飛躍的な進化でライバル不在!?
2013年5月、メルセデス・ベンツはドイツ第2の都市ハンブルクにあるエアバスの工場敷地内で、世界中から約750人ものジャーナリストを集め、現行Sクラス(W222)のワールドプレミアイベントを開催した。
当時、幸いにもこのイベントに参加する事ができた筆者は、この工場で生産されるA380とともに登場したSクラスのエクスクルーシブで強烈な存在感に圧倒されたのを鮮烈に憶えている。
あれから7年余りが経ち、2020年9月2日にW223と呼ばれる新型Sクラスが発表された。だが今回はコロナ禍の中でのお披露目となたため、前回のようなド派手なイベントは行われず、オンラインによる「デジタル・ワールド・プレミア」となった。それも23分弱の動画が公開されただけだ。
しかし新型Sクラスは、お披露目方法こそ地味だったが、従来型が見せた2世代前のモデルからの進化をさらに超える、驚異的な飛躍を遂げている。最新モデルなのだから当たり前と言ってしまえば元も子もないが、あらゆる面でBMW 7シリーズやアウディA8といったライバルを突き放したと言っても過言ではない。
らしさを継承しつつデザイン大胆変更!
まずデザインだが、ゴードン・ワーグナー氏が率いるメルセデス・ベンツのデザイン部門が提唱するデザインフィロソフィ「Sensual Purity(官能的純粋性)」を具現化した、Sクラスとしてはやや薄味な、すっきりとした印象となっている。
これは、可能な限りプレスラインを排除し、面の抑揚でクルマを形作る、現行Aクラス以降のモデルに用いられている手法から生まれたものだ。
写真で見るかぎり、従来モデルのような押し出し感や威厳、重厚感などは薄まった感があるが、リヤに向かって下がるドロップラインや、三日月型のサイドウィンドウ、リアウィンドウとCピラーの形状など、歴代Sクラスとの繋がりを感じさせる造形が、このクルマがやはりフラッグシップ「Sクラス」である事を明確に印象づけている。
ボディサイズは、ショートホイールベースが全長5179×全幅1954×全高1503mmで、従来モデルより54mm長く、55mm幅広く、10mm背が高い。ホイールベースは71mmも伸びているのだ。
一方のロングホイールベースは、全長5289mm、ホイールベースは3216mmとショートよりそれぞれ110mm長く、従来モデルより全長が34mm、ホイールベースは51mm伸びているというイメージだ。
オプションのフラッシュドアハンドルを選べば、全幅は1921mmとなる。またドアミラーを開いた状態の全幅は2019mmで、従来モデルより21mm小さくなっている点からは、少しでも取り回しとエアロダイナミクスを良くしようというメルセデスの気概がうかがえる。ちなみにCd値は0.22と、世界最高レベルを実現している。
スッキリ豪華がキモ! 注目は正方形モニター
インテリアも大変身を遂げた。とくにインパネは、直線的な造形となり、エアコン吹き出し口も丸型から長方形に。横長の大型ディスプレイが消えて、12.8インチ(標準は11.9インチ)と従来から64%も大型化したOLEDタッチディスプレイが、センターコンソールから立ち上がっている。またドライバー正面には12.3インチのOLEDの3Dディスプレイが備わる。
様々な機能が大型タッチディスプレイに集約され、物理スイッチが最小限となったことで、インパネ周辺はかなりスッキリとしている。
結果、見た目のラグジュアリー感は曲線を多用した従来モデルより薄まったようだが、シームレスにドア側と連続する、精緻な加工が施されたパネルやアンビエントライトが際立ち、凜としたハイクラスなイメージは高まった印象を受ける。
最高級サロン並みの快適性! マッサージ機能も大幅強化
またボディサイズ拡大により、室内空間も横方向と後席レッグスペースを中心に、さらに広くなった。
シートは完全に新設計で、特に後席は従来から備わる「クッシェルキッセン」と呼ばれるスーパーソフトクッションに新たにヒーター機能を装備。またこれまではアームレストに備わっていたヒーターが、新たにドアパネル側にも内蔵されるなど、一層きめ細やかに作り込まれている。
シートには10種類ものマッサージ機能が搭載されている。
このマッサージ機能は、ドライブデータやウェアラブル機器の情報に基づいて適切なフィットネスやウェルネスプログラムを提案するENERGIZING COACHや、従来モデルで話題となった専用のフレグランスを車内に満たし、イオナイザーも備えたAIR-BALANCEパッケージ、そして美しい映像や4Dサラウンドサウンドとともに、ENERGIZING COMFORTプログラムの一部としても機能する。もはや最高級のサロンスペースのようだ。
イヤな騒音ほぼ排除! 歴代最高の静かさ
だがメルセデス・ベンツが、これら以上に協調するのが静粛性だ。新型はエンジンノイズやロードノイズの車内への侵入を、これまで以上に徹底的に抑え、さらにボディに発泡ウレタンを充填させるなど、NVH低減に労を惜しまずに開発した結果、過去に類を見ない「静寂な空間」を実現したという。
結果、乗員の五感全てに上質な経験を提供する、さらに上のレベルのラグジュアリーを実現したというのだから、とても楽しみである。
【筆者:竹花 寿実】