モーリシャス沖事故から見る、知られざる海運業界

TOKYO MX(地上波9ch)朝のニュース生番組「モーニングCROSS」(毎週月~金曜7:00~)。8月26日(水)放送の「オピニオンCROSS neo」のコーナーでは、矢野経済研究所 社長の水越孝さんがモーリシャス沖事故から考える“外航海運における安全への課題”について述べました。

◆モーリシャス沖座礁事故、3つの疑問点

商船三井がチャーターした長鋪汽船所有の貨物船「WAKASHIO」がモーリシャスの沖合で座礁した事故で、貨物船が事故の前、地元の沿岸警備隊からの複数回にわたる呼びかけに応じていなかったことがわかり、警察は当時の船内の状況について詳しく調べています。「WAKASHIO」は7月25日に座礁し、その後、燃料の重油などが大量に流出していました。

今回の事故に関し、水越さんは3つの疑問点を提示。1つは「運航会社と船主(オーナー)は違うのか?」。2つ目は「船主は岡山の会社なのに、なぜパナマ船籍なのか?」。3つ目は「なぜ船の船長がインド人なのか?」。

そもそも船は建造費が高く、固定資産が大きくなりがち。さらには原油、資源、為替など市況に大きな影響を受けるため、それを回避するために運航会社は船の持ち主を分離させることが多いと言います。例えば、商船三井も日本国籍船を社有しつつ、海外に作った子会社から船を借りることもあるとか。そんな構造だけに船をレンタルする事業が成立し、長鋪汽船がまさにそれにあたります。そして、長鋪汽船の本社は岡山ですが、税金が安いのでパナマに子会社を作り、「WAKASHIO」もそこの船となっていました。

現在船員の数は世界で約120万人いるなか、日本人は5,000人程度。船員を手配する会社が数多くあり、3つ目の疑問点であるインド人船長についても、今回の長鋪汽船は香港の会社に委託していたことがわかっています。

◆安全な外航海運に向け、今世界がすべきこと

船の事故の約7~8割は操船ミスをはじめ「人為的な原因が多い」と言います。そこで海運業界も自動車業界などと同様に自動航行に取り組んでおり、国交省は2025年の実用化を目指し、さまざまな実験をしています。例えば、5月には400Km離れた場所からタグボートを操船する実験に成功。商船三井も新たな実験をスタートさせようとしていたとか。

また、商船三井は2006年に発生した重大事故以来、"船長を孤独にさせない”ための安全対策を社内で整備していました。これは衛星を使って24時間365日体制で全運航船を監視、リアルタイムで気象や国際情勢、海賊などの情報を船と共有する仕組みですが、航行に関して最終的にものをいうのは「やっぱり人」と水越さん。

外航海運においてはいろいろな国籍の人が関わっているのが現状で、船員は生活習慣や文化や言語、歴史、安全への価値観や意識も違います。そういったなかで「安全意識をどう共有し、国際ルールの中で船を運航させるかが大きな課題」と指摘し、「外航海運の産業構造と、それゆえの安全航行の問題点、リスク、課題をあげ、世界の関係者でルールを作り、意識を共有していくことが解決に繋がる」と明言します。

今回の事故の賠償責任は船主である長鋪汽船が負うことに。水越さんによると、船をレンタルする場合、船長と船員と船をセットで貸し出す「定期用船」と、船だけを貸し、船員や船長は運航会社が調達する場合があり、前者は船主、後者は運航会社の責任になると解説。今回の場合は前者にあたり、水越さんは「こういった構成も国際的に決まっているが、大きい事故の際にどう対応していくかは考えていく必要がある」と話していました。

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<番組概要>
番組名:モーニングCROSS
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
レギュラー出演者:堀潤、宮瀬茉祐子
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/morning_cross/
番組Twitter:@morning_cross

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