【実際どうなの?COVID-19 米物流への影響】

 新型コロナウイルスの発生源と言われる中国・武漢から、アジア・欧州地域へ感染拡大、太平洋を越えてアメリカ本土に上陸し深刻化したのは、今年3月中旬頃。アメリカ・ニューヨーク州の感染者数は425,916名、死者数は25,256名に上る。(2020年8月17日時点 在ニューヨーク日本国総領事館 配信情報参照)

  ニューヨーク近郊在住で国際輸送に携わる仕事をしている筆者から、今春から夏にかけてのCOVID-19による物流への影響と現状を少しご紹介したい。

 5万円で運べていたモノが、50万円に?

  物流総合専門紙・日刊カーゴによると、日系メインキャリアの全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)は2020年4月の国際線旅客便を約9割減として、各国政府の規制や旅客需要の減少に沿う対応を行った。 

 人の移動が制限される事に伴い、主に北米向けのモノの動き、航空運賃にダイレクトな影響を与えた。春先には一日毎に運賃変動という業界でもあり得ない状況を強いられた。その後、一週間毎へと落ち着きを見せてはいったものの、今までと比べ単価3~6倍の高騰具合で、現在もマーケット状況は安定するところを見せない。航空会社は全世界的に旅客収入が限りなくゼロに近い中で、貨物輸送で収入を最大化させるため、皆必死なのがよく見て取れる。普段乗客が利用するシートやキャビネットに貨物を座らせ、貨物専用搭載機として出発させる姿も納得できる光景であった。

  一方、その頃の海上輸送には多少余裕があった。但し、日本から西岸着まで早い航路でも約2週間、東岸部のニューヨーク近郊までであれば更にもう2週間かかるので、製造ラインを止められない緊急品や納期勝負の選択であれば当然勝てない。しかし、夏季を迎えてからはスペース逼迫が始まり、これから徐々に経済活動再開を望む中で来るブラックフライデーや年末商戦に向けて更に混雑していくことだろう。

 街から人は消えても、物流は止まらないことが明らかに

  コロナ関連物資でいうと、サージカルマスクやフェイスシールドの輸出入に関する問い合わせが4~5月頃に急増した。普段そういった商材を取り扱っていない企業からの依頼も多く見受けられた。両品目ともアメリカで輸入するにあたってはメディカルの用途問わず、FDA (Food and Drug Administration = アメリカ食品医薬品局) 該当品であり、事前の申請や登録、製造元の情報開示など、ある程度のハードルがある。因みに中国産品の場合は、Trump tariffという名の関税率UPの対象となる。

  また、米国内企業の稼働や税関・トラック配送状況に対する確認要請が日本側の営業担当者から逐一入るようになったのも同時期だ。私も日本に居たら気になる点である。実際のところは、感染拡大ピーク時も地場トラック業者の稼働状況は至って通常通りで、輸入通関がクリアになり客先の荷受けさえ問題なければ、滞りなく国内の貨物搬出入は出来た。

 それもそのはず、我々運送業は「一部のエッセンシャルビジネス」に分類され営業は止められなかった。物理的に貨物を動かさなければならない事、またペーパーレス化が進んでいないローカル業者とのやり取りも要因として、事務所・倉庫に最低限の人数配置は必要だった。

 日本とは比べるに値しない甚大な感染者数・死亡者数の推移を見て、それは不安な気持ちを毎日抱えながらも、使命感を持って医療従事者や薬局らと同様に、人数を縮小し感染予防対策を打った上で一番深刻な時期も活動を続けていた。私自身と同僚・家族の健康が守られたまま、実務的にも大幅な陸送遅延や混乱に見舞われずピークを乗り切れた事は、かなり幸運だったかもしれない。

  現状は回復に向かっているものの、工場以外、ほとんどの在NY企業オフィスワーカーは、事務所に戻っておらず在宅勤務継続の傾向である。同業他社を含む物流企業も、事務所収容人数50%以内の制限など条件がある為、交代での出社、在宅勤務を織り交ぜての対応が多い。

 なんでもスケールの大きいアメリカ。まだまだ油断できない環境下であり、航空会社や船会社との情報交換・交渉が続きそうだ。

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