巨大ウミガメ機、再びハワイの空を泳ぐのはいつ? 全日空、5カ月ぶりに客乗せ遊覧飛行

駐機場で係員(右側)の見送りを受ける、全日空のエアバスA380遊覧飛行参加者=8月22日午後、成田空港

 全日空が昨年、成田―米ホノルル便に投入した総2階建ての超大型機エアバスA380が、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、運航できなくなっている。業績への打撃にとどまらず、機体整備やパイロットの技量維持への影響も大きい。そんな中、海外旅行に行けなくてもハワイ気分を味わってもらおうと、8月に約5カ月ぶりに乗客を乗せた遊覧飛行に登場。好評を受け、第2回を今月20日に実施することが決まった。全日空は10月から部分的にホノルル便を再開する方針だが、まずはA380より座席数の少ない機体を使う。巨大な「ウミガメ」は再びハワイの空を泳ぐ日を心待ちにしている。(共同通信=徳永太郎)

 ▽世界最大の旅客機

 全長72・7メートル、高さ24・1メートル。A380はエンジン4基を備えた「4発機」で、旅客機としては世界最大だ。同じ4発機で、「ジャンボ」の愛称でおなじみだったボーイング747よりもさらに大きい。世界では、中東のエミレーツ航空が最多の100機以上を保有している。

 2005年4月27日に初めて試験飛行し、07年にはシンガポール航空が商業運航を開始した。世界的な航空需要の拡大を踏まえ、長距離、大量輸送での活躍が見込まれ、日本では全日空が08年ごろから導入を検討。さらに、スカイマークが10年に導入をエアバスと基本合意したが、15年の経営破綻で白紙になった経緯がある。

 全日空は、16年に3機の購入を正式に表明。リゾート路線として人気のホノルル便に就航させることを決めた。「ハワイへの想(おも)いを翼に乗せて」と題し、機体のデザインを一般公募。ハワイで神聖な存在とされ、現地語で「ホヌ」の呼び名があるウミガメを全面に塗装するデザインに決め、愛称を「フライング・ホヌ(空飛ぶウミガメ)」とした。

 ▽順調な滑り出しも…

 日本とハワイを結ぶ路線では、全日空のライバル日航や米国の航空会社も含めた競争が繰り広げられてきた。全日空が提携してきたハワイアン航空が2017年に日航への「くら替え」を発表し、争いはますます熾烈になっていた。

 そして19年3月。ウミガメの親子が青色に塗装された初号機が、ついに成田空港に降り立った。同年5月に待望のホノルル線デビュー。翌月にはエメラルドグリーンの2号機も就航した。印象的なデザインや、寝そべることができるカウチシート、520もの座席数。子連れのファミリーを中心に好評を博し、羽田と合わせたホノルル便の旅客数は、昨年7月以降約1・5倍に膨らんだ。

フランスから成田空港に到着した全日空のエアバスA380の初号機=2019年3月

 ところが、そんな順調な滑り出しはコロナ禍で暗転。ハワイ便で乗客を運んだのは今年3月24日が最後となった。ハワイの夕日をイメージしたオレンジ色の3号機は、4月にエアバスから受け取る予定が延期に。初号機、2号機はともに成田空港で翼を休めることになった。

 ▽単一路線、レジャー仕様

 航空業界に深刻なダメージを与えた新型コロナ。特に国際線は、各国の水際対策もあり、影響は甚だしい。主な国内航空会社の今夏のお盆期間の旅客数は、国内線が前年同期比60%減に対し、国際線は97%減。こうした問題は、業績だけにとどまらない。

 北米や欧州との路線を担う大型機のボーイング777や787は、乗客がいなくても工業製品などの貨物輸送はある程度の需要が続いており、貨物便として既存路線で運航を継続した。一方、全日空のA380が就航しているのはレジャー路線のホノルル便だけ。貨物便としての需要は見込めず、膨大な座席数とハワイ仕様のデザインは出番を完全に失った。

 旅客機のパイロットは、「型式限定」といい、操縦できる機種が決まっている。A380の機長や副操縦士は通常、A380の乗務にしか携われない。他の機種のパイロットは、フライトの機会は減ったものの乗務は可能だが、A380のパイロットは操縦することができなくなった。一定期間ごとの乗務をこなせないため、資格維持すら難しくなってしまった。

 このため、全日空ではA380のパイロットの多くが、2~3週間の訓練を経て、小型機のA320など他のエアバス機の乗員に移行した。エアバス機の場合、機種が違っても基本的な操縦方法は同じで、比較的、機種移行がしやすい。テスト飛行などのためA380にとどまるメンバーは、今後フランスでシミュレーター訓練を受け、資格を維持する。

 ▽遊覧飛行に応募150倍

テスト飛行する全日空のエアバスA380の2号機=6月(同社提供)

 機体は、メーカーの規定で90日間全く飛行しないと、格納庫でくまなくチェックする整備作業が必要になる。このため、全日空のA380は、初号機、2号機とも6月に乗客なしで「成田発成田行き」のテスト飛行を実施した。

 これを知ったファンから「乗せてほしい」との声が相次いだことを受け、全日空は8月22日に遊覧飛行を実施。夏休みに海外旅行ができない乗客の要望に応えるだけでなく、結果的に大がかりな整備作業も回避できた。

全日空のエアバスA380遊覧飛行に参加し、係員から記念品を受け取る家族連れ=8月22日午後、成田空港

 遊覧飛行の料金は約1時間半のフライトに対し1万4千円からファーストクラスの5万円まで。決して安価ではないが、初回は締め切りまでの6日間に約150倍の応募があった。好評を受け、初回に飛ばなかった2号機による遊覧飛行を9月20日に行うことが決まった。

 国際線は大幅な減便が続く。全日空は10月、ビジネスや留学の需要を念頭に、成田―ホノルル便を2往復だけ運航する方針だが、使用機種はボーイング787。座席数の多いA380のホノルル便再開時期は未定だ。全日空の担当者は「A380の復活に向け、お客様が安心して旅行できるよう、感染対策も万全に整えたい。一刻も早い感染の収束を祈っている」と話している。


 【エアバスA380】

 欧州の航空機大手エアバスが製造した世界最大の旅客機。座席の多さに伴い採算性が厳しく、エアバスは19年、受注低迷を受け生産終了を発表した。大型機に対応した搭乗橋など空港インフラの整備が必要なこと、燃費性能が良い機種を選ぶ傾向の強まりが低迷の要因とされる。新型コロナの影響で今年5月、エールフランス航空が22年末に予定していたA380の運航終了を前倒しすると発表した。

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