2020年F1第8戦イタリアGPは、アルファタウリとホンダがタッグを組んで50戦目の節目のレースだった。イタリアに拠点を構えるアルファタウリにとってのホームレースを迎えたこの週末、10番グリッドからスタートしたピエール・ガスリーがF1初優勝を挙げた。
ホンダF1の山本雅史マネージングディレクターは、強い思いを持って2020年シーズンに臨んだというガスリーの優勝を嬉しく思っているといい、表彰式ではホンダの名前が呼ばれたことに感極まったと語った。
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──まず、優勝した率直な感想をお願いします。
山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):ホンダがF1に2015年に復帰して、マクラーレンと3年間、厳しいながらもいい経験を積みました。その後、我々はアルファタウリの前身であるトロロッソとパートナーを組むこととなったわけですが、当時我々がまだわからない領域があるなか、トロロッソはフランツ・トスト代表をはじめ、スタッフのみなさんが、非常にオープンに迎え入れてくれました。
そんなアルファタウリと共に戦う50戦目の節目のレース、しかも彼らのホームレースとなるイタリアGPで我々と共に戦ってきてくれたガスリーが優勝したことをとてもうれしく思います。
──レッドブル・ホンダとはまた違う喜びがありますね。
山本MD:やっぱり、表彰式の場内アナウンスで勝者を紹介する際、“スクーデリア・アルファタウリ・ホンダ”と呼んでくれたときは、喜びもひとしおでした。レッドブルとは4回優勝していますが、そこでは“ホンダ”という名前は呼ばれないので、今回は感極まるものがありました。
(※編注:アルファタウリがFIAに申請している正式なチーム名は『スクーデリア・アルファタウリ・ホンダ』であるが、レッドブルは『アストンマーティン・レッドブル・レーシング』のため、過去4回の表彰式では『ホンダ』の名前が勝者としてアナウンスされることはなかった。)
──手応えは感じていましたか。
山本MD:じつは金曜日のミーティングで、トスト代表が「このレースも含めて、ムジェロとイモラで行われるイタリアでの2戦は何がなんでも上位を目指すぞ」とチームに檄を飛ばし、気合が入っていました。
今回我々はトロロッソ時代も含めて50戦目を祝ったステッカーを作り、それをマシンに貼ってくれたのですが、アルファタウリ側は“移動する一般の車にも貼ろう”というぐらい喜んでくれました。
50戦というのは、この世界では小さな数字ですが、ステッカーを貼ることで少し彼らのモチベーションが少しでも上がるきっかけとなってくれていたとしたら、良かったと思います。
──ということは、50戦記念のステッカーを作るという企画を立てたのは、ホンダ側だったのですか。
山本MD:そうです。F1の広報を務めている鈴木(悠介)が提案してくれ、「良いアイデアだから進めなさい」と指示しました。
──それでスターティンググリッドでカメラに収まっていたんですね。
山本MD:土曜日にトスト代表とミーティングしたとき、「日曜日のレース前に、50戦目のステッカーと一緒に写真を撮ろう」と言ってくれ、「じゃ、グリッドにしましょうか」ということになりました。グリッドに入ることができるパスの関係で、田辺(豊治/F1テクニカルディレクター)が参加できなかったのが残念でした」
──ホンダはレッドブルと組んだときに、トップチームの彼らをワークス扱いせず、アルファタウリもレッドブルと同じパートナーとして平等な関係をこれまで築いてきたわけですが、そのアルファタウリが結果を出したことはホンダとしても、うれしいですね。
山本MD:じつはトロロッソと組み始めた後、しばらくしてレッドブルとの交渉を始める前に、トスト代表に断りを入れに行ったんです。そして、「ホンダとしてはレッドブルとも組みたい」という話をしたら、「もちろん、やりなさい」と言って、さらにこう続けたんです。
「トロロッソと組んでF1に勝つには5年はかかるから、ホンダはレッドブルと組んで、早く勝ちなさい」
私はその言葉が忘れられなくて、アルファタウリとも5年以内に勝とうと思っていましたが、まさか50戦(3年)目で勝てるとは思っていませんでした。
──そのうれしいアルファタウリ・ホンダとしての初優勝は、3年前までパートナーを組んでいたマクラーレンの追撃を抑え切った末の勝利でした。どんな気持ちでしたか。
山本MD:正直、マクラーレンに勝ったことはうれしいですが、私はマクラーレンと喧嘩したわけではないし、(アンドレアス・)ザイドル(マクラーレン代表)ともよく話す仲なので、表彰台の下でもお互いに“おめでとう”と健闘を称えあっていました。まあ、ホンダ全体としてはマクラーレンに負けたら悔しいと思う人のほうが多いでしょうから、勝ててよかったです。
──表彰台の下では、トスト代表とも話をしていましたね。
山本MD:『ホンダ・パワー!!』って、喜んでいました。
──日本はもうすぐ月曜日の朝を迎えますが、お祝いのメッセージは届いていますか。
山本MD:復帰後、初優勝したときと同じくらいのメッセージが届いています。その中には八郷(隆弘)社長からのものもあって、「アルファタウリ・ホンダとして勝ったことが本当にうれしい」と何度も祝福のメッセージを送っていただいています」
──今日はガスリーが素晴らしい走りを披露しました。
山本MD:今年のレースに賭けるガスリーの思いは半端じゃなかった。3月に開幕戦の予定だったオーストラリアGPでガスリーと話をしたとき、彼の身体がすごく引き締まっていたんです。
その後、オーストラリアGPは新型コロナの影響で中止なったわけですが、その日の夜に「僕は今年に懸けているんだ」とメッセージを送ってきて、昨年までとは違う思いでシーズンに臨んでいることが伝わってきました。その後、7月にF1が再開した後も、一戦ごと逞しくなっていました。
──アルファタウリも成長しましたね。
山本MD:ドライバーだけでなく、チームもいい仕事をしました。現在のモータースポーツはドライバーの力だけでは勝てない。いい戦略を立てて、レース展開を自分たちに有利になるように引き込んでいかないと勝てません。もちろん、ピットインした時点ではセーフティカーが導入されることは知る由もなかったわけですが、いい判断だっことは間違いありません。
──最後に日本のモータースポーツ界へ。
山本MD:ガスリーは2017年に日本でスーパーフォーミュラを戦っていたドライバーです。そんなドライバーがその後、F1へ羽ばたいて、表彰台の頂点に立ったという今回のレースは、SRS(鈴鹿サーキット・レーシングスクール)の生徒も含め、日本でレースしているドライバーたちにとっても、大きな励みになったという点で良かったと思います」