子がある日突然、主演のジェニファー・ビールスと同じ髪型になって登校してきたり、家の近くに突如「フラッシュダンス」というスナックが開店したりしたほど(いずれも実話)。ブームもここまでくれば本物である。当時は滅多に洋楽のレコードを買わなかった自分も主題歌「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」は思わず購入してしまったほど。

映画と共に歌も世界中でヒットし、オリコンの週間洋楽シングルチャートでは1983年7月18日付で1位を獲得してから21週連続でその座をキープ。さらに9月5日付で週間総合シングルチャートにおいても1位を獲得したのだった。総合シングルチャートでの洋楽の1位はノーランズ「ダンシング・シスター」以来3年ぶりのことであったという。

80年代、日本で一番売れた洋楽のシングル

アイリーン・キャラが歌った「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」はビルボードの全米チャートで6週連続1位に輝き、アカデミー賞の最優秀オリジナル主題歌賞、グラミー賞の最優秀女性歌唱賞を受賞した。1980年の映画『フェーム』で一躍スターとなった彼女が再び掴んだ栄光であった。

ドナ・サマーやローラ・ブラニガンら多くのアーティストが参加したサウンドトラック・アルバムもビルボード1位のヒットを記録。日本のLPチャートでも10週連続1位という快挙で、マイケル・センベロの「マニアック」などもシングル・カットされたが、やはり「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」のヒットには及ばなかった。オリコンのデータによれば、80年代に日本で一番売れた洋楽のシングルだったようだ。

麻倉未稀ヴァージョン、大映ドラマ「スチュワーデス物語」主題歌

となると、当然日本人の歌手によるカヴァーも出てくる。70年代まではこういった形でのカヴァーの競作も少なくなかったが、各社から複数の盤が企画されたのはこの時期にしては珍しいケースといえる。本国アメリカでは4月に映画が公開されて大ヒットしていたことで前評判も高かったのだろう。

最も良く知られているキングレコードの麻倉未稀ヴァージョンは1983年7月21日リリース。日本での映画公開日、7月30日に先駆けての発売だった。麻倉未稀自らの訳詞で、アレンジは清水信之。この盤がヒットしたのは『フラッシュダンス』の人気もさることながら、高視聴率を獲得した大映ドラマ『スチュワーデス物語』の主題歌にも起用されてのダブル・タイアップとなったことが大きかった。

ドラマと共にロングヒット、4種類ものジャケット違いが存在

面白いのは、最初に映画主題歌として「フラッシュダンス」でジャケットが刷られた後、ドラマのクレジットが加えられた「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」となり、やがてドラマが主体の「ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス~」とメインのタイトル表記が入れ替えに。最後は映画主題歌のクレジットが外されて、全部で4種類ものジャケット違いが存在している。ドラマの人気が上がるにつれて曲もロングヒットになっていった証拠だ。

当時の体感では、映画『フラッシュダンス』のイメージから次第にドラマ『スチュワーデス物語』のエンディングテーマという意識が強くなり、この曲を聴くと日本航空の機体をバックにスチュワーデス訓練生たちが隊列を組んで歩いている映像が自然と思い浮かぶように刷り込まれていった。麻倉未稀にとってはその後も『スクール☆ウォーズ』の「ヒーロー」、『乳姉妹』の「RUNAWAY」と大映ドラマ主題歌が続くきっかけとなる。

ベテラン 山本リンダもカヴァー、2コーラス目はオリジナルの英語詞

ベテランの山本リンダによるカヴァー盤はシンプルに「フラッシュダンス」のタイトルで、少し遅れてキャニオン(現・ポニーキャニオン)から8月21日にリリースされた。麻倉未稀の訳詞がそのまま歌われており、2コーラス目からオリジナルの英語詞で歌われるのがポイント。アレンジの槌田靖識はたのきん映画第1弾『青春グラフィティ スニーカーぶる~す』などの映画音楽を担当していたことでも知られる。

山本リンダの洋画主題歌の日本語カヴァーといえば思い出されるのが、1969年の「チキチキバンバン」だ。自分は当時親に連れられて観た映画がすっかり気に入って主題歌のレコードを買ってくれと懇願したところ、あいにくサントラ盤が店頭に無く、山本リンダの盤を買ってもらった憶えがある。家に帰って針を落としてみたら映画とのあまりのギャップにショックを受けたものの、聴いてるうちに大好きになってしまった。山本リンダヴァージョンの「フラッシュダンス」を手がけた担当ディレクターは「チキチキバンバン」のことを知っていただろうか。

実力発揮の畑中葉子、さらには宮本典子もカヴァー

そしてちょっと意外なもう一枚は、ビクターから出された畑中葉子ヴァージョンである。「愛はMUSIC」のタイトルで、訳詞が岡田冨美子、アレンジが笹路正徳という布陣。リリースは8月5日。他の2枚とは異なる詞が新鮮に感じるし、平尾昌晃音楽学校(現・平尾昌晃ミュージックスクール)で鍛えられたヴォーカリスト、畑中葉子の実力が発揮された流石の好カヴァーなのだ。

ついでに言えば映画の1シーンがあしらわれたジャケットも景色がいい。さらにもう1枚、アイリーン・キャラと同じレーベルから出された宮本典子のカヴァーは、可愛らしいジェニファー・ビールスのジャケットでまるでサントラ盤のよう。カヴァー盤のジャケデザインのナンバー1に推したい。洋画主題歌の日本語カヴァーはともすると面白レコードに分類されてしまうケースも多い中で、これらは極めて正統派であり、志の高いカヴァーであったことは間違いない。

カタリベ: 鈴木啓之

© Reminder LLC