新型ランドローバー・ディフェンダー、「史上最もタフな構造」を悪路で試した

道なき道を駆け抜ける本格派のオフローダーであるディフェンダー。その最新モデルがランドローバーブランドとしてはリーズナブルな価格で登場しました。ベンツのGクラスやスズキのジムニーなど、四角いニューモデルが人気を集める中、今度のディフェンダーは?


名車のDNAを引き継ぎ、世界が注目

30年前、シリーズⅢというモデルがランドローバーにはありました。そのルーツは1948年、ローバー・モーター社(ランドローバーの前身)がオフロード向け車両として発売したランドローバー・シリーズIです。実はこのクルマこそ、「道なき道を行く4駆の王者」というランドローバーのイメージを確立した重要なモデルなんです。このシリーズⅠに順次、改良を加えながらシリーズⅢまで進化し、さらに改良を加え1990年に登場したのが旧型ディフェンダーでした。

この時点で皆さんが知っている4WD界のロールスロイスとも呼ばれプレミアムなレンジローバー、軽快で気軽なディスカバリー、そして本格4駆のオフローダーとしてディフェンダーという形で3車種が揃い、ランドローバーのブランディングがより明確になりました。少しばかりややこしい話になりましたが、取りあえずディフェンダーというモデルは都会派のSUVではなく、ワイルドな雰囲気を持ったオフローダーの役割が与えられたわけです。

そして世界一過酷な究極のアドベンチャーレースと言われたキャメルトロフィーの参加車両としても知られ、世界中にファンを多く獲得しながら、2015年の12月まで生産は続けられました。ですから現在でも旧型モデルは中古車市場で人気があります。その中には1,000万円オーバーの極上品もありますし、800万円前後のクルマはざらに多く存在しています。メルセデスのGクラスなどと同じ香りのする、無骨でワイルドでクラシカルな佇まいのスタイルが、その人気の理由でしょう。

今回、その名車の名と歴史を受け継ぐ形で登場したのが、新型ディフェンダーです。それも価格がロングボディの「110」というグレードで589万円からと、旧型の中古車より、かなりお買い得な価格での日本上陸です。当然のように多くのファンは新型ディフェンダーの登場を待っていました。旧型ファンの中には「まぁ、別物だからあまり興味は無いね」という人もいます。でもやはりその正当なるDNAの継承者ということとなれば、話題騒然です。

新型のディフェンダーを試乗

今回、用意されたのは2タイプのボディです。ホイールベースをインチに直した数字、90と110という数字を車名に付けているのですが、これも伝統であり、ショートホイールベースは90(ナインティ)、ロングボディは110(ワンテン)と呼ばれます。ちなみに試乗できたのは110の方で、ショートホイールベース仕様の上陸まではもう少し時間がかかります。

目の前にある実物のボディはやはり“でかい”という印象というか、実際にもかなり大きいのです。それでも、その佇まいは丸いヘッドランプのデザインのお陰もあり、かなり可愛らしい印象に写ります。そこに現代のSUVとすればスクエアなデザインが与えられたため、独特な雰囲気を醸し出しています。

外観もコンセプトもいまだに人気の高い旧型ディフェンダーのDNAを受け継いでいます。

同時にディフェンダーの流れを汲んでいるデザインだということが多くの説明なしでも、すんなりと納得できるのです。この辺の継承の技の巧みさ、上手さはオールドミニとニューミニと同じ感じです。重要なデザインキーを現代風に解釈して、新しいデザインとして成立させることにかけては、国産メーカーにはなかなか出来ない技だと思います。好きか嫌いかは別として単にモノマネでは新型のデザイン、」けっこう魅力的です。

そのボディですがアルミニウム製のモノコックに変更されていて、ニュースリリースによれば「ランドローバー史上最もタフな構造」となっているそうです。さらにサスペンションは前後とも独立懸架を採用したり、走りのすべてが最新の味付けとなっています。当然、その悪路、オンロードとも高い走破性が自慢です。

さっそく走り出してみましょう。現在のところ日本仕様のエンジンとして用意されているのは2リッターの直列4気筒のガソリンターボエンジンで、8速のATミッションと組み合わされます。エンジンの最大出力は300馬力で最大トルク400N・mです。これに対して車両重量は2280kgですから、過不足内エンジンということになるでしょう。今後はハイブリッドモデルや“開発中”とも言われるディーゼルエンジン、さらには投入が遅れているショートボディの90が入ってくれば、さらに新しい走りの味が加わることになるはずですから、楽しみにしたいと思います。

さて静かに目覚めたエンジンの回転を上げスタートします。これが低回転からしっかりとトルクを感じさせてくれるのです。ターボ効果もしっかりと感じられ、適切なミッションの設定と共に不足を感じることはありません。

その巨体の走り心地は

さすがにギュンギュンと走る活発さというか、スポーティな走りではありません。しかしその走りはディフェンダーにとってあまり必要は無いと思います。低い回転でもしっかりとトルクを発揮して、低速でガレ場やオフロードを静々と走り抜ける姿こそ、ディフェンダーの本筋ですから、不足はほとんど感じません。いえ、それどころかワインディングではこの巨体を、そこそこのペースで、安定感もって駆け抜けることが出来ますから日常使いで不満はほとんど感じないと思います。

オフロードの走破性能はかなり高いレベルです。

試乗ルートの途中に設定されたオフロードステージでは本来の実力を発揮。アップダウンが激しく、石がゴロゴロと転がり、そして滑りやすい路面が混在したルートを涼しい顔して走り抜けるのです。この手の4WDは“いかにゆっくり、確実にトラクションを得ながら確実に走り抜けるか”という性能が重要なんです。その点について、かなりレベルの高い性能でした。

一般路に行けばもうレンジローバー並のゆったり感を、標準装備されているしなやかなセッティングの電子制御式エアサスペンションが実現してくれています。市街地から郊外、そしてワインディングと快適なドライブが続きます。室内には穏やかな空気が漂います。インテリアは実の現代的で、いい雰囲気を醸し出しています。もちろんレンジローバーほどの高級感というかゴージャス感はありませんが、ディフェンダーのDNAから言えば、そこまでは不要です。むしろツールっぽさのあるインテリアはこのクルマの雰囲気を壊すことがなく、似合っています。それに細部の作り込みがいいので、十分にクオリティの高さは伝わります。

走り出して2時間。すっかり巨体が手に内にあることに気が付きます。悪くない。価格やデザイン、走行性能など、そのバランスの良さを考えるとランドローバーのベスト、いえ、ベストSUVのように思えてきました。そんな満足感を得ながら試乗を終えようと駐車場で取り回していると、思いの外、小回りが効かない。降りるとき、以外にシート高が高く、ちょっぴり飛び降りるようなりました。駐車枠にはギリギリです。う~ん、499万円のさらにリーズナブルなショートボディの90、早く来ないかぁ、とちょっぴり感じたのも事実でした。

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