顔認証に使われているVCSELとは? 急成長市場をさらに加速する技術を日本企業が確立

 近年のデジタル技術の発展には目を見張るものがある。スマートフォンやタブレット端末の高機能化が、その最たるものだろう。スマホに欠かせなくなったカメラ機能は今や、安価な一眼レフやコンデジ程度なら凌駕するほどだし、9月1日から導入されたマイナポイントで話題の電子決済キャッシュレス決済サービスもスマホありきだ。

 しかし、これだけスマホが生活に密着してくると、不安になるのがセキュリティの問題だ。ハッキングなどのサイバー攻撃だけではなく、もしも紛失したり盗難に遭ったとき、勝手に使われると考えると恐ろしい。わずか数分で大きな損害を被ってしまうこともあるのだ。そこで、米AppleがiphoneXで導入したのが、指紋やPINコードによる認証よりも手軽で効果的とも言われる顔認証システムだ。iphoneが顔認証システムを導入したことで、他社のスマホもこれに追従しており、最新型のスマホの多くで顔認証システムが実装され始めているので、すでに活用している人も多いのではないだろうか。

 スマホを操作する際には必ず画面と顔が向き合うので、これほど便利なものはない。でも、これが一体、どういう仕組みで可能になっているか、不思議に思ったことはないだろうか。

 実は、この顔認証を可能にしているのが「VCSEL(ビクセル)」という指向性の高いレーザー光源だ。

 VCSEL は、Vertical Cavity Surface Emitting LASER(垂直共振器面発光 レーザー )の略称で、指向性の高いレーザーの一種だ。もともとは通信用途で活用されていたが、近年ではセンシングシステムの発光部光源としての採用が進んでいる。身近なところでは、スマホ以外に、ルンバなどのお掃除ロボットや VRゴーグルにも使われている。VRゴーグルでは、照射したVCSELの飛行時間を測ることで距離を割り出し、空間をセンシングしている。これは、立体感を出すための重要な役割である。最近では産業用の検査システムや自動車の高性能化によるセンシング需要などでも普及しはじめており、今後ますますVCSELの必要性は増大していくと見られている。

 世界大手の市場調査会社マーケッツ&マーケッツのレポートでも、2020年の世界のVCSEL市場規模は10億ドルで、その後も年平均成長率23.7%を予測し、2025年には29億ドルに達すると見込んでいる。とくにこのコロナ禍において、さまざまな企業による情報交換システムの採用が進んでいることや、5G 通信などによる高速データ転送の普及などが追い風になっているようだ。

 しかしながら、VCSELにも課題はある。

 現在のVCSEL製品は、光を利用するその特性上、太陽光などによる外部ノイズの影響を受けやすいうえに、一部用途では出力、つまりレーザーを照射するパワーが不足しているのだ。

 そんな中、2020年9月1日に日本の電子部品メーカー大手のロームが、最新の空間認識・測距レーザー光源を30%高出力化するVCSELモジュール技術を確立したことを発表した。同社はVCSEL素子とMOSFET素子を、1パッケージにモジュール化することに成功。太陽光などの影響を受けにくくするとともに、従来構成比で約30%の高出力化も達成したのだ。高出力化したことで、空間認識及び測距する際の精度も大きく向上するという。

 今回は、あくまで技術発表という形であったが、今後製品化されれば、スマホなどのモバイル機器の顔認識システムやVRだけに留まらず、車載用LiDARなどに対応する高出力レーザーなどへの発展も期待できる。先日も、トヨタ自動車が今冬にモデルチェンジする新型レクサスLSに、1台当たりLiDERを4個搭載するというニュースがあったが、VCSEL関連の市場は、マーケッツ&マーケッツの予測をも上回る勢いで成長することになるかもしれない。(編集担当:今井慎太郎)

顔認証を可能にしているのが「VCSEL(ビクセル)」という指向性の高いレーザー光源

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