アメリカの若者に人気の浪人生活?! 「ギャップ・イヤー」って何?

 「浪人生活、大変だったね」、「三浪してまで国立大学を目指して凄いね」。こんな言葉が日本の大学生や受験生の周りではよく飛び交っている。浪人生たちは予備校に通い、翌年の大学受験を目指す。浪人する……。日本では当たり前のように耳にする言葉だが、アメリカには日本や他のアジア圏の国にあるような予備校がなく、日本語の浪人という言葉が示すコンセプト自体もない。

 その代わりアメリカにあるのは、「ギャップ・イヤー」と呼ばれるシステムだ。ギャップ・イヤーとは、主に学生が大学に合格していながらも、それぞれの理由で大学進学を遅らせて、自由に好きなことにチャレンジする期間のことを指す。これは1年間だけに限られたものではなく、時期も大学卒業後から大学院入学前の年を指すこともある。様々なプログラムを通して海外で活動したり、インターンシップをしたり、スポーツやアートに集中するなど、ギャップ・イヤーの過ごし方は人それぞれだ。

 日本ではほとんど馴染みのないギャップ・イヤーだが、北米だけでなく、メキシコでもそのような選択をする学生が増えてきている。私が大学に合格した時も、オンラインの合格通知には “Accept or defer your enrollment”(当校への入学を受け入れますか、それとも持ち越しますか?)という選択肢があった。また大学のフェイスブックのグループでは、「私は入学を1年持ち越して、イスラエルで1年勉強することにした!」と、実際にギャップ・イヤーを活用する人の投稿もあった。以前、オバマ元大統領の娘、マリアさんがハーバード大学に合格しながらも、ギャップ・イヤーを取り、1年間、映画制作会社でインターンをしたことが話題になった。

 このギャップ・イヤーは、裕福な家庭だからできることなのではないかと思っている人も多い。確かに、ギャップ・イヤーを「働く」という選択以外で活用する場合、生活費や旅費などが必要になる。しかし、アメリカのギャップ・イヤー・プログラムはとても充実していて、スカラシップや補助金が出るものが多いのだ。

 私の仲の良い友達は無償で1年間ロンドン郊外の女子高への留学が認められた。スカラシップを提供した財団は、彼女の家庭の状況、本人の意思の強さや成績などを考慮し、「お金には変えられない留学生活」という経験を無償で彼女に提供することを決めたのだ。また、私のひとつ上の先輩は、“Semester At Sea” という半年間、世界中を船で旅するというプログラムに参加した。彼女はギリシャのサントリーニ島やフランスのニースなどの定番の観光地から、中国の奥地、ミャンマー、ガーナなど、なかなか行けない国や地域を旅していた。半年かけて同じ世代の仲間たちと世界中を旅するのは、人生における最高の経験かもしれない。

 日本では「遅れる」イコール「悪い」と考える人が多い。たとえば、子どもが喋り出すのが遅かった、なかなか歩かなかったなど、「何かをするのが遅い」ことに負い目を感じ、「遅れていることは普通ではない」と考える傾向がある。私は高校2年生の時に、バージニアの学校からコネチカットの学校に転校した時、1年学年を落とすという選択をした。当時は、「遅れをとること」、「日本の友達が大学生の時に自分がまだ高校生であること」に引け目を感じたが、今となっては1年遅れをとったからといって失ったものは何もなく、素晴らしい経験をし、多くの友達と出会うことができたと思っている。

 アメリカでは、“I’m taking a semester off” (1学期を休学している)と言う人が少なくない。学生に限らず、社会人でも “I’m taking a year off next year” (来年1年間、お休みする=1年間、働かない)という人も、たまにいる。もちろん家庭の事情、その人の健康や精神的な理由による場合もあるが、彼らの多くはその1学期、1年を使って普段できないようなことを思いっきりチャレンジする。執筆活動、語学留学、音楽活動など、普通ならなかなかできないことをするのだ。もしかしたら、一見「遅れ」や「休み」に見える時間は、かけがえのない経験を得られる特別な時なのかもしれない。

 常に課題や時間に追われているのを良しとするのではなく、「本当にやってみたいこと」に時間を費やすことを応援する文化が、日本にも生まれたらいいなと私は思う。

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