メクル第483号 魚を愛する こざかなクン 中山波音さん

「魚のおかげで視野が広がった」と話す波音さん=西彼杵郡長与町、みんなのまなびば み館

 海や川で魚を釣(つ)っては、包丁できれいにさばいて食卓(しょくたく)に出したり。日本の魚を守りたくて、外来種の駆除(くじょ)に取り組んだり。そんな魚を愛してやまない少年がいます。長崎市の中山波音(なかやまはお)さん(14)=長崎日大中3年=。魚類学者でタレントの「さかなクン」にちなみ、2、3年前から「こざかなクン」と呼(よ)ばれています。

◆中学生で講師(こうし)
 「ヤズは出世魚で、大きくなるにつれて名前が変わります」
 8月23日、西(にし)彼杵(そのぎ)郡長与(ながよ)町内で開かれた「魚の解剖(かいぼう)教室」。4組の親子10人を前に、講師(こうし)を務(つと)める波音さんは魚の特徴(とくちょう)や、天然ものと養殖(ようしょく)ものの違(ちが)いを説明。ハサミとピンセットを使ってヤズの解剖の仕方を教えました。参加者は「心臓(しんぞう)が小さくてびっくり」「エラがすごいとげとげ」と驚(おどろ)いた様子でした。
 教室は「魚は食べるだけじゃなくて、中の仕組みも知ってほしい」と波音さんが企画(きかく)しました。最後には、波音さんがヤズとメジナを刺(さ)し身(み)にして、みんなで試食。「教えるのは緊張(きんちょう)するけど反応がうれしい」と波音さんの顔に笑みが広がりました。

解剖教室で魚の体の仕組みを教える波音さん(左)

◆外来魚を駆除(くじょ)
 3歳(さい)の頃(ころ)から魚の図鑑(ずかん)に夢中(むちゅう)で、小学生になると「本物が見たい」と魚屋さんに毎日通い始めたそうです。4年生の時には、店主の見よう見まねで自分で釣ったベラをさばいて刺し身に。自分用の包丁を持ち、煮(に)魚や焼き魚、揚(あ)げ物なども作るようになりました。
 また、時間があれば海や川へ釣りに出掛(でか)けるようになりました。これまでに釣り上げた大物は43センチのアラカブや70センチのスズキなど。投網(とあみ)にも挑戦(ちょうせん)したいと言います。
 釣りをする中で、気付かされたこともありました。ある日、川で見知らぬ魚が捕(と)れ、調べてみると外来種のブルーギルでした。「元々の日本の魚がいなくなってしまう」。川に網のわなを仕掛けて、外来魚の駆除を始めました。この取り組みは4年生から続けていて、これまで約200匹(ぴき)を捕(つか)まえたそうです。
 昨年からは、長崎市の浦上(うらかみ)川に生息するオオヨシノボリの繁殖(はんしょく)にも取り組んでいます。絶滅(ぜつめつ)の恐(おそ)れがある野生生物をまとめた県の「レッドリスト」にも載(の)っているハゼ科の魚です。自宅の水槽(すいそう)で産卵(さんらん)、ふ化させ、稚魚(ちぎょ)を川に戻(もど)し、希少な生物の保全(ほぜん)にも貢献(こうけん)しようとしています。

◆わらしべ長者
 最近は自宅での飼育(しいく)にも夢中です。「大きな魚を飼(か)ってみたい」と思うものの、買うのは大変。そこで考えたのが…。
 最初は、ひれが破(やぶ)れているために安くなっている小さなフグなどを千円で買ってスタート。自分の水槽で治療(ちりょう)したフグを店に持って行くと、1500円の価値(かち)に。“物々交換(こうかん)”で、熱帯魚のキクラモノクルスに取り換(か)えました。
 その後、同じようなやり方で何十回と物々交換を繰(く)り返(かえ)して、熱帯魚のポリプテルス(5千円)、ピラルク(2万円)、グリーンアロワナ(3万円)などを獲得(かくとく)。ついには7万円のアジアアロワナも手に入れました。まさに昔話に登場する「わらしべ長者」。自宅にある大きな水槽やろ過装置(そうち)も物々交換の中で得た資金(しきん)で購入(こうにゅう)しました。

物々交換で手に入れた魚や水槽。自宅の水槽の前が波音さんの“定位置”です

◆広がる「世界」
 2年前、「そんなに好きなら魚を最優先(さいゆうせん)にした生活を送ってみよう」と母の聡子(さとこ)さん(40)の提案(ていあん)で、海に囲まれた南国フィジーへ。約1週間滞在(たいざい)する間、波音さんは日本と海外の魚の価値観の違いを実感しました。日本では美しい観賞用の魚も、そこでは全てが食用。驚(おどろ)きの連続だったそうです。
 ホームステイも経験(けいけん)。慣(な)れない英語生活でしたが、“魚”を共通言語にして現地(げんち)の人とコミュニケーションを取り、魚の駆除を手伝ったりもしました。
 「魚のおかげで知識(ちしき)が増(ふ)え、視野(しや)も広くなった」と波音さん。魚を通して理科、家庭科、地理、国語…と学びが広がる日々で、次から次に興味(きょうみ)が湧(わ)いてくるようです。「大好きな魚と一緒(いっしょ)にいられるから、将来(しょうらい)は水族館の飼育員になりたい」と夢(ゆめ)も膨(ふく)らませています。

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