航空機の技術とメカニズムの裏側 第241回 航空事故を技術的に考察してみる(13)地上の施設における問題

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機体だけでなく地上の施設・設備も加わって1つのシステムを構成している以上、地上側の話も不可欠のもの。航空事故についても事情は同じで、地上側の施設が問題になるケースもある。

飛行場を間違えた!

といっても、施設の水準が高いとか低いとかいう話だけではない。飛行場の所在地、現地の気象条件、現地の地形といったものも、飛行安全に影響する。

ときには、信じられないような事故が起きることもある。その1つが、1972年9月24日に発生した、日本航空のDC-8による「降りる空港を間違えた事故」。場所はインドのムンバイ(当時はボンベイといっていた)である。

今もそうだが、ここには大小2つの飛行場がある。街の中心に近い側にあるのが、チャトラパティ・シヴァージー国際空港(現名称。事故当時はサンタクルーズ国際空港)。滑走路は09/27(長さ3,445m)と14/32(長さ2,925m)の2本があり、もちろん前者がメインである。

さらにその西方、海岸に近いところに、ジュフー空港がある。こちらの滑走路は08/26(長さ1,143m)と16/34(長さ731m)の2本。規模はだいぶ違うし、額面の数字は10~20度ほど違うが、基本的な滑走路配置は似ている。御近所にあるのだから、風向きなどの条件は同じだろうし、配置が似てくるのも無理はない。

そして、西方から東向きに滑走路09に進入していた日航機は、間違って手前のジュフー空港に下りてしまった。しかしこちらは滑走路が短いので、止まりきれずにオーバーランして停止。死者が出なかったのは幸いだったが、機体は回収できずに現地解体となった。

この件のオチは、同じ1972年の12月14日に、今度は東ドイツ(当時)のインターフルク航空が運航するIl-18が、同じように間違えてジュフー空港に降りてしまったこと。まだ日航機はそのまま残っていたが、幸いにも地上での衝突は避けられた。

同じような事故が複数起きているのだから、これはもう、似たような配置の飛行場が近接して存在していることにも一因がある、といわれても仕方ない。なにしろ、両方の空港の滑走路交差点同士の距離を測ってみたら、3.7kmぐらいしかない。これは成田空港のA滑走路(34L/16R)より短い数字だ。

確実な解決策としては、すべての滑走路のすべての方向に計器着陸装置(ILS : Instrument Landing System)を設置するしかない。日航機が間違いを起こした当時、滑走路09にはILSが付いておらず、しかも時間は朝。太陽に向かって進入する形になったので、そういう意味では視界条件が良好だったとはいいがたい。

気象条件が厳しい

飛行場の所在地によっては、悪天候が多かったり、霧が出やすかったり、といった問題が生じることもある。もちろん、滑走路が滑りやすくなる上に視界が悪化するので、降雨・降雪も問題になる。飛行場の場所によっては、天気が悪い日の方が多い、なんていうこともあるかも知れない。晴天率が問題になるのはスキー場だけではないのだ。

それに加えて、横風という問題もある。なにしろお天気商売だから、常に滑走路の向きに合わせて風が吹いてくれるとは限らない。横風用滑走路があればマシだが、それとて風向きが多少ずれることはあり得る。

しばらく前に、例の「都心上空の新ルート」経由で羽田に降りたことがあったが、たまたま当日は横風がかなり強く、ちょっぴりスリリングな思いをした。といっても、恐怖感を感じたわけではない。怖いということなら、盆暮れ正月・ゴールデンウィークに高速道路を走るほうがずっと怖い。

日本だと、かつては霧で閉鎖になりやすい空港として釧路空港の名前が挙がることがあったが、今はカテゴリーIIIbのILS設置によって欠航は激減した。釧路空港の公式Webサイトに「霧対策について」というページがあることからして、過去に霧で悩まされていた事情をうかがわせるものといえる。

霧対策について | たんちょう釧路空港
https://www.kushiro-airport.co.jp/mist.html

地形条件が厳しい

開けた平らな土地にある飛行場ならいいが、山間部、例えば谷間の狭い平地にある飛行場だと、条件が厳しくなる。というのは、谷間を通ってアプローチしなければならないからだ。左右に逃げ場のない谷間に向かって降りていくのは、あまり気分のいいものではないだろう。

その谷間が直線的ならまだしも、曲がりくねっていると、離着陸時に頻繁な旋回を強いられたり、着陸直前まで滑走路を視認できなかったり、なんてことになる。土壇場まで滑走路を確認できないのは、なかなかおっかない。

「山麓の狭い斜面を切り開いて滑走路を作ったために、着陸の時は山に向けて進入、離陸の時は山を背にして離陸するしかない」なんていう飛行場もある。こうなると、風向きに合わせて滑走路を使い分けることができないから、条件が厳しい。風向き次第では、追い風になってしまう。しかも、どん詰まりに山がある滑走路に向けて進入することになれば、何かまずいことになっても着陸復航ができない。

山の頂部に猫の額みたいな狭い平地を確保して滑走路を作ったために、長さが短い上に傾斜がついた滑走路になった、なんていうこともある。そういうときは普通、登り坂になる向きに着陸、下り坂になる向きに離陸するわけだが、これもまた、風向きに合わせた滑走路の選択を阻害する要因になる。

もっとも、こういう条件の厳しさで世界的に名前が轟き渡っているような飛行場は、往々にして「地元で経験を積んだパイロットしか降りられない」といった規制を課しているもの。しかし、誰もが最初はルーキーなのだから、どこでどうやって経験値を上げていけばいいのか、という課題は残りそうだ。

著者プロフィール

井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。